第35話:本当の四大精霊魔法

「あ、主さまぁっ?」


 メリサが素っ頓狂な声を上げる。


「テオたちのしがらみの問題だから手は出さないのでは?」


「はぁ?我がいつそんなことを言った?単に面白そうだったから見ていただけよ。しかし、見てるとどうにも血がたぎってきての。我も参加させてもらうぞ」


「「そ、そんなあ~」」

 メリサとキツネの声がはもる。


「おいキツネ、これも当然賭けに入ってるんだろうな?」


「ふざけるんじゃねえ、こんな賭けは無効だ!無効に決まってる!」


 あちこちで騒ぎが起きているがルーシーは全く意に介していない。


「聞けばこの諍いはテオが我を作り出したことが原因というではないか。ならば我が参加することに問題はあるまいよ。もっとも反対したところで聞く義理はないがの」


 そう言ってアポロニオに不敵な笑みを返す。


「ふん、途中から加勢を呼ぶなど卑怯者のテオフラスらしいやり方だ。だがいい、どうせ貴様も処刑する予定なのだ。まとめて始末してくれる」


 アポロニオは改めて剣を構えた。


「そういうわけだ。貴様のことだから加勢は必要ないだろうが、我も楽しませてもらうぞ」

 ルーシーはテオに笑いかけ、テオはそれを見て苦笑した。


「やれやれ、仕方がありませんね。とはいえ、助かりました」


「では、仕切り直しと行こうかの」


 ルーシーは大鎌ハーベスターを構え直した。

 そしてアポロニオに向かって跳躍した。


「うおっ!?」


 予想外の速度に防戦に回るアポロニオ。

 ルーシーは右へ左へ自在に動き回りながらアポロニオを翻弄している。


「サ、サラ殿!援護を頼む!」


 アポロニオが叫んだがサラの動きはない。

 何故なら、サラはテオが放った封殺封印球ヘミスフィアに囚われていたからだ。


「カカカッ、相変わらず抜け目のない男よ!」


 ルーシーが哄笑する。


 しかしサラはインビクト王国一の実力を持った僧侶だ。

 テオの魔法と言えど十分もしないうちに破ってしまうだろう。

 その前に勝負を決める!


 テオはモブランに振り向いた。


「モブラン、君は私を陥れた。今の生活に不満はないが、私を謀った報いは受けてもらうぞ」


 その言葉にモブランの顔が怒りで歪む。


「何をぬけぬけと!貴様のことは前から気に入らなかったんだ!孤児の分際で頂点バーテックスなどと呼ばれて調子に乗りやがって!貴様さえいなければ私が魔王討伐の一員に加わっていたんだ!」


 叫ぶなり持っていた杖を捩じった。

 杖の中の空洞部分から魔晶を取り出し上空へ投げ上げる。


閃光フラッシュ!」


 まばゆい光が辺りを包み、見ていたものの目をくらませる。

 その隙にモブランは更に魔晶を投げ、別の詠唱を唱えた。


「我が四大精霊魔法究極の力を思い知るがいい!四精相殺アナイアレイション!」


 詠唱と共にテオの周囲に炎、水、風、土の柱が立ち上がった。

 それぞれの柱は次第に形を崩しながら渦を巻き、テオを包んでいく。


「どうだ!四大元素の相克があらゆるものを消し去る究極魔法の前にはいかなる防御魔法も無意味だ!塵も残さず消えるがいい!」


「テオォォォォッ!」


 ヨハンが絶叫する。


 だがしかし、その渦は突然消えた。

 何の兆候も示さずに、唐突に。


「なっ?」


 予想外の出来事にモブランは目を見張った。



 渦の消えた中心には、無傷のテオが立っていた。

 髪の毛一本乱していない。


「ば、馬鹿な……私の魔法は完璧だったはずだ!なんだ?何が起こったんだ?」


 驚愕するモブランの言葉に、テオは首を横に振った。


「魔法の制御が雑すぎます。魔道士協会ではこれを究極魔法と呼んでいますが、これは単に四代精霊の力を暴走させているにすぎません。相克によって消滅といってもそういう事象が不確定に起こっているだけの極めて不安定な魔法です」


 テオはそう言って両手をあげた。


「四大精霊全ての力を合わせるというのはこういうことです」

 そして詠唱を唱える。


四精共鳴グレートレゾナンス


 テオの詠唱と共にモブランの周りが揺らぎ、四つの影が現れる。


「こ、これは……サラマンダー、シルフ、ウンディーネ、ノーム?ま、まさか……魔晶も使わないただの詠唱で四大精霊が姿を現すなんて……こんなことが……あり得ない!不可能だ!」



 現れた四つの影だったが、やがて形が崩れていき、次第に消えていった

 しかしモブランは動かない。

 いや、動けなかった。

 いま、モブランの周囲は息もできないほどの濃密な魔素が取り巻いていた。


「完全に調和がとれた四大精霊の力は共鳴することで最大の力を発揮します。そしてその力はあらゆる物質を万物の根源たる魔素へと変換します」


 モブランの耳にテオの言葉が響く。

 その言葉の意味を知り、モブランの顔に恐怖が浮かんだ。


「ひ、ひいぃぃぃっ!」


 狂乱のあまりでたらめに詠唱を唱えるが何も起こらない。

 いや、正確にいうとモブランが魔法を発動させた瞬間に魔素へと変換されているのだ。


 焦って伸ばしたモブランの右手が虚空へ消えた。


「……ヒィヤァァァァァァ!」


 自分の腕が突然消えた事実に言葉にならない叫びをあげる。


「死にたっ」


 それが最期の言葉だった。

 モブランは消えた。

 言葉通り、跡形もなく。

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