第23話 サラ金
次はサラ金の支払いだ。
近くのATMではなく、駅前にある支店まで行かないとならない。
役場から自転車を漕ぎ、いつもの駅近くの駐輪場に自転車を停めて、そこから駅方面ではなく街の方に歩いて行き、怪しい看板しかない雑居ビルに入っていく。
小さいエレベーターに乗って目的の階まで上り、短い廊下を進むと、サラ金の支店の扉があるので中に入る。
「いらっしゃいませ、お借入ですか?」
若い女の店員さんが話しかけてきた。
「いや、返済です」
「ではカードをお預かりします」
言われた通りに、使っているサラ金のカードを渡す。
「お掛けになってお待ちください」
と残すと、女の店員さんは奥へと消えていった。
敬太は言われた通り席に座り待つ。
エアコンが効いた店内には、他に誰もいない。カウンターには「ご自由にどうぞ」と籠に入った飴があったが舐める気にはなれず、奥に行った女の店員さんの作業する音を聞きながらぼんやりとしていた。
しばらく待たされたが、女の店員さんが戻ってきて、持ってきた紙を指差ししながら説明してくれた。
「今月は22,900円になりますね」
しまった。これは、きっちり伝えていなかった自分が悪いな。
「すいません。あの、全額返済したいのですが・・・」
「あっ、かしこまりました。少々お待ちください」
嫌な顔せず対応してくれた。若いのに出来た店員さんだ。
こんな一括で全額返済なんて初めてするので、舞い上がってしまっていたようだ。しっかりと用件を伝えなかった自分が悪かったなと反省しながら、店員さんを急かす事無く待つ事にした。
10分近く待っていると、ようやく女の店員さんが戻ってきて、何枚か紙を持って来ていた。
「ではこちらの490,890円になりますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
用意していた50万円をトレーに置いた。
「では、お預かりします」
女の店員さんは、お金が乗ったトレーを引き寄せ、お札の枚数を数え始めた。慣れた手つきでパッパッパッと1回数え終えてから、もう1回数え直している。
「少々お待ちください」
金額が間違いない事を確認すると、トレーとお金と紙を1枚持って、また奥に消えていった。
今度はそれほど待たされる事なく戻って来た。手には数枚の紙と、お釣りが乗ったトレーを持っている。
「お待たせしました、こちらお返しになります。それとこちらが借用書ですね。カードの方はどうしますか?」
「どうすると言うと?」
意味が分からず聞き返してしまったが、女の店員さんはこんなやり取りに慣れているのか笑顔のまま答えてくれた。
「こちらのカードはもう使えないので、こちらで破棄してしまってもよろしいですか?」
どうなんだろ、もうお金を借りる気も無いし、カードはいらないかな。
「じゃあ、お願いします」
「はい、ではこちらでハサミを入れますので、見ていて下さい」
急に「見てて」と言うと、女の店員さんはハサミを取り出し、敬太が使っていたサラ金のカードを、目の前で半分また半分とジョキジョキ切り始めた。ちょっと驚いたわ。
「では、後はこちらで破棄しておきますので」
なるほど、このカードを切る儀式は、悪用しないよっていうポーズなのだろう。決まり事なのか規則なのか法律なのか知らないけど、カードを切られたら使えないもんね。
女の店員さんにスッと差し出されたお店の封筒に、お金を借りる時に書いた借用書やら、渡された何枚かの紙を自分で折って入れて、それをウエストポーチにしまい席を立つ。
「どーもお世話様でした」
「はい、ありがとうございました」
若いのにちゃんとした、女の店員さんでした。
こうして、サラ金1件を片づけた後に、更にもう1件も完済させてきた。
そこでも同じ様に、カードをハサミでちょん切る儀式を見せられてきた。
これで残りのサラ金は2件、丁度半分の借金が消えた事になる。おかげで手持ちのお金が、ほぼ無くなってしまったけれど清々しい気持ちになれた。
サラ金の返済作業に結構時間がかかったので、お昼をとっくに回ってしまっていた。
駐輪場から自転車を出すと、急いで家路につく。
家に戻ると、急いで父親にお昼ご飯を食べさせる。お昼の時間はとうに過ぎてしまっているのだ。急ぎながら敬太も軽くご飯をつまんで、歯磨きをしてから、さっさと寝た。今日から夜勤の仕事があるのだった。
翌々日の午前中。ママゾンから荷物が届いた。先日頼んだ、チェンソー用の防護服。パトロールグローブ、モトクロスバイク用のヘルメットとゴーグル。全部で6万ちょっとのお買い物だったものだ。
さっそく、荷解きをして身に付けてみる。
サイズ感や動きやすさとかを確認して、問題が無いか確認しておく。
今日は荷物が届くのを待っていたので時間が無いが、明日はダンジョンに行こうと思う。
翌日。仕事を終えてから家に帰り、父親に朝ご飯を食べさせたりして世話をしたら、早々に駅に向かう。
今の敬太の格好は、作業ズボンにジャンパーと普通だ。ヘルメットを袋に入れた物を小脇に抱え、チェンソー用の防護服上下が入った大きな紙袋を手に持ち、リュックとウエストポーチ。
チェンソー用の防護服はオレンジ色が多く使われているので、とても目立ってしまう。なので、紙袋に入れて持って来たのだった。
荷物が多いからと言って目立ってないよね?
「ピピッ」
改札から改札部屋へ。
「ピッ」
流れるようにロッカーを開け、着替え始める。
ジャンパーを脱ぎハンガーにかける。中には防刃ロングTシャツを着ていて、その上にロッカーにしまっていた防刃ベスト着こむ。
下は作業ズボンの上に持って来たチェンソー用の防護ズボンを穿く、丈夫なテント生地で頑丈そうだ。
足元はロングブーツの安全靴、つま先には硬いプラスチックが入っている。
上にもチェンソー用の防護服を着る。さらに、ネックガードを付け、ヘルメットを被りゴーグルも付ける。
手にはパトロールグローブと言う合成皮革っぽい黒い手袋。アメリカで開発されたもので、相手が持っているナイフをグローブで掴んでも大丈夫という、切りつけられても刺してきても破れにくいものらしい。
頭には3つのヘッドライトを付け、広範囲を照らす。
首からも2つネックライトで足元を照らす。
脇腹の辺り、左右のランニングライトが前方を明るくし、ウエストポーチのベルトに作業灯2つ、両脇を広範囲で照らす。
リュックにランタン1つで後方を照らす。
手には軍用ハンディライト、こいつが一番明るいのかもしれない。
背中にバットケースを斜め掛けにして中身は木刀2本。その上にリュックを背負い、中身はペットの卵とお茶、タオルが入っている。最後に肩につるはしを担ぐ。
長い装備を終えた。
ロッカーの鏡に装備を終えた敬太の姿が映る。オレンジ色の防護服に包まれ、世紀末覇者の三男坊のようなヘルメットをかぶっている。
肩にはつるはし。街で会ったら逃げ出すような格好してるな。今更だけど・・・。
今日は扉から出て右手側に行く。スキルって奴の試運転をしたかったのだ。
動かないダンゴムシは格好の的になるだろう。
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