第226話 交渉と面接(8)

「申し訳ありませんでした」


 続いて香苗さんの口から出てきたのは謝罪を示す言葉。

 頭を下げている香苗さんを光方という人物はしばらく見たあと小さく溜息をつく。


「佐々木さん、此処だと何だから事務所の中でよいか?」


 どうやら話は聞いてくれそうだな。

 コンテナを繋いで事務所として使われている中へと案内されると、「そっちに座っておいてくれ」と、言われ勧められるがままに茶色い革製のソファーに座った。


 男は、冷蔵庫からペットボトルのお茶を4本取り出すと、ガラスのテーブルを挟んだ反対側のソファーに座る。


「たいした物は出せんが――」

「いえ! そこまで気を使っていただかなくても……」

「気にするな」

「すみません」


 香苗さんが頭を再度下げると男は一瞬だけ目を閉じる。

 その様子は、何となくだが――、佐々木を東京まで送った影響でこんな僻地に会社が移動させられて怒っているという感じには見受けられない。

 どちらかと言えば……。

 

「それで、こんなところまで何をしにきたんだ?」

「実は、以前に御迷惑をおかけしたことの謝罪を――、本当はもっと早く来なければいけなかったのに……」

「気にするな。――と、言っても無理からぬことか……」


 白髪が混じっている黒髪――、その後頭部を掻きながら返答に窮しているようにも思える男は、一端――、口を閉じると佐々木望を見たあと俺を見てから再度、香苗さんの方へと視線を移す。

 

「ふむ……。香苗さん」

「はい」

「――そっちは、望お嬢ちゃんでいいのか?」

「はい。娘の望(のぞみ)です」

「そうか。元に戻れて何よりだ」


 どうやら、佐々木が元は女性だったという事を、この老人は存じているらしい。


「――で、そっちは?」

「いま、旅館を手伝ってくれている娘の将来の旦那になってくれればいいと思っている人です」

「ふむ……」


 俺をジッと見てくる光方という男。

 とりあえず俺もスキル「神眼」でステータスを確認しておく。




 ステータス


 名前 光方(みつかた) 源十郎(げんじゅうろう)

 職業 鳩羽村交通 社長

 年齢 64歳

 身長 169センチ

 体重 63キログラム

 

▼レベル1




 俺が思っていたよりも年を経っているな。

 あと、視界内の半透明のプレートに表示されるステータス表示が変化している。

 視線でクリックをすれば、ステータス一覧が表示されるから別に問題ないが――。


「お前さんの名前は?」


 思わず、「人に名前を尋ねるなら自分から先に名乗るのが筋だろう?」と、思わず言いかけたが――、


「山岸直人です」


 とりあえず何とか乗り切る。


「儂は、鳩羽村交通の社長――、光方(みつかた) 源十郎(げんじゅうろう)だ。よろしく頼む」

「こちらこそ――」


 とりあえず良好な関係を築いておきたいので相手のペースに乗っておくことにしようか。


「それよりもだ! 捧木の女将、旅館の手伝いをしてくれていると言っていたが――、それは本当か?」

「はい」

「どうして……、村を出ていかない? 此処は、もともと貴女が居る場所では無いというのは分かっているはずだが……、自治会でも話は上がっていたが――、旅館の経営は厳しいのだろう?」


 その光方の言葉に、香苗さんは俯いてしまう。

 それが――、光方の言葉を肯定していると物語ってしまうと言うのにだ――。


「悪いことはいわない。もう鳩羽村から望ちゃんを連れて出ていくんだ。ここは、佐々木家にとって呪われた場所だ。無理して居ても良い事はなにもない」

「ですけど……、旅館は、あの人が残した――」

「故人を思うのは悪いことではない。だが――、望ちゃんを巻き添えにしてまでやる事なのか?」


 香苗さんと光方の会話。

 二人の様子から、どうやら光方という人物は佐々木母娘の身を案じているように思える。


「私なら大丈夫です!」


 何も言い返せない香苗さんに代わって娘である望が言葉を紡いだ。

 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る