第6話:火刑執行
城の前の広場に人が集まっている。
こんなに集まっているのは魔王討伐の時以来だろう。
あの日、大衆の注目を集めていたのは勇者アポロニオと僧侶にしてこの国の姫君サラだった。
しかし今は違う。
この日、注目を一身に集めていたのはテオだった。
そしてそのテオは木で作られた十字架にかけられ、火刑を待つ身だった。
十字架の下には柴と薪がうずたかく積まれ、火をかけられるのを待っている。
隣では未だ眠ったままのルーシーもテオと同じように十字架にかけられていた。
「まさか魔道士テオフラスが魔族に魅入られていたとはね」
「いや、俺はやっこさんはそうだと思ってたよ!見ろよ、あの目を!全然こりてねえって感じじゃねえか!」
「国王様もお辛いだろうねえ。勇者と一緒にこの国を救った魔道士がまさか魔族と通じていたなんて」
「おい、早く火を点けねえのか!こちとら仕事が待ってんだ!」
心無い大衆のヤジもテオの耳には響いていなかった。
まるで他人事のように自分の境遇を見ていた。
自分がこれから死ぬのが実感できなかった。
横にいるルーシーにちらりと目をやる。
せめて、せめてあの子だけでも逃がしてやりたい。
彼女はテオが作った最高傑作、いや、テオにとっては娘といってもよかった。
しかし首に千人の魔道士が千日かけて魔力を込めた絶対封魔具、
「これより、
テオの願いもむなしく、衛兵が大声で宣言すると十字架の下の柴に火を放った。
油をまかれた柴はすぐに火が付き、真っ黒な煙と共に赤い舌のような炎を伸ばしていく。
「こんなこと、こんなことが許されていいものか!真理を探究して何が悪いんだ!真理の追究こそが人の本質だ!」
テオはあらん限りの力を込めて絶叫した。
全てが許せなかった。
火刑を言い渡した国王も、自分を見殺しにしたアポロニアもサラも、自分を陥れたモブランも、この国の全てが。
しかしそんなテオの怒りなど意に介さず炎は勢いを増していく。
息が苦しくなり、気が遠くなっていく。
ここで死ぬのか、こんなことで自分の命はついえてしまうのか……
「クク、クククク、クククククク、クハハハハハハハハハハハハ!!!!」
その時、テオの耳に笑い声が聞こえてきた。
ぼんやりした頭で声のした方を見ると、そこには口を開けて哄笑するルーシーの姿があった。
「ハハハ、ハハハハハハ、ハァーハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
遂に目を覚ましたルーシーは気でも狂ったかのように笑っている。
「ハハッ!目を覚ましたと思ったら火刑の真っ最中とはな。全く愉快な事よ!」
言うなりルーシーは己の拘束を破壊した
手足にはめられていた金属の枷がまるで紙細工のように砕け飛ぶ。
そのままルーシーは十字架の上に駆け上った。
周囲で驚愕の表情を浮かべる衛兵と大衆を満足そうに見下ろす。
「なんじゃ、テオ。お主も火刑に処されておったのか」
横にいるテオに気付くとまるで昔の旧友にあったかのように笑いかけてきた。
そしてそのままひょいとテオの十字架に飛び乗った。
そして上から覗き込むようにテオの顔を見つめる。
「貴様、そんなところにいつまでもいると死ぬぞ?」
「……ル、ルーシー……なのか?」
「ルーシー?誰だそれは?ああ、貴様がこの者に付けた名前なのか。ふむ、それも悪くないな」
ルーシーはくるりと体を回転させるとテオに向き直り、足をテオの胴体に絡めた。
「それよりもほれ、さっさと逃げださんと人の身である貴様は死んでしまうぞ?」
そう言ってからルーシーはテオの首にはめられた千魔封力枷に気が付いた。
「なんじゃこんなもの、さっさと破らんのか?さては貴様、まだこれを使いこなせておらんのか?」
そう言ってテオの胸に埋め込まれた
「仕方がないのう、少し我の力を分けてやる」
そういうなり、ルーシーはテオの唇の唇を重ねた。
「?」
唇が触れ合った瞬間、テオの体に膨大な魔力が流れ込んできた。
同時に胸の
そして膨大な量の魔法知識が脳へ流れ込んできた。
それは幾千、幾万年もかけて魔王の間で研鑽されてきた知識だった。
人間が研究してきた魔法など比べようもない、この知識に比べたら大海と水滴を比較するようなものだ。
あまりの知識の量に脳が破裂するのではないかと思えるほどだった。
事実、テオの脳は処理が追い付かず、機能不全を起こす直前だった。
「うぐあああああああああああっっ!!!!」
テオが絶叫した。
体中を魔力が駆け巡り、テオの首にはめられていた千魔封力枷が砕け飛んだ。
テオの体から放たれた魔力の奔流で足元で燃え盛っていた炎が一瞬で鎮火する。
全身の力が抜けテオは頭をがくりと垂れた。
体中を覆っていた紋様が徐々に消えていく。
「馬鹿な!千魔封力枷が!?」
「一万度の炎にも耐えられる聖魔具だぞ!」
「しかも炎まで消えたぞ!」
「悪魔だ!あの二人は悪魔だ!」
騒然となる衛兵と大衆を意に介さず、ルーシーはテオの髪を掴んで持ち上げた。
「ふむ、耐えきったか。やはり貴様は我の見込んだ通りの男よ」
「き……君はまさか……」
息も絶え絶えにテオが呟く。
あの時、唇を重ねて流れ込んできた魔力にテオは覚えがあった。
その言葉にルーシーがにやりと笑う。
「おうよ。我こそ貴様と戦い、貴様に敗れ、そして貴様の手によって蘇った魔王ルシファルザスよ」
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