第19話:ブレンドロットの支配者
「ふむ、大体の事情は分かった」
ルーシーが頷いた。
今、テオたちがいるのはザンギアックが居住していた屋敷だ。
元々はブレンドロットの領主が住んでいたらしいがザンギアックがその領主を殺し、居座っていたらしい。
ルーシーの前にいるのはザコーガ含め主だったオーク兵と、ブレンドロットの商工会のメンバーだ。
ブレンドロットに着くなりルーシーは町の代表者を集めろとキツネに命令をした。
目を白黒させていたキツネだったが、ルーシーの目が座っていくのを見るやいなや駆け出し、こうして町の主だったメンバーを屋敷へと集めたのだった。
最初は訝しんでいた商工会のメンバーたちだったが、オーク兵がルーシーに対して完全に怯え切っているのを見、更にザンギアックが殺されたことを知ってルーシーの力を認めるに至った。
「こいつらは酷いやつらなんです!元々この町は人界と魔界から人がやってくる豊かな町だったのに、こいつらのせいで稼ぎの半分以上奪われちまって生きていくのもやっとなんですよ!」
「そうだそうだ!こいつらときたら散々飲み食いして金を払わないなんて当たり前、時にはその日の売り上げを全部巻き上げちまうことだってあるくらいなんだ!」
「こんな奴ら出ていっちまえばいい!追放だ!」
息まく商工会のメンバーを前にしてオーク兵はうなだれている。
「テオよ、お主はどう思う?」
「そうですねえ、確かにオーク兵たちはやり過ぎていた部分もあるでしょうが、かといっていま彼らを全員を追放した場合どうなるでしょうか?」
「そ、それは……」
テオの言葉に商工会のメンバーも口ごもる。
問題ごとも多いがザンギアックたちの力でこの町の治安が守られていたのも事実だとわかっているのだ。
「そ、そうですぜ!俺たちだって怠けてたわけじゃねえ!今までに何人の犯罪者を捕まえてきた事か!」
ザコーガが口を開いた。
「それに牢獄の管理や町の境界の管理だってしてるんですぜ!」
「替わるとしても誰がやるんすか?」
オーク兵たちの指摘に商工会のメンバーも押し黙る。
「どうでしょう、ルーシー様にこの町を直接治めていただくわけにはいかないでしょうか?」
商工会長のドワーフ、カシラルがルーシーに願い出た。
「ルーシー様のお力ならばこの町を治めることなどたやすいはず。我々としてもそうしていただけると非常にありがたいのですが……」
「その通りだ!ルーシー様がいてくださるならこいつらなんて必要ない!」
そう叫ぶのはゴブリン通りの町内会長、ゴブリンのゴブロクだ。
「しかし、問題を起こしているのはオーク兵だけじゃないぞ。ルーシー様に治めてもらうにしてもどうやって治安を守る?」
「自警団を結成したらいい!」
「誰がそれを統率するんだ?」
「えーい、やかましい!」
紛糾する議論にルーシーが切れた。
「言われんでも我はこの町の支配者だ。だが細かな事は知らん!そんなもの貴様らで何とかしろ!」
「メリサ、ミッドランドを支配してた頃の魔王ってあんな感じだったのですか?」
テオは横にいたメリサに小声で尋ねた。
「うむ、あれでこそ我が主だ。ルシファルザス様であったころと何も変わっていない。支配者たるもの、些末事にはこだわっていられぬのだ」
「では、どうやって国を治めていたのですか?」
「その辺はまあ我々部下が良い感じにやっていた。元々魔界というのはそういうものでな。基本的に力のあるものが力のない者を従える世界なのだ。とはいえ、あまり下の者を虐げるとすぐに反乱を起こされるからあまり無茶もできんがな」
「そういうものなのですか」
「そもそも魔界の住人はあまり支配欲というか管理欲がないのだ。なんとなく上手く回っていればそれでいい、そう考えているものがほとんどでな。このブレンドロットは人界に近いし人間もそれなりにいるから魔界の中では人界に近い方ではあるがな」
「……ふむ、それではこうしたらどうでしょう」
メリサの言葉にテオはしばし考えた。
「ルーシーがこの町のトップである事に変わりはありませんが、実質的な管理は商工会と町内会の議会制にしてはいかがでしょう?各町内会長と商工会のメンバーが議決権を持ち町に対する方針は議会で行うのです。オーク兵たちには引き続き町の警備をしてもらいますが、管理は議会で行いオーク兵たちの給料は議会から出すというのは?」
「ふーむ、それもありかもしれぬ。オーク兵たちの給料をねん出する必要はあるが、ザンギアックに納めていた税金を考えれば遥かに安く済むか……」
カシラルが髭をひねってうなずいた。
「しかしそうなると今度は税収を管理する組織も必要になるぞ」
「オーク兵の指揮は誰がとるんだ?」
「それも議会で決めるしかあるまい」
「そんなことをしてる時間があるのか!」
再び議論が始まる。
「やかましい!もう決めたぞ、テオのやり方で行く!オーク兵の統率はそこ貴様がやれ!」
そう言ってザコーガを指差す。
「ははっ誠心誠意務めさせていただきます!」
ザコーガが地面に頭をこすりつける。
「今後細かな事はその議会とやらで決めるのだ!」
いい加減飽きてきたのかルーシーが強引に仕切り、議論は終結した。
「あんなので良かったのでしょうか」
一同が去り、空になった領主屋敷でテオが呟いた。
今後この屋敷は議事堂として使われることになるらしい。
「いいのではないか?後の事はこの町の住人の問題であろう」
何でもない事のように答えるメリサ。
「それともお主がこの町を管理するか?」
「それは御免です」
メリサの問いに即答するテオ。
「己らの力で稼いだ金で己らの町を守るのだ、当然の事であろう」
会議用のテーブルに寝そべりながらルーシーが言った。
「ルーシーは良いのですか?先ほどの決定だとあなたにとって今回の方針は何の益もないようですが」
テオの問いにルーシーは何でもないというように手を振った。
「構わん。我は支配者ではあるが管理者ではない。欲しいものがある時は力づくで手に入れるしの」
「善政なんだが悪政なんだか」
ルーシーの言葉にテオは苦笑した。
「流石は我が主です!」
メリサが瞳を潤ませる。
「さて、面倒ごとは済んだし、本題に入るとするかの」
ルーシーはテーブルから起き上がりテオに振り向いた。
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