命の相談は主人公へ
行世長旅
プロローグ
物語に出てくる主人公に、憧れていた。
物語に登場するキャラクターには、必ずメインとなる主人公が存在する。
ヒーローであったり、勇者であったり、怪盗であったり、時には動物であったりもする。
そして彼らは、それぞれの思いを胸に抱いて物語を進めていく。
たとえどんな困難や壁が立ち塞がろうとも、必ず乗り越えて幸せな結末を迎えている。
時には仲間を頼りながら、時には自分自身と戦いながら、読者には想像もつかない展開で危機的状況を打破していく。
子供の頃は、それが現実でも当たり前なんだと思っていた。嫌なことがあっても、その後には必ず良いことが起こる。そう信じていた。
ーーけれどいつからか、それは主人公という特別な存在にのみ与えられた運命なのだと気が付いてしまった。
物事が失敗したまま終わってしまう、そんなことは当たり前。それどころか、後の出来事にまで悪影響を及ぼすなんてことも少なくはなかった。こんな失敗談なんてものも、世間には
失敗したからこそ成功できる。などと言う人もいるが、それは失敗を利用できる人だからこそ意味のある言葉だ。全ての失敗が成功に繋がるのなら、世の中には成功者しか存在しない。
失敗が失敗のまま終わってしまう。その理由は、活かす力が無いのか活かす場面が来ないのかは分からない。
けれど、結果だけ見れば同じだ。
脇役は脇役らしく、特に目立ちもしない人生を送るのみ。
ならば自分の人生はどうなのだろうか、と思い返してみた。憧れの主人公のように、輝いた道のりを歩んで来たのかと考えてみた。
けれど、思い返すこと自体が間違っている。
過去に栄光を探す時点で、栄光を歩み続ける彼らとは違うのだと気が付いた。
平凡な人生を送っていた俺は、主人公ではないのだと理解してしまった。
そもそも主人公ってのは、初期設定からすでに勝ち組になる要素が詰め込まれている。美少女の幼馴染みがいたり、秘められた最強の能力を持っていたり、お互いに助け合う仲間がいたりするもんだ。
対して俺には、失われた記憶も、世界を驚かす力も、人を助ける能力も、面白さを演出できるものが何一つ無い。
物語の展開も同じだ。
主人公は戦いに勝つし、ヒロインはデレるし、弱点があれば克服して成長していく。
それが面白い創作物なのだと言われてしまえばその通りなのだが、王道過ぎてつまらなく感じてしまう。
特にバトル漫画が
全ての作品が当てはまるとは言わないが、本当に勝つか負けるか分からないバトルを見せてくれる作品はあまり多くない。負けてしまっても面白い展開なんてものは、簡単に書けるものではないのだ。
特にそれが、物語の本当の結末になるとさらに難易度が上がる。物語の途中で負けるなんてのは、メリとハリを生み出せるので良いくらいだ。
最後に負けても得られる感動、あるいは、負けたからこそ得られる感動は、読者が強く共感できる訴えがなければ難しい。
誰だって、悔いが残るだけの敗北なんて嫌だろう?
もし世界に主人公がいるのだとしたら、そいつは物事が良い結果で収束する運命が定められている。始めから最後まで、ドラマチックな展開が用意されているものだ。
それに伴い、物語の導入部もだいたい決まっている。
学園ものなら転校してきたり、逆にヒロインが転校してきたりする。
ありがちな展開ばかりだがこれは仕方がない。何らかの出会いや巡り合わせ、つまるところきっかけが無ければ、物語は始まらないのだ。
出会いも何も無いところから物語が始まってしまうと、何故今まで何も無かったのかという説明が必要になってしまう。
だから、話の序盤から唐突に現れるようなやつは主人公だと疑ったほうがいい。
そう……。例えば、いきなり部室に顔を出してきたやつ、とかな。
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