第206話 信頼の軌跡(8)
二人して会話をしていたところで、俺は一人だけ異彩の放つ男が近づいてくるのが何となくだが分かった。
視線を向けると初老の男が此方に近づいてくる。
歩き方から佇まいまで凛とした佇まいを見せることから、どう見ても堅気には見えない。
念のためにスキル「神眼」でステータスを確認するが――。
ステータス
名前 安藤(あんどう) 亘(わたる)
職業 公務員 日本ダンジョン探索協会所属 松阪支部 支部長
年齢 57歳
身長 177センチ
体重 74キログラム
レベル167
HP1670/HP1670
MP1670/MP1670
体力29(+)
敏捷20(+)
腕力33(+)
魔力 0(+)
幸運 5(+)
魅力 5(+)
所有ポイント168
「なるほどな」
いきなりTOPを呼び寄せるとはな。
多額の現金を引き出せるなら、支部長クラスと話した方が手っ取り早い。
悪くはないな。
「先輩?」
「――いや、お前が有名だったのが幸いしたのか――、どうやら悪い事ばかりじゃないようだぞ」
「――え?」
佐々木が戸惑いの表情を浮かべたところで俺と佐々木の前に男が立つ。
「ダンジョン攻略者の佐々木望さんでお間違いないですか?」
「――あの……、あなたは……?」
「これは申し遅れました。日本ダンジョン探索者協会の松阪支部を任されております安藤(あんどう) 亘(わたる)と言います。実は、御高名な探索者の方が来店していると受付から連絡がありましたのでお伺い致しました。少し、場所を変えてお話を伺いたいのですが宜しいでしょうか?」
「あの……、私はお金を下ろしに来ただけなので……」
「そうでしたか。――ですが、出来ればお部屋も用意致しましたので来て頂けますか? さすがに此方ですと色々と問題がありますので」
「佐々木、ここは受けた方がいい。どうも、佐々木に何か話があるようだからな。ここでは話せない内容なんだろう」
「……先輩がそう言うなら……」
「付き人の方ですかな? 助かります」
「先輩は付き人じゃないです! どちらかと言えば私――」
俺は、とっさに佐々木の口を手で塞ぐ。
まったく、コイツは何を話そうとしたんだ。
俺は、余計な揉め事には関わりたくない。
「……」
安藤が、俺をジッと見てくるが、すぐに興味を失ったのか佐々木に頭を下げる。
「それでは、こちらに部屋を用意していますので」
有無を言わせない強い言葉で伝えてくる。
そして――、そのまま安藤は、俺達が付いてくると確信しているのだろう。
振り返ることもせず関係者以外立ち入り禁止と立て札が立て掛けられている階段を上がっていく。
「先輩、私……、嫌な予感しかしないです」
「奇遇だな、俺もだ」
まあ、どちらにせよ不利な内容なら断ればいいだけの事だからな。
安藤の後を追うようにして階段を上がっていく。
殆ど人気がない階だが――、支部長室とプレートが置かれている部屋に通される。
「どうぞ、お掛けください」
茶色のソファーに二人して腰かけたあと、大理石のテーブルを挟み男もソファーに腰かける。
すると、すぐに女性がお茶を持って部屋に入ってくるとテーブルの上に置いて部屋を出ていく。
「今日は寒いですから、お茶でもどうぞ」
「――あの、どういうつもりですか? 私は、日本ダンジョン探索者協会からは足を洗ったはずですが?」
「ええ、分かっています。嘱託と言う形を取っていらっしゃるという事は存じております。じつは、その事で今回は話し合いの場を設けさせて頂きました」
「どういうことですか?」
苛立ちを含む感情が佐々木の言葉に込められているのが、俺には分かる。
伊達にコールセンターで仕事をしていた訳ではないのだ。
「実は、日本ダンジョン探索者協会に再度、職員として登録をお願いしたいのです」
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