第5話

 「みゃー」


 うん? 猫の鳴き声?

 そういえば、リゾール殿下が猫にエサをやるイベントがありましたわね!


 私は、探りを入れる為に放課後、二年の教室に向かっていた。学園の建物は、なぜか一学年の教室が、テラスなどを挟んだ反対側の棟なのよね。テラスの中を通らずに脇の公園を歩いていて、そこで猫の鳴き声が聞こえて来た。一応、確認をしなくてはならないわね。

 それにしても、日本では考えられない学校の作りよね。


 あ、居たわ! リゾール殿下だわ。

 もしかして、イベントが一年ずれているの? だったとしたらまだ修正の余地ありよね。


 「こんなところで……」


 リゾール殿下が、猫に話しかけている。あぁそう言えば、猫を抱き上げほほ笑むスチルがありましたわね。やはり、ずれているのね。

 って、くるっとリゾール殿下が私の方に振り向いた。


 「くしゅん!」

 「え?」

 「あ、すまない。私は猫アレルギーでね」


 ええ~!! そんな設定聞いてません。


 「君だったんだね。私は、これで失礼するよ」

 「え? あ、はい……」


 何が、私なのでしょう?

 猫ちゃんは、おいしそうにパンを食べている。リゾール殿下がパンを?

 それにしても、イベントが一年ずれているだけではなくて、場所などは同じだけど、微妙に内容が変わっていたりしている気がするわ。

 バットエンドもハッピーエンドに変わっていると有難いのだけどね。


 「よしよし」


 カワイイな猫ちゃん。私は、子猫の頭を撫でる。


 「あ……」

 「うん? マイステリー様……」


 声に振り向けば、マイステリー様が立っていた。


 「その子、足怪我していたからさ……」

 「え? 怪我?」

 「元気になってよかった」


 そう言って、私の隣に来てマイステリー様も子猫の頭を撫でる。


 「その……今朝はごめんね。二人で話している所をクラスメイトに見られたくなくて」

 「なぜ?」

 「姉が有名だから僕も目立ってしまって。だから……」

 「そうなのね」


 よくわかりませんが、私の為のようですね。


 「そうでした! お姉様って見た目はどんな感じかしら?」

 「見た目? もしかして、やっぱり知らないの?」

 「……ごめんなさい。知らないんです」

 「っぷ。変だと思ったんだ」


 そう言って笑うマイステリー様の笑顔が素敵で、少しときめいてしまう。


 「姉は、僕と一緒でブロンドの髪でふんわりした髪型かな」

 「そうですか」


 やっぱりヒロインですわ! まさか彼女にも弟がいたなんて!


 「僕と入れ替わりに去年、ここを卒業したんだ」

 「え……今なんと」

 「ここの卒業生だよ」

 「卒業生ですって!!」


 なんて事なの! ヒロインがもう卒業しちゃってるなんて! それじゃ会わないはずだわ。

 待って、どうしてそんなに年が離れてしまったの?

 いやだとしても、魔法のお披露目のイベントを一度は見ているのではないの? そこでリゾール殿下が、彼女の能力に惹かれるイベントは起こっていないって事?

 こうなったらやはり、私がヒロインの役目をするしかないようね!


 お姉様、ごめんなさい。あなたの婚約者は、私が奪います。

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