第8話『ダークサイドストーリー・4』

魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな!・8

『ダークサイドストーリー・4』        



 雅部利恵(みやべりえ)はヤキモキしていた。


 利恵は、片岡先生が、メリッサ先生と出会うのを心待ちにしていた。

 小悪魔マユといっしょに時間を止めたときに、利恵は確信した。片岡先生はアメリカ留学中にメリッサ先生のことを、好きになったのだと。



 片岡先生が、その女性を好きだという気持ち、それを押し殺していること。そして、片岡先生の心に浮かんだブルネットの女の人のDNAを読み取り、天国のスパコンで検索して、シアトルにいるメリッサを見つけた。そして、前任のスミス先生に宝くじが当たるように大仕掛けをして、英会話の先生の席を空席にした。

 で、ネットで英会話の英語講師の募集が、メリッサの目に止まるようにして、たった一週間でメリッサを、この学校の英会話の先生にしてしまったのである。


 こんな離れ業ができるのは、利恵が、大天使ガブリエルの姪であるからである。ガブリエルは自分自身、一度天界を追放されたことがあり、姪の落第天使の利恵には目をかけていた。

 シアトルマリナーズの『踊るグランド・キーパー』というダンスガールをやっていたメリッサが契約切れになったことは偶然であるが、彼女がイチローの大ファンで、彼女の気持ちを日本に傾斜させることは簡単だった。

 そして、契約切れになった日に、ネットで、日本の学校が英会話の講師を探していることに気づかせるのは、もっと簡単であった。伯母のガブリエルは通信を司る大天使である。


 しかし、メリッサ先生が、片岡先生に出会うのは一週間もかかってしまった。メリッサ先生の勤務日が、週に三日しかないことや、いっしょになった日も、なにかと二人はすれ違い、会うことができなかったからだ。


「マユ、あなた、わたしの邪魔しないでくれる!」


 二度目もすれ違いで終わってしまったとき、利恵は、落第小悪魔のマユのせいだと思った。



「わたし、知らないわよ!」



 マユはプンスカして答えた。ルリ子が沙耶の宿題をこっそり写しているところを邪魔していたところであった。



「そうだ、ポキポキ折れるシャーペンで写さなくても、携帯で写して、あとで書けばいいんだ!」

 マユが、シャ-ペンの芯折りの魔法がお留守になった瞬間に、小悪魔顔負けの悪知恵をはたらかせた。

「だって、こんなに二人の出会いが遅れるのは、悪魔の仕業としか思えないじゃないよ!」

「ああ、これって、やっぱし落第天使の仕業だったのね!?」

「声が大きい、マグル(人間)に聞こえちゃうじゃないよ」

「利恵の方でしょ、人間の声で話しかけてくるんだもん。それにマグルって言い方は、軽すぎ。ハリーポッターの言い方じゃない」

「とにかく、邪魔はしないで。わたしの単位がかかってるんだから」

「邪魔なんてしてないわよ。人には、持って生まれた運命があるのよ。下手にイジルとかえって、混乱して不幸を招くわよ」

「なにさ、悪魔のクセして、混乱やら不幸は、そちらの専門でしょうがあ」

「それって天使の偏見。悪魔ってのはね……!」


 その時、始業の鐘が鳴り、英会話講師のメリッサ先生がやってきた。


「ハロー、エブリワン。スタンダップ」

 みんなが行儀よく起立した。マユは、この学校の生徒の上っ面の行儀良さは気に入らない。

「え、この時間って、片岡先生じゃなかったっけ」

「朝、時間割変更があるって、副担のトンボコオロギが言ってたじゃないよ」

「あ、そうだっけ」

「だから落第すんのよ、あんたは」

「落第小悪魔に言われたかないわね」

 起立してからの会話は、心で行われたもので、人間たちには聞こえない。


「シッダウン、プリーズ」


 メリッサ先生が、皆のお行儀のいい挨拶をうけて、着席をうながしたとき、それは起こった。



 コロリと、力無くドアを開けて入ってきたのは片岡先生だった。

「失礼、教室を間違え……」

 片岡の間の抜けた慌てようにみんなが笑った。

 

 ガラ!

 

 いったん教室を出て、片岡先生は、人が変わったような乱暴さでドアを開け、ドアのところでフリーズしてしまった。

 片岡は、怒ったような顔をして口を開いていた。初めて見る片岡の表情にみんなは驚いた。

 二人を除いて……。


 人間というのは、非常な驚きに出会うと怒ったような顔になる。たとえ小は付いても、落第の冠が付いても、天使と悪魔には、それがよく分かった。


――やったー!!!!


 利恵は、単純に喜んだ。この一つの善行で、落第はチャラになったと感じた。



――ちょっと変だ……。



 マユは、違和感を感じた。


 そして、その違和感は、片岡の次の言葉で確定的になった。

「シンディー……どうして!?」


 片岡の心には混乱しかなかった。

 そして、混乱した心からはドクドクと目に見えない血が流れ出していた……。


 

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