第300話 撤退戦(11)
「ひいぃ! あ、あれは! 俺達が全滅しかけたモンスターだ……」
恐怖の色を含んだ声が後ろから聞こえてくる。
それは、ギルド【戦国無双】の構成員。
恐らく日本ダンジョン探索者協会の職員を助けに行った連中だろう。
その時に逃げたことがトラウマになっているのかも知れない。
我先にと後ろへと逃げようとしているが、狭い通路内では後ろも詰まっていて逃げることもままならない。
さらには、俺が見ている前方からは数百の数の木魅の眷属が迫りくる。
そのレベルは500を超えていて――、少なくとも俺以外では対処はできないだろう。
「静かにしろ!」
俺の言葉に、全員が一斉に俺を見てくる。
「ここに俺が居る!」
全員の視線が、俺の言葉を聞いても信じられないと言った様子で瞬き一つすらしない。
あまりにも絶望的な状況下で、俺がどれだけ強くてもどうにもならないと思っているのかも知れないが――。
「そ、そうですよ。ピーナッツマンさんは強いんですよ!」
以前に、ギルド【戦国無双】から助けた事がある日本ダンジョン探索者協会所属の女性――川野春奈が声を上げるが、
「日本ダンジョン探索者協会なんて、冒険者に助けられただけじゃないか!」
「そうだ! レベルも、そんなに高くない癖に!」
「お役所は黙って居ろ!」
「「「そうだ! そうだ!」」」
自分の命が刈り取られる。
それも無意味に――、無作為に――、その恐怖と絶望からか誰も俺からの声でなく日本ダンジョンン探索者協会の女性の話を聞こうとしない。
いや――、誰かに怒りをぶつけることでストレスから逃れようとしているだけなのだろう。
中には泣き出している者まで居る始末。
まったく……、それでよく命をかける探索者になれたものだ。
「ギシャアアアアアア」
声をあげながら近づいてくる木魅の眷属LV581。
「少し黙っていろ!」
声を吐くと同時に正拳突き。
パン! と、音速を超えた際に生じる音と共に、数十体の木魅の眷属が粉々に――、跡形もなく――、バラバラに粉砕される。
それと同時に、半透明のプレートが開くと同時に全員のレベルが一斉に跳ね上がるログが流れた。
「え?」
「ど、どういうこと?」
「どうなっているんだ? レベルが――」
「レベルが上がったぞ? それも10以上も!?」
「な!?」
「マジか!? どういう……」
「こ、これって……」
後ろから次々と当惑する声が聞こえてくる。
どうやら、俺が同行させていると考えた連中は全員、レベルが上がっているようだ。
まったく……、あとで問題になりそうだが……。
「いまは丁度いいか……」
俺は小さく言葉を紡ぐと――、迫ってくるモンスターを無視して後ろに居る連中に話しかける為に口を開く。
「よく聞け! 俺の魔法! 経験値倍増を使って、お前らのレベルの底上げをしている! いまはフィーバータイムだ! モンスターを倒せば倒すほどお前らは強くなる!」
全員が無言になり――、そして静まり返る。
――そして一呼吸置いたあとで、
「「「「「オオオオオオオオオオ」」」」」
――と、いう歓声がダンジョン内に響き渡る。
何とか精神的に立ち直ったと見ていいか。
「さて! この俺がしばらくはモンスターを倒していく! しばらくでいい! 力を蓄えるために、あとについてこい! 決して自暴自棄になるな! この俺! ピーナッツマンを信じろ!」
言い終えると同時に、近づいてきたモンスターを拳で粉砕――、それと同時に全員のレベルが上がる。
それで後ろについてきた連中も確証を得たのだろう。
「「「「「ピーナッツマン! ピーナッツマン!」」」」」
俺の名前を連呼する声がダンジョンの通路内に木霊する。
「――さて! ここからが本番だ! ただの普通のパンチ!」
拳を連打する。
それだけで衝撃音が連続で鳴り響き、ダンジョン内の壁を粉砕! さらにモンスターも次々と粉砕していく。
さらに続く連続したレベルアップの膨大なログ。
わずか10秒ほどで数百にも上るモンスターを殲滅したあとは地上へ向けて俺は歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます