王子と四阿白雪(中二病アーティスト)
――王子がやってきたのは昇降口のすぐそばにある掲示板だ。
そこには様々なお知らせや部活のポスターなどが張られている。
そしてそのど真ん中には――
【本人が激怒した暴露インタビュー!
『嘉数高校のプリンス』の真実がここにある!】
――そんな煽り文句で装飾された、例の校内新聞がドーンと張られていた。
「ぬぁああああっ!
公開しないでって言ったのに、こんな目立つところに張られてる!
しかもホントに宣伝文句まで追加されて!」
『予想通りやなぁ~』
凹む王子と分かった風なイアン。
その横で朱音が得意げに胸を張る。
「ほらプーちゃん、言ったでしょ。
私がインタビューを受けた記事がようやく張り出されたって。
プーちゃんの事をばっちりフォローしておいたから、これでみんな分かってくれるよ」
そう言って周りを見回す朱音。
掲示板の周りにはとっくに人だかりができていて、校内新聞はすでに多くの野次馬たちの目に晒されていたのだが……。
「王子くんひどーい! 許せないわこんなの!」
「騙して弄ぶなんて最低ー! しかもこれって二股よね!?」
「何が王子様よ! 女の敵じゃない!」
そんな非難を始める女子たち。そして――
「やっぱりね、イケメンに良い奴はいないって思ってたよ」
「こんな奴が何人も女を騙してるから、こっちまで女が回ってこないんだ」
「イケメン死ね! もがき苦しんで死ね!」
――男子たちもここぞとばかりに攻め立てる。
王子の姿を見つけた野次馬たちは、遠巻きにしつつも口々に王子の非難を始めた様子。
「あ、あれ? ちゃんとフォローしたのに……?」
当てが外れてうろたえる朱音。
逆に予想通りな王子はがっくりと肩を落とす。
「うぅ……み、みんなが敵に……」
『まぁ当然やな。
手当たり次第にキスして回ってるんや。
悪い噂が立つのはしゃーないわ』
「ひ、酷い……。
俺だってやりたくてやってるわけじゃないのに……」
野次馬の態度とイアンの指摘に打ちひしがれる王子。
と、そこへ――。
「フン、馬鹿みたい。
群衆どもの醜い嫉妬ね」
王子の背後から、突然そんな声が上がる。
その声は女性のもののようだ。
「イケメンというのは神に与えられた才能よ。
それも『嘉数高校のプリンス』と呼ばれるほど、大勢の女性を虜にできるイケメンとなると……イケメンの中でも才能あふれる、選ばれし天才といえるわね。
そんな天才に対し、溺れた女性が騙されたと非難し――
そんな天才に対し、嫉妬した男性が悪だと断罪する――。
――何てバカバカしい。
凡人がこぞって天才を批判するなんて、おこがましい事だと思わないのかしら?」
そんな王子の擁護を語りながら、声の主は王子の横に並ぶ。
掲示板の前の野次馬を睨みつける女性。
王子はその女性を横目で確認し――
(な、何だコイツ――!?)
――驚いて思わず二度見してしまった。
そこに居たのは――真っ黒なドレスで着飾った女性だ。
さらに黒のレースと刺繍で飾られた大きな日傘を差し――
病的なほど白い肌に、シックな黒ネイル――
メイクは濃い目のアイシャドウにダークカラーのリップ――
軽くグラデーションのかかったプラチナブロンドの髪は、腰に届くほど長く伸ばされ、さらにはバラの並んだヘッドドレスをつけている。
(ゴスロリ……いや、ロリ要素はないから、これはゴシックファッションってやつか?)
王子の思った通り――彼女の装いはいわゆるゴスロリや黒ロリではなく、正当なゴシックファッションに分類されるものだろう。
まぁどちらにしろ、日本の高校では場違いな恰好だ。
王子が二度見してしまったのも無理はない。
「君が王子野王子くんね?
近くで見たのは初めてだけど、確かに非凡なイケメンだわ」
日傘の下から覗き込むように、前かがみで王子の顔を伺うゴシック女。
その瞳は黒く大きく、まるで幽霊のように怪しく美しい――そんな印象を受けた。
「王子くん――君が落ち込む必要はないわ。
天才は誰にも理解されないもの。
そして理解できないものを否定するのが人間なのだわ。
言いたい奴には言わせておけばいい、所詮は凡人の戯言よ」
ニヤリと不敵に笑って見せる女性。
そして――
「それじゃ、ごきげんよう」
――言いたい事を言って満足したのか、彼女は踵を返して去って行った。
「な、何だあの人は……?」
何もかもが異様だったゴシック女に、思わず疑問の声を漏らす王子。
その呟きに朱音が答える。
「彼女は3年の
「って、アカ姉の知り合いなの?」
「一応同じクラスだし、中学も一緒だからね」
「中学もって……えぇっ!
俺、あんな人見た事ないんだけど!?」
中学から一緒の学校なら、あんなに目立つ人覚えているはずだ――と、王子は考える。
そんな疑問に――
「あー、彼女があんな恰好を始めたのは最近だからね」
――と、朱音。
「彼女は去年まで美術部にいて、コンクールで何度も入選してる有望な部員だったわ。
美術の世界じゃ結構有名な生徒で、朝礼でもよく表彰されてたじゃない。
覚えてないプーちゃん?」
「んー……。
そう言われれば、四阿って名前には聞き覚えが……」
「でしょ?
ともかく彼女は天才と称され、将来を期待された美術部員だったの。
でも3年になって突然美術部を辞めて、なぜか漫画研究部に入部しちゃって……。
元々芸術家肌で言動のおかしな人だったんだけど、漫研に入ってからは見た目までおかしくなっちゃって……」
「おかしくなっちゃって……って、いいの?
学校であんな格好して?」
「一応ウチの校則だと、制服の着用義務はイベントごとだけで、私服で登校することを禁止はしてないんだけど……まぁ普通は制服よね?」
みんなと同じが安心できる、それが日本人だ。
「彼女の事は美術部の顧問の先生も嘆いていたわ。
彼女の才能を漫画なんかに費やすなんて――って」
「へぇえ、そんなすごい人なんだ、あのゴシック先輩」
感心した様子の王子。
そこへ――
『朗報やで、王子』
――とイアンが声を掛ける。
『次のターゲットが見つかったで』
「見つかったって……それってまさか!」
『そうや。
次のターゲットはあのゴシック女、四阿白雪(あずまやしらゆき)やで!』
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