第167話 陰謀渦巻く(2)

「先輩、お待たせしました。早くいきましょう!」


 小走りで階段を下りてきた佐々木が、妙に急かしてくる。


「相原さん」

「分かりました」


 佐々木が後部座席に乗ったあと、車は走り出す。

 貝塚インターチェンジから京葉道路に乗る。


「山岸さん、このあとは東関東自動車道から湾岸の方へ移動します」

「――あ、待ってください」

「どうかしましたか?」

「一度、首都高に乗ってもらえますか? 溜池山王付近で一度、車を降りたいのですが――」

「国会議事堂付近ですか?」

「はい」

「先輩、六本木で何か用があるんですか?」

「いや、ちょっと知り合いに頼みたいことがあってな」


 妹が行方不明なのはニュースサイトを見て分かったが――、調べるにも民間人の俺ではコネがない。

 スキル「大賢者」が凍結されて使えない以上、他の方法も考えてみたが……、探偵はあり得ないだろう。

 彼らの調査力を侮っているわけではないが、それでも――、上落ち村の問題には権力者たちが関わっていたのだ。

 危険な事に首を突っ込ませるわけにはいかない。

 そうなると、使える手段は一つしかない。


「わかりました」


 相原は頷く。

 車は京葉道路から首都高に乗り換えたあと都心に入り首都高を下りたあと、霞が関付近で俺は車から降りる。


「それでは相原さん、すぐに戻ってきますので待っていてください」

「わかりました。お気をつけて」

「先輩、私は――」

「お前は、来なくていい」


 ただでさえ佐々木は有名人なのだ。

 正月の三箇日とは言え佐々木を連れて歩いている時彼女を知っている輩がいたら余計な問題に発展する恐れがある。


「……はい」

「そう落ち込むな。お前はテレビとかに出ている世界初のダンジョン攻略者だからな。いくら人通りが少ないとは言えお前を知っている人間が居ないとは限らないだろ?」

「そ、そうですね……。わかりました。待っています」

「じゃ、いってくる」


 佐々木と相原を車の中に残したまま、内閣総理大臣官邸へと徒歩で向かう。

 距離としては500メートルほどだが――、首相官邸が近づくと同時に人の波がやけに多くなってくる。


「どうして、こんなに人が集まっているんだ?」


 正月の三箇日だというのに、首相官邸へと向かう通りには人が溢れている。

 何かの祭りを催しているのか? と錯覚するほどに。

 

 その理由は総理官邸前の交差点に到着したところでようやく理解できた。

 大勢の人間が、ナツメガーとプラカードを抱えてヤメローと集団抗議しているのが見て取れる。

 さらに――、海ほたるや伊東市で起きたテロ行為を未然に防げなかったのは日本国政府の怠慢だ! と、叫んでいるのも居り、通行人の邪魔になっている。


 国際的テロ支援国家でもあるレムリア帝国で、こうなっているとなると本来の首謀者である同盟国アメリカが日本で核爆弾を爆発させたり次世代宇宙兵器【神の杖】で伊東市を爆撃した事を知ったら、市民がどうなるのか想像もつかないな。


 それにしても歩道を占拠するとか歩き難くて叶わん。


「おい! 自分たちの主義主張を叫ぶのは構わないが通行人の歩く邪魔はするな」

「なんだと!? 俺達は正義のために――ぐふぉ」


 苛立ちを含んだ言葉と同時にスキル「威圧LV10」を発動させる。

 途端に、周りの活動家らしき人間が口から泡を吹いてバタバタと倒れていく。


 その場で、辛うじて立っていられるのは首相官邸を守っていた警官くらい。

 安全な場所で文句ばかり言っている活動家崩れの人間の覚悟なんて、こんなものだ。


 警官たちが見ている前で、俺は首相官邸へと向かう。

 殆どの活動家崩れが意識を失い路上――、そして歩道で意識を失い倒れたところで、ようやく首相官邸入口へとたどり着く。


 そこで、ようやくスキル「威圧LV10」を解除する。


「それ以上、こちらに近づくな!」


 警備をしていた警官が威嚇のために銃口を向けてきたところで「やめなさい」と、言う声が辺りに響き渡る。


「小野平防衛大臣……」

「彼は、夏目総理がお呼びした客人です。拳銃を仕舞いなさい」

「わ、わかりました」


 震える手で警察官は、拳銃を仕舞うと道を開けてくる。

 

「お待ちしていました。それではご案内します」


 小野平に案内され首相官邸の中へと足を踏み入れたところで、小野平は足を止めた。


「――して、山岸直人さん。今回はどのようなご用向きで?」

「少し頼みたいことがあってな」

「それは、重要なことなのですか?」


 小野平の言葉に俺は頷く。



 



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