第132話 はふりの器(31)
「眩しいな……」
瞼を開ける。
どうやら、もう朝のようだ。
俺は、外から窓越しに入ってくる太陽の光を眩しく感じながら布団の中で2度寝するために目を閉じる。
――トントン
ドアが数度叩かれる。
「お兄ちゃん、もう朝だよ! 起きないと駄目だよ!」
ガチャっという音と共に、妹の鏡花が部屋に入ってくる。
「お前は、また学生服を着ているのか?」
「うん! 男の人って女子学生の服が好きって公民館のネットで見たの!」
妹の名前は、山岸鏡花。
身長は150センチほどの小柄。
腰まで届く艶のある黒髪に、大きな円らな黒い瞳、鼻筋の通った顔つきに小さな唇といい、――兄の俺が言うのもなんだが、かなりの美少女である。
まぁ、妹は妹だ。
「お前は、俺のことを何だと思っているんだ」
「私のことが大好きなエロ大魔神?」
「――ちっ」
「待って! いま、舌打ちしたよね!」
「別にしてない。――というか今日は、帰省してきたばかりのせいか変な夢を見て寝足りないんだから寝かせてくれ」
「うん。わかったの」
布団にくるまりながら俺は目を閉じる。
すると妹の鏡花が布団の中に入って来た。
「おい。お前まで俺と一緒に寝ようとするな」
「えー、だって私だって――、にいにと一緒に寝たいし!」
「俺は一人で寝たいんだが……」
――ドンドン!
「せんぱ……、直人さん!」
部屋の中に聞いたことがない声が響く。
この家には俺と鏡花しかいないはずなんだが……。
布団から顏を出して部屋の出入り口の方へと視線を向けるとガチャっという音と共に見知らぬ女性が部屋に入ってくる。
「…………あの、どちら様でしょうか?」
「見たことがない女性だ」
「鏡花、お前の友達――、じゃないよな?」
どう見ても20歳近い女性。
美少女といっても16歳の妹の鏡花とは接点が見いだせない。
「――あっ! 言い忘れていたの! この人は佐々木望さんって言ってお父さんの知り合いみたいなの」
「親父の?」
「うん。他にも何人か来ているけど――、お父さんがね、しばらく東京に行くみたいで、うちで面倒を見ることになったの」
「なるほど……」
しかし……、親父の知り合いってことになると仕事関係と言ったところか。
「佐々木さん、直人さんじゃなくて山岸さんじゃないと――」
「えっ……、――で、でも……、山岸さん……。なんか、こんなのもいいね! 江原さん」
「佐々木さん……」
もう一人、部屋の出入り口から姿を現したのも美しい女性。
親父は、母親が死んだからと言って外で浮気をしているのか? と、一瞬だけ考えてしまうが――、その可能性はないなと即否定する。
そして俺はすぐにベッドから出る。
さすがに俺の親父の知り合いなら、きちんと対応しないと不味いだろう。
すぐに服を着る。
「すいません。山岸直人と言います。妹の鏡花からは、親父の知り合いということで伺いましたので、何かありましたら、何でも言ってください。出来るだけのことはしますので――」
「…………はい」
「こちらこそ、お願いします」
佐々木と呼ばれていた女性が、泣きそうな表情をして頷いてきたが――、何かおかしな事はしていないはずなんだが……。
「あの、山岸さん。村の中を見てみたいのですけど……」
「ああ、別に構いませんが――、少し待っていてもらえますか?」
「分かりました」
江原と呼ばれた女性が、佐々木と呼ばれた女性を連れ立って部屋から出ていく。
「なあ、鏡花」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「あれって、本当に親父の知り合いなんだよな?」
「うん! お父さんは、そう言っていたよ!」
「そうか……。俺、佐々木って女性に何か不謹慎な事を言ったか?」
「ううん。何も言ってないよ。きっと朝だから眠かったのかも?」
「それならいいんだが……」
どうも、そんな感じがしないんだよな。
それに――、何だが良く分からないが――、喉に魚の骨が刺さっているような感じと言えばいいのだろうか?
自分でも良く分からないが、彼女が泣いている姿は――、どこかで見たことがあるような気がするのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます