Episode 009
まだまだ短距離走は終わらない。
やたらうちのクラスの特に男子は短距離走強かった。
他4クラスの他の追髄を許さないほどに。
なんというか、他のクラスが可哀想だった。
『おーっと、またまた1組だ〜〜っ!2年1組強い!実況的につまらないから出来れば接戦で!』
実況を担当している放送委員もこの通りだ。
そして遂に、2年生の男子最終レースが行われる。
最終レースはクラスで一番速い人が集まるため、大抵熱狂する。
今回(昨年もそうだけど)はしかも怜がいるので、始まってもいないのに女子たちの黄色い歓声が飛び交っていた。
「位置について、よーい」
パァンッ!
体育の先生の………名前を忘れてしまったその人のもつピストル(音だけ鳴るやつ)の音を合図に一斉に走り出した。
『今2年生の男子最終レースがスタートしました!おーっと、1組が一歩前に出た〜〜!負けじと他クラスも食いついていきます!そしてこの女子からの黄色い歓声、流石はイケメン神坂ーーーっ!』
なんとも実況が熱い。
そして実況でもあったように黄色い歓声が凄い。
しかし怜は相変わらずの速さだ。
陸上部100m走のエースがいたはずなのに、それより速いなんて普通におかしい。
流石は超ハイスペックイケメン。
『これはっ、またしても1組だーーーっ!!最後も一位でフィニッシュ!女子と合わせた総合でも一位を獲得!2年生最初の種目を制したのは1組っ!』
2年1組のテント下では帰ってきた皆んなで互いに喜びを分かち合っている。
「次はボクたちの番だね」
快斗は怜の方を見ながら立ち上がった。
「そうだな。せめて足を引っ張らないようにしないと」
俺もゆっくりと立ち上がる。
これから快斗とウォーミングアップする。
2年生女子と3年生の部はまだ終わっていないけど、それに構っていては俺自身が大恥をかいてしまう。
長距離走の選手は各クラス4人だけというのもあり、1人1人の責任が重い。
だけどせめて女子が走るところだけは見たかった。
同志と共にあれやこれやと語り合いたかった。
だがそうもいかないのだ。
そして俺が長距離走に全く自信がないのは、快斗と同じ陸上部(長距離専門とはいってない)が2年生男子の出場生徒の半分以上を占めているからだ。
「未亜、大丈夫だよ。ボクに任せて」
快斗にしては珍しい言葉だった。
それは内心で不安になっている俺のための言葉なのだろう。
快斗は中学のときから体力に関してはバケモノと呼ばれるほどだ。
恐らく、いやほぼ間違いなく快斗が1位を取ってくれるだろう。
どこかのクラスに2位、3位取られても俺が4位にさえつければ事実上同点だ。
俺は欲張らず、無理に頑張らず、自分のペースで最善を尽くして4位を獲りに行く。
「あぁ、任せる」
俺と快斗は邪魔にならないところにいってウォーミングアップを始めた。
3年生の短距離走が終わり、放送にて集合がかけられた。
ついに始まるのだ。
『選手入場です。まもなく長距離走男子3000m、女子1500mがスタートします。女子は500mある校庭を3周、男子は先ず学校の門を出て、学校周りを2周したあと校庭に戻ってきて1周でゴールとなります』
事前に聞いていたとはいえ憂鬱になる。
そういや、放送の人が代わったな。
やたらニュースキャスターっぽい。
俺はスタート位置にて2列目につける。
1列目だと後ろから押されてペースが乱されるからだ。
『スタート位置は男女異なりますが、学年全て一緒にスタートします。初っ端にして選手たちにとって1番キツいと思うので皆さん、精一杯の応援をよろしくお願いします』
短距離走同様に名前が分からない体育の先生がスタートの合図を出すようだ。
「位置について、よーい」
パァンッ!
『今、長距離走がスタートしました』
長距離走の選手、学年全部で30人。
走り始めはその中でも10番くらいにつける。
そして頭の中で1年生と3年生を消す。
他の学年ともたしかに一緒に走ってはいるが、肝心なのは2年生の中で4位を獲ることだ。
今全体では10位だが2年生の中だと5位だ。
この日のために2年生長距離選手の顔を必死に覚えた甲斐があった。
そして快斗は今3年生を差し置いて独走中。
ぶっちぎっていた。
俺はそんな快斗に安心し、走ることに集中し直した。
ここからが本当の戦いだ。
※ここからは未亜が走るのに夢中で特に思うところなく、ただ走る描写だけになり、退屈なものになりますので、長距離走終盤まで割愛します。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
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ー割愛完了ー
『女子の長距離走最後の選手がゴールしました。お疲れ様です。そんな中1人の男子が戻ってきました。2年1組の邸選手です。少し間があいていますが3年2組の藤沢選手がそれに続いています』
そんな放送が俺の耳に入ってきた。
俺はやっと校門にたどり着いたところだ。
校門から校庭まで結構離れており、快斗との差を感じた。
やっと校庭が視界に入る。
『2年1組邸選手、ゴールです。他を寄せ付けぬ大差での1番です。おめでとうございます』
それを聞いて俺は最後にペースを上げる。
今現在2年生の中で4位につけている。
ただ5位との差は1mぐらい。
抜かれるかもしれない。
それでも快斗が期待通りの結果を出したのだから俺もそれに応えるべきだ。
『続々と選手が戻ってきました。最後に1周してゴールです。あと少し頑張ってください』
今更ながら実況の女の子淡白すぎない?
淡々としすぎな気がする。
そんなことはともかくとして、残り100mちょっと。
ペースを上げたにもかかわらず5位との差は僅か。
しかもマジで抜かれそう。
ヤバい、限界来たわこれ。
「クソッタレーーー!」
俺は声をあげて最後の力を振り絞り、なんとかそのままゴールした。
『もう1人の2年1組と3組の選手がゴールしました。僅差で1組が4位を獲得。この時点で女子との結果を合わせても2年1組は2位以上は確実になりました』
俺はその放送を校庭に大の字に仰向けになって聞いた。
体育祭序盤にして体力がからっきし、脚も痛い。
俺大丈夫かな……
そんな俺に快斗が近寄り、手を差し伸べてきた。
俺は快斗の手を取って起き上がる。
「おつかれ様」
「快斗も。お前、全く汗かいてないし息も上がってないとか……」
体力だけでみれば快斗は怜すら軽く凌駕している。
中学時代になぜ大会に出ようとしなかったのか謎だ。
まぁ、昨年インターハイでかなり良い成績を残してはいたけど。
俺の周りは何かとそんな奴らばかりな気がしてならない。
「未亜だってボクと同じ陸上部の人にも負けてなかった」
「慰めはよせ。お前が言うと嫌味に聞こえかねない」
それに陸上部の人といっても長距離走専門じゃなかったりするわけで。
「それは未亜の心が狭いだけ。普通の人はそんなこと思わないよ」
怜もそうだが、ちょいちょいこいつら俺に毒を吐くよな。
「ほら、今ぐらいはクラスの皆んなが讃えてくれるよ」
「『今ぐらい』は余計だ。それと讃えられるのはほぼほぼ快斗だろうが」
「卑屈にならないでよ」
「なってねーよ」
「なってる」
「なってない」
しつこいな。
「しつこいのは未亜の方」
「勝手に心読まないでくれ」
俺たちはそんな会話をしながらクラスのテントへ戻っていった。
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