第141話 はふりの器(40)第三者視点

 ――アメリカ合衆国国防総省から1キロ圏外に設けられたアメリカ合衆国の仮施設内では、大勢のアメリカ政府関係者、軍人が行き来をしていた。


 理由は、アメリカ合衆国国防総省と連絡がつかなくなった事もあるが、次世代宇宙兵器である【神の杖】のコントロールがアメリカ合衆国のコントロール下を離れてしまっていたからであった。

 

「クルーガー大佐! ホワイトハウス――、大統領からです」


 軍用回線を利用した連絡端末をクルーガーは受け取る。


「こちらクルーガーです」

「状況はどうかね?」

「現在、ペンタゴン周囲に透明な壁のような物が形成されており1キロ以内に侵入することが出来ません」

「そうか……、それならば、すぐにその壁に攻撃を仕掛けペンタゴンを迅速に制圧したまえ」

「――そ、それでは!? 近隣の住民に被害が出る恐れが!」

「西方のアーリントン墓地からならば問題はないだろう? これは大統領命令だ。現在、ペンタゴンは【神の杖】の矛先を同盟国である日本に向けている。すぐに対処したまえ」

「……わ、わかりました」


 通話が終わると同時に、クルーガーは無線で「全員に告ぐ。ペンタゴン周囲に確認されている不可視の壁への攻撃を開始する。場所は、アーリントン墓地方面からだ。すぐに行動に移せ! これは大統領命令だ!」と、告げる。


 それと同時に、10機を超えるミサイルを搭載したヘリコプターが飛び立つ――、と同時に全てが空中で爆散した。


 爆発したヘリの残骸は、アメリカ合衆国の仮設施設から少し離れた場所へと降り注ぐ。

 そして落下したヘリの残骸は、黒煙を上げて燃え続ける。


「何の音だ!?」


 クルーガーだけではなく、多くの軍関係者がテントから出ると黒煙が舞い上がるヘリだった残骸を見ながら目を見開いた。


「わかりません! ヘリが空へと上がっていった途端――、全てのヘリが同時に爆破されました」


 外で事の成り行きを一部始終見ていた兵士の一人が、震える声でクルーガーの疑問に答えたが、まるで要領を得ることができない内容であった。


 その説明に意味が分からない、理解が出来ないと言った様子で、「なん……だと……」と、呟きながらクルーガーは戸惑いの色を隠せずにいた。


 ――否、クルーガーだけではなく誰もが理解できずにいる。

そんな状況下で、黒煙の中から一人の男が姿を現す。

 

「おいおい――、今いいところなんだからさ、無粋な真似はするなよな?」


 男の姿を見た途端、全員が拳銃を抜くと同時に銃口を男へと向ける。


「レムリア帝国、四聖魔刃のランハルド・ブライド! どうして、貴様が此処に居る!」

  

 クルーガーの言葉に、ランハルドは首を横に倒しながら鳴らすと口を開く。


「どうしても何も、俺達が直接手を下す訳にはいかないからな。お前たちに協力してもらっているのを邪魔されると困るわけだ」

「何を言っている? それに協力だと?」

「そうだ。引鉄を引いているのは、お前たちの同胞だからな。人間同士の殺し合いなら、天津神・国津神も関与はしてこない。まぁ、元々は――、お前たちが作った兵器なんだろう? 使わないともったいないだろう? 俺達が有効活用しているってわけだ。そもそも、日本の高レベル冒険者をお前たちは脅威だと感じていた。そいつを殺すために、俺達は、少しだけ手を貸してやったに過ぎない」

「……つまり、ウィリアム国防長官を殺したのは――」

「それは、俺じゃねえな。ユーシスの野郎がやったことだ」

「ユーシス!? 四聖魔刃のユーシス・ジェネシスのことか!?」

「その通りだ。とりあえず、邪魔をされると困るからな。お前たちには――、死んでもらおうか?」


 ランハルドが静かに呟いたと同時に、クルーガーの頭が粉々に弾け飛ぶ。

 周囲には、クルーガーの肉片が散らばる。

 それと同時に、アメリカ合衆国の陸軍将校たちが、ランハルドに向けて発砲するが――、全ての銃弾が男の前で停まる。


「どういう……」

 

 一人の兵士が空中で停止した弾丸を見て言葉を紡いだと同時に体の半分が消しとんだ。


「ハハハハハ! 呆けているんじゃねえぞ? 世界の警察って言う言葉は嘘なのか?」

 

 狂人のように――、愉快に笑いながら狂気を宿した視線で両手に生み出した青い色をしたデザートイーグルの引鉄を引き続ける。

 何度も――何度も――。

 弾が尽きる様子は微塵も見せず威力も、明らかに常軌を逸しており放たれた銃弾は雷を纏ってすらいる。

 

 たった一発で装甲車両を装甲を打ち抜き破壊。

 人間の体など原型すら留めず、ただの肉塊へと変えていく。

 

 ――そして、ランハルドが攻撃を開始して僅か1分で百人以上いたアメリカ合衆国の仮施設内は、誰一人生存者のいない地獄へと化した。


「それにしても弱えな。クーシャン・ベルニカの野郎を倒したピーナッツマンと戦いたかったぜ。まぁ、そいつとは、許可が下りれば出来るとして――、あとはユーシスが虚ろな神を殺すだけだな。俺は、それまで結界の維持か。全く面倒なこと、この上ないぜ。まぁ、夜刀神ごと殺す予定だったが――、どこまで上手くいくもんかね」




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