第121話 はふりの器(20)第三者視点

 藤堂は思わず口を噤む。

 狂乱の神霊樹が言った666というダンジョンの数字。

 そこには何かしら規則性があると――、そう狂乱の神霊樹は告げたように思えたからだ。


「よくは分からないけど……」


 彼女――、藤堂茜は、――そう、言葉を前置きする。


「666って悪魔の数字って言われているんだけど……」

「悪魔か……、そうじゃな――。確かに言いえて妙じゃな」

「それって正解ってことじゃ……、ないよね……」

「うむ」

「666というのは、かつて存在していた旧文明が作った施設の数じゃ」

「旧文明? 施設?」

「そうじゃ、お主らがダンジョンと呼ぶ存在――、それが旧文明の類人猿が作った施設の成れの果てなのじゃ」

「人間が作った施設の成れの果て?」


 あまりの突拍子も無い言葉に藤堂は理解が追い付かない。

 何故なら――。


「そんなのあり得ないから!」


 思わず、無意識の内に彼女の語尾が強くなる。


「どうしてじゃ?」

「だって! その頃って――、縄文時代だよ? いまの人間の文明ですら作れないものを縄文時代の人間が作れるなんてとても信じられないから!」

「やれやれ――」


 藤堂の言葉に呆れたような声で溜息をつく狂乱の神霊樹は、お盆の上に置かれていた湯呑に、緑色の髪の毛を伸ばすと中に突っ込みお茶を飲み始める。


「何よ! 私が何も分かっていないみたいな態度は――」


 彼女――、藤堂の言葉に畳の上に座っていた狂乱の神霊樹は視線を向け――。


「お主は、いまの人類が優れた文明を持っていると思っておるのか?」


 ――そう、語り掛ける。

 藤堂は、義務教育で習った縄文時代ということを思い出しながら頷くが。


「小さい範疇で物事を見るのは類人猿の性なのじゃ」


 呆れた物言いで狂乱の神霊樹は言葉を紡ぐ。


「我が、佐々木望と契約を結んでから現在の人間の歴史は見た。そこには過去数千年程度の歴史しか書かれていなかったのじゃ。――さて、藤堂とやら――、類人猿の歴史は、どのくらい存在すると思っておるのじゃ?」

「それは……」

「お主ら、現代人類は人類の誕生は700万年前頃と仮説しておるのじゃろう? たった数千年で、文明を急速に発展させておいて、700万年の間に、現在よりも優れた文明が存在していなかったと思うのはナンセンスではないか?」

「……」

「沈黙は、肯定として受け取るのじゃ」


 湯呑の中から髪の毛を抜いた狂乱の神霊樹は見上げると藤堂を見る。


「さて――、それでは話を続けるのじゃ」

「施設の事? でも、どうして施設なんて作ったの? それで、どうして成れの果てがダンジョンなの?」

「うむ。それには、旧文明のことを説明しなければならないのじゃ。藤堂、お主はレムリアと言う言葉を知っておるか?」

「それって……、隣国のレムリア帝国のこと?」

「違うのじゃ――、1万年前に存在した王国のことなのじゃ」

「知らないけど……」

「じゃろうな……」


 そう、呟くと湯呑の中から髪の毛を戻す。


「レムリア大陸が存在していた遥か昔。人類は大地を汚し人口爆発で多くの者が飢え、少ない食料や水で争い殺し合いをしておった。そして……、それを神に責任転嫁しておった。そして……多くの神々が狂っていった。そして、人間は、とうとう禁忌を犯した」

「禁忌?」

「レムリア大陸、アトランティス大陸、ムー大陸に存在していた国々は滅びかけている種を存続させるために、星の活動エネルギーを資源に変える術を生み出した。それが施設じゃ」

「――それなら、それで皆が助かったんじゃ……」


 藤堂の言葉に狂乱の神霊樹は首を振る。


「藤堂、お主は星は一つの生命体だと言う事を知っておるか?」




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