第二章 幕間

第50話 日本国政府(2)

 ――首相官邸3階。

 

 その南会議室の扉が閉まると同時に、小野平防衛大臣は――、この国の首相であり第99代 日本国総理大臣 夏目一元へと視線を向ける。


「総理、よかったのですか? あのような立ち振る舞いを許して――」


 小野平の言葉に、夏目は頷くと口を開く。


「許すも許さないも、あの男が提示してきた資料には、それだけの価値があるだろう? それに、ああ言う問題の解決方針を金で済まそうとする輩の方が正義と喚く輩より遥かに信用できる。何故なら自分の正義に酔う連中ほど救えない奴らはいないからな」


 そう呟いたあと、夏目はタブレットに視線を落としたあと指を画面に這わせる。

 タブレットに表示されていたのは野党の不正情報だけではない。

 官僚の使途不明金までもが詳細に書き込まれてくる。


「それに、このデータだけで、数千億の価値がある。消費税を下げようと思っていたが、財務省からの抵抗で中々行えなかったからな」

「ですが……」

「小野平、勘違いをするなよ? 我々がしないといけないことは、国民の生活向上だ。そのためには暴言やどんな罵りでも甘んじて受ける。それが我々の仕事だろう? そして、そのために私は総理になったのだ」

「――っ!? そ、そうでしたな」

「分かればいい。200億の資金は、私の口座から出しておくとしよう、しばらくは席を外してくれたまえ」

「かしこまりました」


 会議室から、小野平が出ていく。

 扉が閉まるのを目で確認したあと、夏目は、タブレットを操作しながら山岸のプロフィールをチェックしていく。

 それは山根が調べたもの。

 そのプロフィールに目を通していた夏目の視線がある一点を見たところで止まる。


「上落ち村の出身?」


 眉間に皺を寄せた夏目は、タブレットを使い上落ち村の情報を閲覧していく。


「やはりな……、どこかで聞いたことがあったと思ったが……」


 タブレットの画面には、KB(クリエイィブバンク)と東亜ソーラー開発株式会社が関わっていた事業――、メガソーラー設備を斜面に作ったことで、斜面が広域に崩落。

 斜面を作ることを反対していた上落ち村を膨大な土砂が襲い183人が死亡。

 生き残りは1人と書かれている。


「なるほどな」


 さらに夏目が資料を読み進めていく。

 山根が調べた資料の中には、山岸が大手コールセンターに勤めていた経緯。

 その際に、顧客情報を不正に開示していたことも書かれている。


「ふむ……」


 顎に手を当てたまま、夏目は腑に落ちない表情をし――。


「どういうことだ? 我々に、野党や官僚の情報をリアルタイムで送りつけてくる人間が、どうして態々、大手のコールセンターで雇用され、ログを残すような方法で物事を調べる必要があるのだ? 腑に落ちんな」


 さらに山岸直人という男のプロフィールと職歴と学歴を夏目は見ていく。


「ダンジョンツアーに参加しているのか。――なるほど、レムリア帝国の兵士が襲ってきた時にも居たの……か!? まさか……、いや――、可能性は非常に高いな。あの男――、人を殺してレベルを上げた可能性がある。地面を突き破り天空へと放たれた緑色の光。もし、あれが山岸直人の魔法だったとしたら……、レムリア帝国の兵士が倒れていたことも、我々に提供された情報も魔法で得られたものならば、すべての説明がつく。おそらく山岸という男、最低でもLV600を超えている。しかし……」


 夏目は、ひと呼吸おくとタブレットをテーブルの上に置く。


「何の力も、戦い方も知らない、最初は持たない人間がレムリア帝国の兵士を倒せることがナンセンスではないのか? もし倒せるとしたら、それは何かしら武術を修めていなければできないことではないのか?」


 夏目は一人呟きながらも、ふと何かに思い至ったのかテーブルの上に置いたタブレットを再度、手にとると画面上に【上落ち村】【武術】と打ち込んで検索をかける。

 すると、画面上にいくつかHITする。


 そこに表示された文字には、どれも疑わしいものばかりで――。


 さらに、夏目はタブレットの画面をスクロールしていくと、夏目の視線がタブレットの画面上に釘付けになった。


「上落ち村に存在していた神社は、毎年、天より堕ちた神々を鎮める祭祀を取り仕切っていたのか……、これはさすがにな……」


 さすがに神々が居るなど空想もいいところであったことから夏目の関心は急速に薄れていった。



 


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