王子と中二病アーティスト

王子と百住青葉(新聞部部長)

 ある日の昼休み、嘉数高校の校舎裏――。

 王子は呼び出しを受け、とある人物と会っていた。


「なっ、なんだこりゃぁあああああっ!」


 プリントを持つ手をプルプル震わせながら絶叫する王子。

 原因はそのプリント――校内新聞の内容だ。


【独占インタビュー!

 “嘉数高校のプリンス”の本性を知る女性たち!】


 そんなタイトルのもと、三人の女子にインタビューした内容が記事にされている。

 インタビューに答えたのは十文字黒子、三枝紺奈、そして二階堂朱音の三人だ。


「イ、インタビューっていったい何を話したんだ?」


 王子は恐る恐る記事に目を通していく。


【一人目、十文字黒子のインタビュー】


『王子先輩は酷い男でした。

 強引にキスを奪っておいて、私を奴隷のように扱いました。

 そして最後には、ゴミのように捨てようとしたんです』


「黒子ちゃん、言い方ァ!」(←王子のツッコミ)


【二人目、三枝紺奈のインタビュー】


『王子くんはマジ悪魔みたいな男だったわ。

 あの目は女をただの道具としてしか見ていないサイコパスの目。

 気を付けて、奴は世界中の女の敵よ』


「紺奈ちゃん、盛り過ぎィ!」(←ツッコミその2)


【三年・二階堂朱音のインタビュー】


『王子くんは悪い人間じゃないわ。

 女性の扱いが雑だったり、空気を読まずに傷付けることもあるけど……。

 でもそれは天然でバカなだけで、決してワザとじゃないのよ』


「アカ姉、フォローになってない!」(←ツッコミその3)


 ひとしきり読んだ王子は、その内容にガックリと膝をつく。


「さ、最悪だ……。これでまた俺の評判が地に落ちる……」


 そんな王子の耳に笑い声が響く。


「フッフッフ! どうですか? 王子野王子くん」


 崩れ落ちた王子の前に仁王立ちをし、そう問いかけたのは小柄な女子生徒だ。

 短めの癖っ毛にベレー帽を被り、小柄でかわいらしい印象のメガネっ子。


 彼女こそ王子を呼び出した張本人、新聞部部長の三年生・百住青葉ももすみあおばだ。

 王子を呼びつけ校内新聞を手渡したのも、その校内新聞を作ったのも彼女だ。


「『どうですか?』じゃないですよ先輩!」


 当然王子はご立腹だ。


「何なんですか、この記事は! 取り消してください、こんな捏造記事!」


「ほほぅ~、王子くんはコレが捏造だと? 具体的にどこが捏造だというのですか?」


「そ、それは……嘘……とは言い切れない部分が……あったり無かったり……」


 オーバーだったり悪意ある表現を使っていたりはするものの、基本的にインタビューの内容は本当だ。

 本当の事をベースに脚色しまくっているので、当事者としては否定しにくい。


「どうなんですか、王子くん?」


 痛いところをつかれてしどろもどろになる王子。


「えっと……い、いや、待ってください青葉先輩!

 そもそも片方だけの意見で記事を書くなんて一方的じゃないですか!

 この記事は客観性に欠けている!

 不公平な報道だ!」


「ふむふむ、そうですか。

 確かにそれは一理ありますねぇ」


「で、でしょ?」


 その瞬間、我が意を得たりといった様子でにやりと笑う青葉。


「ではこうしましょう」


 ――そしてパンっと手を叩くと勢いよく王子に迫る。


「王子くんのインタビューも行って、次回は王子くん特集にしましょう」


「と、特集? 俺の?」


「王子くんの独占インタビューですよ。

 それなら君が訂正し放題じゃないですか」


「な、なるほど。だったら……」


 青葉の言葉に納得した様子の王子は、インタビュー依頼を受けようとするも……。


『おいおい、やめんかい!』


 バッグの中のイアンに慌てて止められてしまった。


『こんな事でいちいち言い返してどうすんねん? 名誉回復どころか拗れて泥沼になるだけや』


(で、でも……。

 このままじゃ俺、メチャメチャ嫌な奴だと思われるじゃないか……)


『思われたってええやろ。

 だいたいお前がキスして女を泣かせてるんはホンマやんけ。

 しかもこのキスはこれからも続けなあかんのや。

 この程度の不名誉は想定内として受け入れんかい』


(うぐぐ……つ、辛すぎる……。

 呪いが解ける前に心が折れそう……)


 イアンとの脳内会議を済ませた王子。

 大きく息を吐くと諦めた様子で――


「やっぱインタビューは無理っす。

 ……あとこの記事は取り消してください!

 絶対に公開しないでくださいよ!

 お願いですから!」


 ――そう青葉に断りを入れると、校舎裏から足早に立ち去っていった。


「断られましたか……。

 ですが王子くん!

 ボクはこの程度では諦めませんよ!」


 残された青葉は、眼鏡をキラリと輝かせながらそう嘯くのだった。

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