第2話
第二回
三人の赤ちゃんたちがKK子のことをもっと知りたいと言うので、
ドラエモンは彼女の同級生だと言った。
もちろん、それが本当の話か作り話かはわからない。
とにかくドラエモンは彼女の思い出話をし始めた。
この女が中学生のくせに色っぽくて、もう大人みたいな女だったんだ。
KK子がレコード屋にいるのを幼なじみの仲村トオルたちが商店街をぶらぶらしているときに見つけたんだな。
どうやらレコードでも買っているんだなと思って、仲村トオルたちはからかってやれと思ってレコード屋に入って行ったんだって。
「KK子、何、買っているんだよ。ひとりでレコード屋に入っているのかよ。万引きでもする気じゃ、ねえのか。それにさっき、喫茶店に入っていただろう。生活指導の先公に言いつけてやるからな。喫茶店、映画館には父兄同伴で入ることって生徒手帳に書いてあるだろう」
「そういうあんた達だって、子供じゃない。お店の人、この子供達がうるさいんですけど」
「よう、KK子、俺達に文句を言う気かよ。お前の持っているレコード、何だよ。それ、米米クラブか。カールスモーキー石井なんて、ディスコの黒服と、どこが違うんだよ」
「うるさいわね。けり、入れるよ」
「この人、暴力団なんですが」
KK子と仲村トオルは幼なじみで、でも会えばいつもけんかしていたんだな。
ふむ、ふむ。
赤ちゃんたちはその話しを興味深く聞いた。
そのころの中学生の興味は何と言ってもボウリングだったんだけど、高校生になるとバイクに乗れるようになるから、中学二年ぐらいで異常にバイクに興味を持つ子供もいたんだ。
トオルはバイクに興味はなかったけど、風呂屋の跡取り息子でバイクに興味を持っている松村という中学生がいた。
でも、彼の家にはバイクはなかった。仲村トオルの同級生で、同じように屑鉄屋の跡取り息子でルー大柴という中学生がいて、その家にはバイクが置いてあった。
バイクと言ってもカブという五十シーシーのバイクで、新聞配達に使っているよね。
それはルー大柴が勝手に親に内緒で鍵を持ち出して、裏庭で乗ることが出来たんだよ。公道で走ったら、警察につかまっちゃうからね。
そのバイクに松村邦宏が乗りたがったんだよ。
仲村トオルたちと一緒にルー大柴の言えの裏庭に行き、カブを引っ張り出したんだ。
松村邦宏はバイク好きだと言っても乗るのははじめてだったから思い切りアクセルをふかして急にローギャーに入れてしまい、カブは前輪をうかして、飛び出して、物置の壁を破ってしまったんだ。
松村邦宏は壁をこわした見返りに風呂屋の二階の物置みたいなところから、女風呂をのぞかせてやると言って仲村トオル、ルー大柴、別所哲也の三人をその部屋に案内した。
そこは確かに、女風呂がばっちりのぞける部屋だった。
湯船につかっている老若の女湯の中に、どこかで見たことのあるような若い女の後ろ姿。
それはいつも仲村トオルがけんかをしているKK子だったんだ。
KK子に湯船から出て貰って、全身を魅せて貰いたいような、貰いたくないような。
湯船で立ち上がったKK子の身体は仲村トオルたちがふだん学校で見慣れている制服姿のKK子ではなかつた。
達阿月他とき、KK子はお湯を身体からはじき飛ばして、それは小さな玉となって飛び散った。
まだお湯で濡れ手いるKK子の身体は全身を油で塗ったようにつやつやとして、まだお湯のつぶつぶが身体についていたんだ。
お湯につかっていたために白いはだは赤く紅潮していた。
仲村トオルたちは学校にいたときは少しお姉さんぽく見えるものの、同い年だと思っていたKK子が実はずっと自分たちより、すでに成長していることを覚った。
動物の年齢のとりかたは人間のそれとは違う。
猫の五歳と言ったら、人間では私用学校五年生くらいなのに、猫ではすっかりと大人だ。
また、時計による時間の過ぎ方と体感する時間の過ぎ方は違う。
楽しい時は早く過ぎ、授業の終了のチャイムのあと十分というのはやたらと長く感じる。
女の時間のとりかたというものも、男のそれとはまた違うものなのだろうか。
KK子を何となく、自分たちと違って大人ぽく感じたのも、これがはじめてではない。
仲村トオルの通う中学校のそばに駅があるのだが、その駅の中学校のちょうど反対側に夏はプール、冬はスケートが出来る、営利目的のスポーツセンターがあって、そこの二階がゲームセンターになっていた。仲間と一緒にゲームセンターで遊んだあと、家に変える途中、
商店街のアーケードを抜けたところに先頭があり、その銭湯の前にKK子が立っていたのだ。
「KK子、何で、浴衣なんて着て、風呂屋に来ているんだよ。KK子、ぜんぜん、似合わないよ。やめた方がいいんじゃないの。
そうだ。お前、それを着て、男と花火でも見ていんじゃないの。まわりの奴らがみんな言っていたぜ。土手の花火大会で、お前が男と一緒に歩いていたって」
「トオルくん、可愛くないなぁ。きみは、全く、私が男と花火大会になんか行くわけがないじゃん。花火大会って、この前の土曜日でしょう。その日はクラブだったんだもん。それより、また、きみ、ゲーセンへ行っていたんでしょう。また、隣の中学の奴らにかつあげされるよ」
「うるせぇなぁ。KK子」
そのときも仲村トオルは心にもないことを言ってKK子に相手にされなかったのだ。
KK子が花火大会へ男と一緒に行ったというのも仲村トオルの作り話だつた。
なぜ、そんな作り話がとっさに浮かんだのか仲村トオルにもその理由がわからなかった。
しかし、銭湯の前で見たKK子は女っぽく、年上の女に見えた。
そのことに仲村トオルは嫉妬していたのだ。
確かにKK子は仲村トオルの知らない世界に足を踏み出している。
しかし、この風呂屋の二階からの覗き見は、銭湯の入り口で見た浴衣姿のKK子の比ではなかった。
湯上がりの裸身のKK子を見た三人のあいだには意味のない気まずい沈黙がおとずれた。
この事実は三人のあいだだけの秘密にしておこうということになつた。
しかし、銭湯と言っても外国人の赤ちゃんにはわからなかった。
ドラエモン、銭湯って、何。
わたし、知っていますでちゅ。料金を取って入浴させる公衆浴場のことでちゅね。
ユージニーに言ったとおりだよ。入り口はひとつなんだけど、入り口に入ると靴を入れる下駄箱が男女別々になっているんだよ。
もちろん、そこは鍵がかかるようになっているんだ。
鍵と言っても、さし込んで、回して開ける鍵じゃないの。
アルミの板やもっと前の時代では木の板で、それがふたのところに垂直にさし込んであって、その木の板やアルミの板を引っこ抜くと鍵がかかるようになっている下駄箱なんだ。
それから男女別々の入り口があって、そこに入ると番台というところでお風呂屋の人が座っているから、そこでお金を払うの。
番台ではシャンプーやひげそりも買えるんだよ。
その男女別々の入り口から入ると大きな脱衣場というのがあって、そこで服を脱いで同じようなロッカーみたいなところにしまうんだよ。
脱衣場には体重計とか、電気あんま機が置かれていたり、牛乳の入っている冷蔵庫が置いてあることもある。
そこで服を脱いで湯船のある浴場の方へ入るわけさ。
だいたいそこにシャワーとお湯の出る蛇口、大きな湯船と小さな湯船がついている。
いつも四時頃に行くと、空いていて、ゆっくりと入れるんだよね。
でもね。一回行くと三百円ぐらいとられるんだ。
それで経営がむずかしくなってやめていく風呂屋が多いんだな。
ベアトリスやユージニーが大人になったときには本当にお風呂屋さんは少なくなっているかも知れないよ。
話しはもとに戻るけど、米屋の三男の仲村トオルはKK子のことが頭から離れなかったんだ。
しかし、それが恋だとは仲村トオルは気づかなかったんだ。
よお、トオル、昼飯だぞ。
トオルの家は米屋をやっている両親と男ばかりの四人兄弟、この四人が四人とも、まったく、恋人どころか、女友達もいない始末。
長男の所ジョージは、結構、いい年なのに、まだ独身で、もうお見合いを三十数回やっているのに、全敗だった。
次男の布施博は同じ高校に通う新体操の選手とつき合っていたが、恋人よりも、新体操をとると言われて恋人と涙の別れだった。
四男のピエールはまだ二歳でそのうえに金髪で、彼の頭の中はいろいろな美しい雲のかたちや夕日のことでいっぱいだつた。
両親は女に縁のない兄弟たちのことでいっぱいだった。
この一家の四兄弟、女にもてないはらいせから、女に対して偏見を持っていた。
だいたい出てくるのは女の悪口で一番下の弟のピエールが誕生日会に女の子をつれて来たときは他の兄弟たちからさんざんにからかわれて、二三週間もからかいの種にされた。
それもみな自分たちに女が出来ないひがみ根性から出発した行為ではあったが、恋人ならまだしも、片思いの女がいるなどと他の兄弟に知られたら、どんなことになるだろう。
したがって、仲村トオルはKK子が空きだなどと言うことは兄弟たちの前では口が裂けても言えない状況にあった。
仲村トオルの通っている中学校は朝、校門のところに何人かの生徒が立ち、通学して来る生徒の服装や、遅刻して来た生徒の生徒手帳を取り上げるという生活指導がおこなわれていた。
もちろん、この中学校、KK子も仲村トオルも二年B組の生徒として通っていた。
もっとも、朝の登校時の校門での週番の二人に対する態度は違っていたが。
おはようございます。
KK子が朝の爽やかな挨拶をすると週番の生徒たちも気分がよくなり、なかにはKK子に内心、恋心を抱いている生徒もいて、そんな生徒はKK子の姿が遠くからじょじょに近付いて来るにしたがって胸の高まりもいやますのである。
知ってる。
あの女、二年B組のKK子というんだぜ。
それに引き替え、この中学のゴミのような集まりのひとり、
二年B組のお荷物がやって来たときは
おい、見ろよ。来るぞ。来るぞ。来るぞ。
生徒手帳没収常習者が。
君たち、ホック、はずしているね。それにカラーは。
それからかばんをつぶして学校に持って来ちゃだめなんだよ。
はい、生徒手帳、没収ね。
何だと、てめぇ、どこのどいつだよ。
おい、お前も何年何組だって聞いてんだよ。
これはなぁ、つめえりが小さくて、ホックがはめられねぇんだよ。
すると
生活指導の安岡力也先生、こんなこと言っていますよ。
てめぇら、十年、はぇんだょ。十年。
う~~。申し訳ありません。
生徒手帳は差し上げます。
こんなふうにして、服装の不備、遅刻、をすると校門のところで、
生徒手帳を取り上げられ、あとで担任から、職員室で説教されながら返されるのである。
仲村トオルは生徒手帳を週番の生徒に取り上げられる常習者だった。
そのたびごとに職員室に呼ばれて担任から説教されて、生徒手帳を返されるのである。
仲村トオルは担任に説教されることよりも職員室に呼ばれることがいやだった。
職員室に呼ばれると、勉強を習っている他の生徒の目にとまり、その教師の時間にからかわれたりすることがいやだった。
たまにだか、気に入っている授業もあり、そう言った教師には空かれたいと思っていたから、そういう教師の目にとまるのがいやだったのかも知れない。
それから、知勇学の日課といのは
朝、校門をくぐってから、いったん教室の中へ行き、かばんを置いてから、ふたたび校庭に出なければならないときがある。
全校朝礼と呼ばれる儀式である。
生徒たちは朝礼が始まるまでバレーボールなんかをして時間をつぶすのだった。
はい、行くわよ。
KK子は、この時間、バレーボールの円陣のひとつに加わることにしていた。
教室に何個かのバレーボールが置いてあり、それを使ったり、体育倉庫にあるボールを使ったりするのである。
仲村トオルたちの方はこんな健康的に朝礼が始まるまでの時間をつぶしていたわけではない。
どこかの校庭の片隅、体育倉庫の裏でバレーボールをボウリングのボールに見立てて、投球フォームの研究なんかをしていた。
ここのボールを話すところでひねりを入れる。
しかし、そのときボールがころころと転がり、ある人物の足下にころがりついた。
おい、そこの奴、ボールをとってくれよ。
仲村トオルは相手が誰だかも知らずに気軽に声をかけたが、
まわりの連中はその人物の正体を知っていたのでびびっていた。
おい、やめろ。トオル。その人が誰だか知っているのか。
その人物はおもむろに仲村トオルの方を振り返ると、転がって来たボールを手にとり、片手でいじくっていたが、その人物の目は校舎の屋根についている校旗に焦点が合うと、止まった。
その人物はボールを離すと、ものすごいいきおいでボールを蹴り上げた。
するとボールは地球に衝突する巨大隕石のように摩擦熱で燃え上がりながら屋根の上の校旗を目指して飛んで行き、校旗を支えるジェラルミン製の鉄棒を折り、そのまま、かなたに飛び去って行った。
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