第49話 誰がために鐘は鳴る(6)

 一気にキナ臭くなってきたな。

 そもそも、国家がそんなに簡単に人の命を奪っていいものなのか?

 いくら、国内が混乱するとは言っても程度というものがあるだろうに……。




 ――主、山岸直人。




 なんだ?




 ――年間3万人も自殺者が出る日本国において200人の死者は誤差にすぎません。

 ――効率面から見れば、たった200人で国の内乱を未然に防げるのですから合理的と言えます。




 ………………そう……だな……。

 スキル「大賢者」の言っていることは間違ってはいない。

 間違ってはいないが……、殺された者にも家族や子供が居たかもしれないのだ。




 ――主、山岸直人。貴方も殺される一人だったということを忘れてはなりません。

 



 ……たしかにな。

 山根が、俺に向かって拳銃を向けて撃ってきたときは内心驚いたからな。

 それにしても、自衛隊というのはいつも拳銃を所持しているものなのか?

 



 ――答えは否です。山根2等陸尉は、陸上自衛隊の階級を持っていますが実際のところは、日本ダンジョン探索者協会の特殊戦隊班に所属しています。

 ――日本ダンジョン探索者協会は、高レベルの探索者が殺人などを犯した際に、生死問わず処理する権限が与えられています。そのために拳銃の携帯は、日本ダンジョン探索者協会の特殊戦隊班には許可されています。




 ……ふむ。

 だが、どうして――、そこまで日本ダンジョン探索者協会は力を持っている?




 ――日本ダンジョン探索者協会の先駆けの組織となる、日米合同の海兵部隊は、現レムリア帝国が滅ぼした国が亡ぶと同時に竹島の奪還作戦を行い成功させたからです。

 ――その際の、死者はゼロと言うこと。あとは長年、不当に奪われていた島と領海、奪われた際に犠牲になった100人を超える日本国民、4000人を超える拘束された日本国民の無念を晴らしたという理由から、日本国内だけでなく海外からも高い支持を受けたためです。

 ――その中には、1年後の日本国総選挙で圧倒的支持を得て当選した第99代日本国総理大臣 夏目(なつめ) 一元(かずもと)が指揮官として居ました。




 それは、知っている。

 しかし、竹島奪還を実行した日米海兵部隊が日本ダンジョン探索者協会の前身だとは思ってもみなかった。

 ――というか、そこまで調べることはしなかったというのが正確なところだな。


「山岸直人殿。そろそろ到着しますぞ」


 スキル「大賢者」とログで会話していたところで竹杉が俺に話しかけてくる。

 車は、首都高を降りたあと銀座を過ぎ皇居の方へと走り始めた。

 車は国道246号線に乗り換え、しばらく走る。

 すると左手側に日の丸が掲げられた街頭が見えてきた。


 車は左ウィンカーを出しながら左折し停車すると、首相官邸まで伸びている道を封鎖していたゲートが開けられる。

 ゲートが開いたあとは、車は首相官邸敷地内を走り、首相官邸前で停車した。


「山岸直人殿、到着しましたぞ」


 竹杉が語り掛けてくると同時に、車のドアが開く。

 車から出たあと、竹杉が車から出てくる。


「お待ちしていました」


 車の外には3人の黒いスーツを着た男。

 スキル「解析LV10」で確認したところ3人ともレベルは200を超えている。


「彼らは?」

「首相官邸内の案内を担当する者達です」

「なるほど……」


 表面上は、竹杉の言葉に頷きながらも気を引き締める。

 3人とも、内閣情報調査室と日本ダンジョン探索者協会殊戦隊班に所属しているからだ。


 やれやれ――。

 正直に言ってくれた方がいいんだがな。



 内閣情報調査室の男が先頭となり、そのあとを竹杉――、そしてその後ろを俺が着いていく恰好になった。

 俺の後ろには2人の男が着いてくるが、サングラスをつけているせいで表情を読み取ることが出来ない。


「こちらになります」


 案内されたのは首相官邸の3階――、南会議室。

 竹杉のあとに俺も部屋に入る。

 

 ――そして扉が閉まった。


 室内は薄暗い。

 



 ――スキル「暗視LV1」を手に入れました。




 とりあえずスキル「暗視LV1」を起動――、アクティブ状態へと設定すると一瞬で室内が明るくなる。

 室内は、俺を含めて4人しかいない。


「お待たせいたしました。夏目総理」


 竹杉が立ったまま、椅子に座っている人物に語りかけた。

 男は一度だけ頷く。


 ――そして、「気にすることはない。それより彼が?」と答えてきたのは、隣の椅子に座っていた男。

 その男の顔は見覚えがある。

 一応、念のためにスキル「解析LV10」で確認をしておく。




 ステータス


 名前 小野平(おのだいら) 五木(いつき)

 職業 政治家 自由民政党所属 防衛大臣

 年齢 52歳

 身長 176センチ

 体重 61キログラム

 

 レベル3670


 HP36700/HP36700

 MP36700/MP36700


 体力24(+)

 敏捷15(+)

 腕力13(+)

 魔力 0(+)

 幸運19(+)

 魅力21(+) 


 所有ポイント3669




 ――なっ!?

 れ、レベル……、3670……だと!?

 どうして、政治家が――、それだけのレベルを!?




 ――主、山岸直人。どうやら、政治家はレベルが上がりやすい体質となっているようです。




 どういうことだ?




 ――得られた情報から確認できる限り、政治家は政策により国民の生殺与奪の権利を有しています。

 ――つまり、国民が自殺であっても交通事故であっても、【死ぬ】と言う事象は【殺す】という事象に変換されるため、何もせずともレベルが上がるようです。

 ――特に与党の場合は、それが顕著のようです。




 なるほど……、まるでチートだな。




 ――主、山岸直人も一般の探索者の基準から見ればチートです。




 スキル大賢者が突っ込みを入れてくるが無視する。

 その間も、竹杉と小野平の話は進んでいた。


「なるほど、彼が山根2等陸尉が対応したという男か」

「はい」

「そうか……」


 男は――、小野平防衛大臣は椅子から立ち上がると近づいてくる。

 そして、俺の目の前で立ち止まる。


「初めまして、私は小野平(おのだいら) 五木(いつき)です。日本国政府、自由民政党に所属しております。今期は、日本党の防衛大臣をしております」


 別の政党から抜擢? 俺は椅子に座ったまま一言も話さない男――、夏目一元へと視線を向けるが……、座ったままの男は、俺をまっすぐに見てきているだけで微動だにしない。

 

 ――だが、相手が自己紹介をしてきたのだから俺も返さないわけにはいかない。



「山岸直人です」



 俺の言葉を聞いた小野平は、突然――、「山岸直人殿、このたびは私の部下が大変ご迷惑をおかけ致しました」と、小野平防衛大臣頭を下げてきたと同時に、視界内に半透明のプレートが開きログが流れる。




 ――主、山岸直人。目の前に存在している不躾な輩との応対は私に任せて頂けますか?




 スキル大賢者に任せる……か……。

 何となく嫌な予感がする。




 ――大丈夫です。

 ――少なくとも20社以上、就職で落ちている主よりは交渉は上手くできると自負しています。

 ――それに、主も私が日本国政府にどのようなメールを送ったのか、そこはご存知ではないと思いますので……。




 好きで就職に落ちているわけではないんだが……。

 一度大賢者とは、しっかりと話した方がいいな。


 仕方ない。

 大賢者が、どのような情報で日本国政府とやりあっているのか分からないからな。


 ……それにしても、今回の大賢者はやけに積極的な気がするんだが、気のせいか?




 ――主、山岸直人。相手は、この国の日本国首相と防衛大臣です。

 ――こちらの言質を逆手に取ってきた場合、対応が難しくなります。

 ――そのため、私が対応した方がベストだと思います。




 ……仕方ない。

 そこまで言うなら一回任せてもいいのかも知れないな。

 

 ――だが問題は起こすなよ?




 ――肯定です。

 ――それでは、最大限の戦力を持ってして敵を殲滅します!




 殲滅って……、一応は話し合いをする前提なのだが……。


 心の中で突っ込みを入れながらも視界内の半透明なプレートに「――演武LV1をアクティブへ設定しました」というログが流れる。

 それと同時に体が勝手に動く。




「大変、ご迷惑をおかけしました? 一体、どこの口から、どういう意図を持って、そんな言葉を吐けるんだ?」


 右手で前髪をかきあげる。

 そして溜息交じりに威圧LV10を発動させながら、小野平防衛大臣へと視線を向け言葉を発する。

 

 俺の様子に横に立っていた竹杉が顔色を変えるが、俺というよりも演武LV1を通して俺の体と口を動かしているスキル「大賢者」は口を開く。


「そもそも、部下の迷惑を上司が取るのは当たり前だろう? そして、拳銃を向けて発砲してきた時点で、大変! ご迷惑をかけた! ってレベルじゃないんだが? そのあたりまで考えて発言しているんだろうな?」


 いつもとは打って変わって攻撃的な発言をするスキル「大賢者」。

 まさしく言い方がクレーマーのようだ。


「申し訳ない。言葉を選び間違い――「何を言っているんだ?」……」


 小野平が謝罪の言葉を言い終わらない内に、スキル「大賢者」が言葉を被せる。


「俺は、別に謝罪をして欲しいわけじゃない」

「どういうことでしょうか? 謝罪は必要ないと?」

「何を、どう考えたら――、そういう考えに行きつくんだ? 謝罪なんて言葉は、お前ら政治家が、問題を起こしたらいつもやっていることだろう?」

「それは……」

「お前達はいつもそうだ。何か問題を起こした時、外国人から献金を違法と知っていたにも関わらず受け取った時、反社会的団体や組織にパーティ券を買わせた時、裏で諸外国と繋がっていた時、法律に違反していた時――、全てにおいてお前らは責任を取ることはしない。口では、「ごめんなさい」と謝罪し、謝罪で済まない場合には、秘書が勝手にした事だと生贄にして逃げる。本当の責任や謝罪の取り方ってのはな――、自分自身の進退をどうするか、それとも相手に迷惑をかけた以上のメリット提示するか、どちらかしかないんだよ。土下座? 謝罪? くだらないな――。それのどこに誠意が見えるというんだ?」

「そ、それは……」

「答えられないのか? 俺は、目に見える形で謝罪をしろと言っているんだが? それすら小野平、貴様には出来ないのか? いい年をして謝り方すら知らないとは日本の未来も先が見えるというものだな」


 俺の体は勝手に動き――、壁際に寄せてあった椅子を片手で持つと南会議室の中央まで移動させる。

 そして椅子に座ったあと、両足を組む。

 

「さて、もう一度聞くが、この俺様に対して、どこまで日本国政府は謝罪の意を示せるのか――、それをまずは知りたいものだな?」 


 普段の俺では絶対に言わない言葉がスラスラと口から零れ落ちてくる。

 スキル「大賢者」が操った俺が発した言葉。

 それに――、日本国首相官邸3階――、南会議室の空気がピン! と張り詰める。

 

 ――俺としては、さすがに言い過ぎだと思うが。

 

 だが、大賢者が言っていることは間違ってはいない。

 陸上自衛隊所属の山根に銃口を向けられたのは紛れもない事実。

 そして、普通の人間なら殺されていた。

 それは覆しようの無いこと。


 ただ、俺の身体能力がレベル補正のおかげで常人の域を遥かに超えた状態まで強化された。

 だから、死ななかった! と言うか避ける事が出来て傷1つ負うこともなかった。


 それだけだ。


 ……ただし、もう少し言い方というか遠まわしに交渉する必要があったのでは? と思ってしまうが……。




 ――主、山岸直人。私達が相手をしているのは、事実を捻じ曲げ言葉巧みに責任から逃げ惑い自らの保身を第一に考え国民のことなど何も考えない愚かな政治屋です。

 ――彼らは政治家ですらありません。遠まわしに言ったところで自分の都合のいいように解釈するだけです。




 そうか……。

 ようやく理解できた。

 スキル「大賢者」が、相手を殲滅すると言った意味が――。




 ――ご理解頂けまして幸いです。




 いや、別に同意はしていないが……。

 だが一応、許可を出した手前――、それにスキル「大賢者」に任せると言ったのだから、最後まで責任を持ってやり遂げてもらうしかない。

 何せ、こんな中途半端なところで変わっても俺にはどうしようもないからな。

 

「謝罪の意ですか……」

「そうだ」


 俺が思考中も大賢者は、小野平防衛大臣をまっすぐに見据えながら頷く。

 

「たとえばですが……、それでは目に見える物と言えば金銭などでしょうか?」

「そうだな。金銭が一番、分かりやすいだろうな」


 小野平の言葉に横柄に頷く俺――、というか大賢者。


「――それで! 幾ら用意できるんだ? 俺様は、現金ニコニコ一括払いしか受け付けないぞ?」

「それでは……」


 一度、小野平防衛大臣が夏目総理と視線を交わすのが見えた。

 

「現金で1億など――」

「お前は、俺を舐めているのか?」


 相手が言葉を言い終える前に大賢者が口を開く。


「貴様らに送ったメールは見たよな?」

「…………」


 苦々しい表情で頷く小野平防衛大臣。


「41だ! この数字が分からないお前らではないだろう? 分からなかったら不倫の証拠でも特ダネということでマスコミに配布してやってもいいんだが? なあ? 小野平。人様の税金で若い女が商売をしている場所で食う飯はうまいよな?」

「ギリッ! ……わ! わかりました! よ、4千百万円で――」

「おいおい――、俺様もずいぶんと安くみられたものだな!」


 もはや完全にヤクザモード。

 脅しが多分に見られるが――、誰一人止めようとするものがいない。

 威圧スキルと演武スキルの効果がどうかは定かではないが……。


「小野平。良い事を教えてやる。貴様らに送ったメールには添付ファイルがついていると思うが開いてみろ」

「添付ファイル?」


 大賢者の言葉に、小野平は夏目総理の元まで小走りで向かうとテーブルの上に置かれていたタブレットを手に取り指を動かしている。

 そして、小野平防衛大臣の視線が左右に動くと共に、彼の顔色が真っ青になっていく。


「――こ、これだけの情報をどこで……」

「お前が気にすることではない。それより、どうだ? 普段は、貴様らが管理・監視している一国民に自分達の情報が筒抜けになった気持ちは? なぁなぁ? 今! どんな気持ちだ?」


 大賢者が、ニヤ付いた顔で小馬鹿にした声で小野平防衛大臣を煽り続ける。

 

「山岸直人殿。そのへんで――」

「いま、良い所なんだ。俺様の邪魔をするな」


 すでに俺様モードの大賢者。

 完全に暴走状態に入っていると見ていいのか?




 ――主、山岸直人。これらは全て演技です。相手の冷静さを失わせこちらに有利な状況を作り出しているところです。(私の趣味は99%しか含まれていませんので、ご安心ください)




 ……そうか。

 一瞬、大賢者がドSなのだと勘違いしたが、有利な状況を作り出す為なら仕方ないな。

 半透明のプレートに表示された最後の方の文字は、小さすぎて見えなかったが問題はないだろう。




「さて、お前らには罪状はいくつかあるが一つは、俺様の部屋に土足で踏み入り盗聴器を仕掛けたこと。拳銃を発砲してきたこと。そして会社のこと――、そして俺様の手間賃だ。いくら支払う? 別に貴様ら日本党のスキャンダルが世界中に流れて日本のクリーンなイメージが吹き飛んでも良いなら! 別に金を払う必要はないぞ?」

「……お、脅しか……」


 小野平の言葉に、俺の体は勝手に動く。

 そして両手を上に上げる。


「別に脅しではない。俺様は、あくまでも被害者だからな。被害者には加害者からお金をもらう権利があるだろう? 小野平、貴様は責任を取ると言った。なら、どう責任を取るのか? 取れるのか? どれだけの判断材料が必要なのか? 貴様ら政治屋共は、そこが明確に定まっていないと身動きが取れないのだろう? 俺様は、それを教えただけにすぎない。むしろ教えた事への感謝の気持ちとして、レクチャー料を100億円ほど請求してもいいくらいまである」


 ――その言葉に会議室全員が何を言っているんだ、コイツ!? と言う表情を見せる。


「それにな――、お前は、自分の進退の価値に、どれだけの価値を見出している? 日本党の価値にどれだけの価値があると思っている? つまり、お前が今から俺様に払うお金ってのは、貴様らが自分達にどれだけの価値があると思っているのか? という答えでもあるんだぞ? さあ! いくら俺様に払う? あとな! 次に、あまり舐められた態度を取られると、さすがに気長な俺様でも気がついたら、情報をマスコミに流してそうだからな! 注意して答えろよ?」

「200億だ! 日本党の助成金を全て山岸直人に払おう」

「ほう?」


 視線を声の方へと向ける。

 そこには、未だに椅子に座って背もたれに体を預けたままの男――、日本党の総帥であり日本国 第99代 内閣総理大臣 夏目(なつめ) 一元(かずもと)が居る。


「どのような交渉をしてくるか興味があり見ていたが、なかなかどうして面白い男だ。俺様などと交渉の場で言ってくるような人間なぞ見た事がない。だが、生憎――、我が政党が保有している助成金は現在200億円だ。助成金を渡すことは出来ないが、それと同等のお金を私のポケットマネーから出そう。それならば文句はないだろう?」

「話が早くて助かるな」


 大賢者は肩を竦める。


「――そ、総理!?」

「小野平君、君は黙っていたまえ。彼が求めているのは誠意であり謝意だ。値切るなどという行為は、愚行であり相手を、それだけの価値しかないと見下しているのと同じだ。――なら、ここは潔く払うものは払った方が上に立つ者としては正しい」

「――で、ですが!?」

「くくくっ、ハアッハハハ! さすがは、元・軍人であり探索者でもある夏目総理! その思いっきりの良さは中々のものだ」

「貴様も、ずいぶんと人を食った交渉をするものだ。――ところで、この資料の――」

「ああ、野党の不正資金の流れの資料ファイルだ」

「ほう……」

「必要だろう? 餞別と言ったところだ。ただし――、1つ頼みがあるんだがいいか?」

「いいだろう。何でも言ってくれたまえ」

「俺様が住んでいるアパートの権利書を陸上自衛隊から返却をしてもらいたい。その代わりに、野党の不正が事細かく書かれたファイルのパスワードを教えてやろう。どうだ? 悪い話ではないだろう?」

「総理! この者が本当に、野党の不正が事細かく書かれたファイルのパスワードを入手できるとは!」

「君は黙っていたまえ。これはビジネスの話だ。そしてビジネスは迅速に物事を決めなければいけない」

「――くっ!?」


 夏目総理の言葉に、小野平防衛大臣の顔が歪む。


「分かった。要望は受け入れよう。しかし……」

「何だ?」

「いや、何でもない。さて――、食事でもどうかね?」

「必要ない。要件が済んだのだから帰らせてもらおう」

「そうか。では、車を用意させてもらおう。竹杉君、彼をエスコートしてくれたまえ」

「――は、はっ!」


 とんとん拍子に話が進みすぎる。

  



 ――主、山岸直人。交渉は成功しました。

 ――あとは、お任せします。

 ――スキル「演武LV1」がノンアクティブへ変更されました。

 ――スキル「威圧LV10」がノンアクティブへ変更されました。




 視界内の半透明のプレートにログが流れると同時に、体が自分自身で動かせるようになる。

 交渉が成功したと、スキル「大賢者」は言っていたが明らかに一方的な命令だったと思うのが俺の勘違いだろうか? 

 



 ――相手が、こちらの要望を呑んだ時点でそれは交渉成立です。




「それでは山岸直人殿。ご案内します」


 竹杉幕僚長に急かされるように、南会議室から出た。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る