音声日記

橘 志依

第1話 8月20日(金)

「日記を書こうかな」

「音声日記を起動。8月20日(金)の日記を開始します」


「今日はさ、ずっと浮かれちゃって仕事にならなかったよ」

「何かありましたか?」


「うん、明日が彼女の誕生日でデートの約束してるからさ」

「デートが楽しみなんですね」


「そりゃね。でも、どこに行こうか考えていたら、仕事に手がつかなかったよ」

「決まりましたか?」


「まだ。土曜日だし、一日中出掛けられるって思ったら決まらなくてさ」

「昨年は雨が降って、彼女に怒られたと言っていましたね」


「げっ。そうだっけ? なら、今回は屋内デートでも良いかな」

「屋内と屋内で候補を挙げて、当日選んでもらうのはいかがでしょう」


「その案、採用。でも、どこに行こうかな」

「屋内ならば水族館。屋外ならば植物園がお薦めです」


「あ、それは違う。前の彼女の好みだ。今の彼女は違うよ」

「失礼しました。登録事項を修正します」


「今の彼女は、ゆっくり過ごす方が好きなんだよね。カフェでお茶したりとか」

「その傾向の女性ならば、映画を見て、カフェへ行くデートが定番です」


「定番過ぎないかな?」

「過去の傾向から、女性は定番を喜ぶ可能性が高いかと思います」


「なるほどね。最初は定番も良いか」

「今の彼女は、初めてのデートですか?」


「うん。先月付き合ったばかり。忙しくてメールや電話ばかりだったからね」

「……情報を更新しました。具体的な日付を登録しますか?」


「急に機械っぽくなるな。登録するよ。7月14日だよ」

「登録しました」


「ありがと。さて、と。本格的に決めないとまずい時間になってきたな」

「現在の時刻は22時43分。そろそろ眠らないと、明日寝不足になりますよ」


「今度はお母さんっぽくなった。明日は11時に待ち合わせだから」

「そうでしたか」


「うん。でも、そろそろ休むよ。記録終了ね」

「記録を終了します。本日の日記を確認しますか?」


「確認しようかな」

「再生します」


『8月20日、金曜日。今日は明日のデートに浮かれて仕事に集中ができなかった。明日のデート場所もまだ決まっていない。どうしようか。今の彼女と付き合ってから初めてのデートだから、どうしても、気合いが入ってしまう。好みから考えると、映画を見て、カフェでゆっくり話すのはどうだろうか。定番過ぎる気もするが、明日、提案してみて選んでもらおう。早めに眠って、明日に備えないと』


「以上が本日の記録です。修正しますか?」

「いや、このままで良いよ」


「登録しました。前回の記録から、一月以上が経過しています。日々の記録を継続して録ることをお勧めします」

「わかったよ。明日からは頑張るよ。おやすみ」


「おやすみなさい」

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