幻想創世は胡蝶の夢なのか
西蔵砂狐
第一章 創世編
第0話 プロローグ
目が覚めるとそこは森林だった、辺りを見ると木と木と木が等間隔で生えていた、私はこの時場違いにもなるほどこれが森なのかなどと呑気に考えていた。
体に異常は一つ以外にはこれと言って無し。状況はいまいち把握出来ないが、恐らく何らかの手段でこの森林に移動されたのだろう、自力で移動したのなら記憶に残るはずだろしね。
さて現状とこれまでの状況を整理しよう。
私は割と何処にでも居るしがないフリーターだ。現在は掛け持ちを三件しており、三件とも実にホワイトな企業であった。
週休は一度あり、仮に無いにしても月三回という珍く労働基準法に従う優良な企業だ、三件ともそうであり私は順風満帆な日々を送っていた。まぁ三件とも入っていれば休みなんてないも同然なのだが。
とはいえ、そんなある日のことだ、単体だけで考えれば十八連勤目でトータルで考えれば四百七十八連勤目の夜の事だ。
私はいつもの様に栄養ドリンクを胃に詰め込みデバックのバイトの最終局面へと歩みを進めていた。
この作業が終われば明日は三件ともシフトが入っていない、つまりは一日中寝ていられる。「さぁ労働階級諸君働き給え」と心の中でほくそ笑みながらゴロゴロできるのだ。
バグを見つけ報告をし、時間が経ち就業時間を迎え、家に帰る。しかしそこに待っていたのはこのバイト終わりの達成感ではなく、落ちる様な墜落感であった。それはまるでベットの中で眠りに落ちるように、まるでベットに沈み落ちるような、眠りに堕ちるような墜落感だ、そして私の意識は暗転した。
目覚めるとそこは自宅の寝室でも無く、病院でもない。
そこは腐葉土と生木から放たれる息苦しい程の香りが私は今森林に居るのだと強く、その存在をありありと私に知らしめるのだった。
そして話は冒頭に戻るという訳だ、うむ整理したところで全く分からないということが分かった、これが無知の知というやつだろうか。
さて冒頭で勿体ぶった体の異常について説明しようと思う。
まず私の容姿についてだ、ごくごく平凡な黒髪黒目の何の面白みもない平凡な日本人を想像してみるんだ。想像したか?それが私だ。
雑だと言われてもそうとしか言い様がない、モブ顔とでも言えばいいのかブサイクでもなければ美形という程でもない、そういう存在だと思っていて欲しい。
さて何故容姿の話をしたかといえば、端的で何の面白みもない話しだが容姿が変わったからである。
髪は先の方数センチだけ徐々に黒みがかった白髪になっており、長さも腰ほどに伸びていた。元は肩口ほどだったので結構伸びたなというのが正直な感想だ。
まぁこれは変化と言えば変化だが生活に支障の出るものでは無い、所詮髪が伸びただけだ鬱陶しければ切れば良い、切るものがあればだが。
そして次に視点の低さから考えれば恐らく私の身長は数cmほど下がったように思える。
私の身長は元々160程度と男性としては低く女性なら少し高い程度だ、特にこれといって最近は測っていなかったので知らない内に縮んでいた可能性も否めないがこの状況だ、関連付けても不思議ではないだろう。
さて身長の話で男女比を出したのにはそれなりに理由がある、私は一応は女性であったと記憶しているからだ、では何故一応なのかと言うと現状が強く関係している。こちらがさんざん焦らした体の異常と言えるだろう。
気が付いた時には性器の類がまるっと無くなっていた。想像して欲しい、変身ヒロインの一瞬全裸になるシーンがあるだろうトップや恥部がない、あの生物としては壊滅的なあの姿だ。要はアレだ。
つまり現状私は無性別ということになる、あまりに無感動だが元々頓着しなかったので今更だ、男性なら失った息子に涙の一つでも流すだろうが私の場合は失ったのは排泄器官だけでフォルムは基本的に変わっていないのも要因の一つと言えるだろう。
まぁだからどうしたんだという話ではあるが用が足せないのは大変に問題だと思う、これから何かしらの食料や水を見つけてから経過を見ていこう、これは要検証案件だ。
さて私自身の確認はこれくらいで良いだろう、次は周囲の確認だ。
辺りは一言で言えば森だ、地面には敷き詰めた様に枯葉が落ちており間からは腐葉土が覗いている。一通り辺りを散策したが木の実一つ落ちていないし、動物も糞も周囲にはない。
樹木があるにも関わらず水源の一つもないというのは控えめに言って最悪だ。
少し気を落として今日はここまでかと思っていると、辺りが暗くなり始めていた。残念だが今日は寝るしかない、明日はもう少し遠くまで行こう、そう思い落ち葉を集めて即席のベットを用意し、その日を終えた。
目覚めは最悪だ、枯葉の香りに包まれての目覚めに加え、枯葉の破片がチクチクとして何というかよくこんな場所で眠れたなという正直な感想だ。不貞寝に近い状態で眠ったから眠れたのだろう。
時間は分からないが便宜上は朝だ、気を取り直してさっそく散策を始めよう。
結論から言えば散策は一時間ほどで終わった、枯れ木で目印を立てて
某海賊映画のワールドエンドだったか、アレの陸版だ。つまり私は外に出ることも出来ずこの森で過ごさなければならない、普通なら取り乱す所だが今更である、取り乱すならそもそも初日に既に取り乱している。
まぁここまで来れば早い話が私の末路は決まっている。
バイトが終わり自宅で意識が遠くなり、目覚めた先は食料も水もない外界とは何らかの手段で隔絶された森林だ。やがて空腹になり衰弱し餓死が妥当だろう、曰く樹木から水を得る方法があるにはあるらしいが私には方法が分からないのでないも同じだ、どのみち生存は絶望的だろう。
思えば長いようで短い人生だった。
高校を卒業し進学も就職もせずにバイトを掛け持ちし、それでも十分に生活は出来ていた。
実家から離れて一人暮らしを始めたボロアパートの一室は風呂と寝るだけで化粧っ気もそこまで無かったので物は少なかったが住みやすい家だった。
母さんは実家に顔を見せるたびに早く孫の顔を見せろとそれこそ耳にタコができるほど言って、まず相手を持ってこいとその度に言い返していた、今思えば悪い事したかな。
そもそも私は小さい頃から男女共に異性として見れない、或いは共に異性だ、例えは悪いが猿の群れの中に混ざった人、或いは狼の群れの中に羊とでも言えばいいだろうか?有り体に言えば自分以外が自分に似ているが全く別の生き物にしか見えなかったのだ。
そんな私にまともに伴侶ができると到底思える訳が無い、要は犬や蟻や魚と愛し合え等と言われて愛し合えるだろうか?少なくとも私にはできない。
まぁ所詮モブ顔の女に選り好みなど望むべくもないのだが、だからこそ相手を持ってこいと言っていたのだ。母さんはこれを冗談かいつもの返しかの様に思っていたのか、間に受けてはいなかったんだがね、もう少し真剣味をもたせて言ったほうが良かったのかも知れない。
ここで死に行く私にはもう関係の無いことなのだが、それが心残りというやつだろうか・・・
さて明日からは緩やかな衰退を受け入れよう、人間は水分なしでは四日程度しか生きれないと聞いたことがある、要は四日耐えれば立派な死体の完成だ。
せめて苦しくない事を願いながら私は来るべき衰弱を待つために、元いた場所のそばにあるひと際大きな木に背中を預けて瞼を閉じたのだった。
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