第66話 窓際クランの新人戦5

 ユーリたちは立ち止まって作戦会議をしていた。

 いま、ユーリたちは選択を迫られている。

 先程、ギルド職員にアルティナがレイラのポイントを追い越したという説明を聞いたからだ。


「でも、一体どうやって?」


 フィーの独り言にギルド職員は答えた。


「アルティナ様がパーティメンバーを抱えあげて全力で移動を始めたようです」


 ユーリはギルド職員の方を驚いた顔で見た。まさか教えてもらえるとは思わなかったのだ。


「教えてもいいんですか?」

「聞かれたことには私の知っている範囲で答えていいことになっています。先程のはいささかグレーですが、一位になることを否定したお詫びだとでも思っておいてください」


 ギルド職員はそう答えた。どうやら、彼女なりに応援してくれているらしい。

 ユーリたちはギルド職員にお礼を言って作戦会議を始めた。


「・・・このままでは勝てない」


 この土壇場で追い抜かれたのだ。レイラが言うように、何かをしないと現状から逆転できないことは分かり切っている。追いつくことも難しい。ユーリは苦々しい顔をした。


「奥の手を使うしかないか」


 ユーリの発言にフィーは目を見張った。


「うそ!?あれやるの?リハーサルでやった時はミミたちもいたのに死にそうになったのよ!?」


 ユーリは地図を広げて奥の手を使うのにいい場所の選定に移った。

 レイラもそれを手伝いながらフィーに向かっていった。


「・・・でも、他に勝つ方法はない。ルール違反ってわけでもない」


 ユーリはある一点に印をつけて地図をしまった。


「ここから二つ目の角を曲がったところが良さそうだ」


 移動しながら先頭の準備をするユーリとレイラを見て、フィーも諦めがついたようだ。


「もー。わかったわよ!やればいいんでしょ!!」


 フィーはプンプンとか擬音がつきそうな様子で装備を確認しだした。ポイポイとポケットに入っていた不要なものを捨てたりしている。というか、屋台の堤袋とかがなぜ出てくるんだ?

 ユーリはその様子に苦笑いをした後、ギルド職員の方を見た。


「ギルド職員さんはモンスターの群れなんてへっちゃらですよね?」

「?うーん。何をする気かはわかりませんが、五階層程度のモンスターだったら千匹いても傷一つ負いませんよ」


 ユーリはその返答に満足げに笑った。


「ならよかった。じゃあ、ここからすることは見てるだけで大丈夫です。予行演習はしてますので」

「死にそうになったけどね」


 フィーの発言に嫌な予感を感じた。

 しばらくして、ユーリたちは立ち止まった。


「・・・ここで大丈夫?」

「進むにしても、戻るにしても、この辺がいいだろ」

「よし!じゃあ、行ってくるわ!」


 フィーはそう言い残してかけていった。


 ギルド職員の女性から見て、その場所は今までユーリたちが戦っていた場所とは明らかに違っていた。今まではモンスターハウスが見えるか見えなくても角を曲がってすぐがモンスターハウスという位置で戦闘をしていた。しかし、今いるところは明らかにモンスターハウスから離れている。

 ユーリたちもさっきまでよりずっとピリピリしているように見える。

 不安になったギルド職員はユーリに質問した。


「えっと、手は出さないので何をするか教えてもらっても良いですか?」


 ユーリはギルド職員に振り返ることもせず、フィーがかけていった方角を見つめていた。


「なに。やることは今までと変わりませんよ。対象が今までと変わるだけで」

「対象が変わるって」


 五階層にはビッククラブとマッドフィッシュしか出てこない。さっきまでビッククラブを狩っていたので別の対象ということになると、マッドフィッシュということになる。


「まさか、マッドフィッシュを!あのやり方で!?」


 マッドフィッシュは仲間を呼ぶ特性がある。この特性は一匹や二匹では大した効果を示さないが引数が増えると効果が上がっていく。実際、つい最近もマッドフィッシュがモンスターハウスから仲間を呼んで大変なことになったばかりだ。注意喚起が出されたのをユーリたちは知らないのだろうかとギルド職員は思った。

 ギルド職員はユーリたちに忠告しようとした。しかし、緊張した様子のユーリたちを見てやめた。

 ユーリたちは危険であることを十分にわかってやっているのだ。死地に自分を置いてでも、勝利を狙いに来た。ギルド職員である彼女にできることは、彼らを見守り、本当にダメな場合は再起不能になる前に彼らを助けることだ。

 ギルド職員はこの日初めて自分の武装を確認した。


 緊張した空気の中、地鳴りのような音が遠くから聞こえてくる。

 そして、かけてくるフィーの姿が見えた。どうやらフィーはうまくつり出しに成功したようだ。


「連れてきたわよー!」


 いつものように走りながら声をかけてくるフィーに、いつものようにユーリは笑い返した。いや、その笑顔はいつもよりぎこちない笑顔になっていたかもしれない。

 ユーリは盾を強く握りしめ、自分を鼓舞するように声を出した。


「よし、やるか」

「・・・ラスト二十分。全部出し切る」

「絶対に勝つわよ!」


 こうして、ユーリたちのこの日最後の挑戦が始まった。

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