第122話 はふりの器(21)第三者視点

「星が一つの生命体? ……それって、ガイア理論のこと? 星と生物が相互に影響し合う事で星の環境を作り上げていく物だって以前に……」

「ふむ。いまの人間の世でも、その程度のことは分かっているのじゃな」

「……うん。でも、それって……」

「藤堂、もし宿主に寄生した生物を、宿主が危険だと判断したらどうなると思う?」


 その問いかけに答えるのは、とても簡単であり簡潔。


「排除するよね?」

「その通りじゃ。そして――、星の怒りに触れた古き旧文明は、自らが作った施設をまず攻撃された。無限の資源を生んでいた施設は浸食され複雑な構造を持つダンジョンへと変化した。そして――、番人として我々狂った名もなき虚ろな神が配置された。星の意思には逆らえんからな……。そして、我々が生み出した魔物はダンジョンから這い出ると同時に旧文明に攻撃を仕掛けたのじゃ」

「それって……」


 ゴクリと藤堂は唾を飲み込む。

 

「それで、どうなったの?」

「我も、ダンジョンが山岸直人に攻略されるまでは、自らの意識をダンジョンの管理に割かれていたこともあり記憶が曖昧なのじゃ。そのために、どういう風に問題が収束したのかまでは分からないのじゃ。じゃから、少しでも情報が欲しいのじゃ。同胞をすくうためな」

「そうなんだ……」

「うむ。だから、決して今の現状は楽観視できることではない。特に星の迷宮が出現したということは――」

「人間を滅ぼすことを考えている? 星が?」

「その可能性は非常に高いのじゃ」

「でも、それなら――、何で日本に世界のダンジョンの9割もが集中しているの?」

「そんなのは決まっているのじゃ。星の管理者は恐れているのじゃよ。この国の人間が信仰している八百万――、天津神と国津神をな。この国の人間は、自分たちが間違いを犯した場合、神に責任転嫁することはまずはしないじゃろう?」

「そ、そうなのかな?」

「まぁ、そのへんは追々と分かるじゃろう。ダンジョンが日本に集中しているのも、それが原因じゃからな――!」

「どうかしたの?」


 口を閉じた狂乱の神霊樹に怪訝な表情を藤堂はするが――。


「藤堂、すぐに逃げるんじゃ――」

「え?」

「早くするのじゃ!」


 狂乱の神霊樹は、命令に近い言葉を発しながら髪の毛を伸し藤堂の肩に乗る。

 それと同時に彼女は、襖を開け玄関まで走り靴を履いたあと境内へと出るが――、走りながら藤堂は冷や汗が体中から吹き上がるのを感じていた。


「――何!? これ、すごく嫌な感じが近づいてくる」


 藤堂は階段を走って降りていく。

 それと同時に後ろから何かの気配が近づいてくるのを感じる。


「藤堂! 飛べ!」


 狂乱の神霊樹の言葉と同時に、藤堂は階下に向けて跳躍し――。


「――くっ!」


 狂乱の神霊樹が伸ばした蔓が数十段下の階段に落ちる衝撃を緩和する。

 それと同時に、藤堂の頭上を100を超える炎の塊が過ぎていくと、遅れて爆発音が周囲に響き渡る。


「藤堂さん! すぐに降りてきて」


 佐々木望の言葉に、藤堂は後ろを振り向かずに階段を下りて合流を果たす。

 すでに富田は、車の運転席に乗っておりエンジンをかけておりー―。


「茜さん! 車に乗ってください!」

「江原さん?」

「早くしてください! 後ろを振り向かないで!」

「――う、うん」


 藤堂が車の後部座席に乗りこむと同時に車は走り出す。


「佐々木さんは?」

「すぐに来るから」


 身体強化魔法を発動中の佐々木は100メートルを超える長大な跳躍をしながら、氷の魔法を発動させ100を超える氷の槍を作り出し、黒煙が舞い上がる階段の中腹へと魔法を放つ。

 

 ――そして、それらが全て着弾するまえに粉々に砕かれた。


「一体、あれは何――?」


 彼女――、藤堂の言葉に答えられるのは一人しか、その場にはいない。


「あれは、信仰心が存在する正真正銘の神じゃ――」

「それって、狂乱の神霊樹さんと同じ?」

「同じではないのじゃ。今の我は、マスターと契約をして存在しておるのじゃ――。じゃが、やつは人々の信仰から存在しておる正真正銘の神――、しかも奴は不味い」

「不味いって?」

「あれは、戦いに特化した神じゃ。どうやって顕現し――、何故、我らの邪魔をしてきたかは知らぬが……、いまは逃げるしかないのじゃ」

「江原さん、村の出口が――」


 富田の声に――、全員の視線がフロントガラスの正面に向けられる。


「村に入ってきた道が倒木で通れない?」


 呆然と呟く江原。


「やつめ。追ってこないと思ったら、こちらの逃げ道を塞いできおったのじゃ」

「――なら倒す?」


 藤堂の言葉に狂乱の神霊樹は頭を振る。


「どう足掻いても顕現した神には勝てん。いまは逃げることが先決じゃ」

「富田さん! 向こうに見える山道を走れば、上落ち村を抜けて県道に抜けられるみたい」

「分かりました。掴まっていてください!」


 江原の言葉と同時に富田が車のアクセルを全開で踏むと同時に山林を突っ切ると同時に山道へと車線変更する。

 その際にサスペンションが悲鳴を鳴らす。


「マスター! 魔力が尽きてもよい! 魔法で奴の足止めをするのじゃ!」

「うん、分かってる!」


 突然、襲ってきた存在。

 それが魔法を一瞬の内に切り裂いたのを佐々木望は見ていた。


 そのため狂乱の神霊樹を除けば、襲ってきた敵対者の脅威をもっとも直に肌に感じていた。

 佐々木は、上空に2メートルを超す氷の槍を数千発生み出す。

 そして、走り向かってきている仮面の男へと放った。

 



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