Episode 002

それはとある日の放課後のこと。


俺は帰宅部なので、もちろんすぐに帰宅する。

昇降口で靴を履き替え、今日なんのゲームやろうかなぁなんて考えながら駅まで歩いていた。

すると背後からどこかで聞いたことのある幼げな声がした。


「センパ〜〜〜イっ!」


後ろから走ってその内まきショートカットの茶髪をなびかせながら俺に追いついてきたのは『四大天使』の1人、1年生の三方花実だ。



「やっと追いついたっ。偶々見かけたので一緒に帰ろうかと思いまして」


「それ断るのダメ?」


「ダメです。今日はなぜか部活休みになって1人なんですっ」


「そうか。で、それ断るのダメ?」


「センパイもしつこいですね」


だって、嫌なのだからしょうがない。

『四大天使』の1人と一緒に下校なんてしてみろ、俺は男連中に殺されてしまう。

怜だけだ、唯一許されているのは。


「なに?友達いないの?」


「いますよ。でも皆んな部活なんですっ。それとセンパイにだけは言われたくありません」


「言っとくがそれなりに友達はいるぞ?勝手にぼっち認定はやめてほしい」


「ホントですかぁ?」


マジな顔で疑ってやがる。


「ほら、それなりにSNSでも登録してある友達結構いるいるだろ」


俺はスマホのSNSアプリを見せた。


「それ一方的に登録したんですよね?」


こいつ、どこまで疑うんだよ。

俺は友達とのトーク履歴を見せた。


「ちゃんとトークしてる……意外すぎます」


「俺は一体どんなイメージなんだ」


「それは神坂センパイからこぼれ出た甘い蜜を吸うクソムシです」


こんな世界滅びてしまえ。


「言っておくが、あいつと一緒にいてそんなに甘い蜜吸えた覚えはないぞ?むしろよく面倒ごとに巻き込まれる。今のようにな」


吸ってないとは言ってない。


「あたしと会話するのそんなに面倒ですか!?」


「そもそも会話、いやコミュニケーションが面倒くさい」


「それ人としてやっていけませんよ……」


後輩から呆れの視線が注がれた。


「ところでセンパイ、神坂センパイって彼女いるんですか?」


「今更だな。その質問をしてきたのはお前が一番遅いぞ」


他の『四大天使』なんて会ってその日か2日程度で訊いてきた。


「それマジですか!?まさかの出遅れっ」


「俺にそれを訊いたところで前進しないから。だから出遅れってことはないぞ。それと怜は今まで誰とも付き合ったことはない」


「それを聞いて安心しました。ついでにセンパイ、センパイって付き合ってる人いるんですか?」


なんか興味もないくせに変に気を遣って訊ねられても……


「想像に任せる」


「それいない人のセリフですよね」


「人は見かけで判断できないんだぞ」


「負け惜しみとは憐れですね」


こ、こいつ……!

一発ぶん殴ってやろうか?


「まぁ、センパイって冴えないですからねぇ〜」


「それは認めるが他人からは言われると意外と腹たつな」


それとこいつの口調はイライラ効果を引き上げている。


「神坂センパイはどうしてセンパイなんかと……」


「ただの腐れ縁だよ」


「腐れ縁ですか?つまりは幼馴染?」


「そう。小学校からこのかた今までずっと同じクラスだ」


「えっ」


三方は露骨に引いていた。


「センパイ、キモっ」


「なんで俺がキモがられなきゃいけないの?なりたくてなったわけじゃないのに」


「確かに腐れ縁ですね。来年には腐ってちぎれてそうです」


それはありえそうだと思った。


「もしそうなったら、センパイぼっちですね」


「ぼっちネタまだ継続中!?」


ちゃんと友達いるからね?


「でもそうだなぁ、まぁなったらそれはそれでって感じだな」


「それって……」


「人の縁なんて意外と切れやすいもんだぞ?お前も俺たちが卒業するまでに怜を落とさないとな」


「やってやろうじゃないですかっ!」


敵もまた強大だというのに、殊勝な心構えだ。


「おう、頑張ってくれ。俺はお前に賭けたからな」


「それどういう意味ですか?」


「なんでもない。気にするな」


よもや、友達同士で『四大天使』の中で誰が怜と付き合うかを賭けているとは言えない。

そこで俺は三方にベットしたのだ。

賭けに勝った勝品はただで焼肉食えること。

負けた他のやつらから奢ってもらえるのだ。

ぜひ三方には勝ってもらいたい。


「ところで勝算はあるのか?他の『四大天使』は強いぞ」


「ホントにあたしたちってそう呼ばれてるんですね」


「まぁ可愛いからな」


「うっ、不覚にもセンパイの褒め言葉で照れくさくなるなんて」


三方は少し顔が紅潮している。

意外と言われ慣れていないのかもしれない。


「意外と初々しいんだな」


「センパイのバカっ!」


「イテッ」


背中を思いっきり叩かれた。


そうこうしているうちに駅に到着した。


「センパイ、それではこの辺でおさらばです」


三方とは路線が違うので駅に入ってすぐ別れる。


「一応気をつけてな」


「一応ってなんですか」


「一応、痴女と間違われて痴漢されないようにと」


「あたしは痴女じゃありません!」


「人は見かけで判断できないってさっきも言っただろ」


「まさかここで伏線回収とは」


どこが伏線なのか分からないが可愛いのは事実だし、痴漢には気をつけてもらいたい。


「そろそろ電車来るので今度こそおさらばです」


彼女は改札の方へ走っていった。


「なんか人生満喫してそうだな、あいつ」


そんなことをふと思いながら俺も改札に入っていった。














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