第27話 窓際クランの交渉
ユーリたちはクランマスターの執務室に通された。
執務室は高級感漂う調度品で飾られていた。
しかし、嫌味ではなく、一種の美しさがあった。
『灰色の狼』のクランマスターはソファーにどかりと座った。
「まぁ、座れよ。しっかし、久しぶりに笑わしてもらったよ。あんなタンカきってんのに間違えてんだから」
「その話題はやめてください」
ユーリたちは対面のソファーに座った。
ユーリの顔はまだ真っ赤だった。
「ほんと、くく、間抜けね」
「・・・ちゃんと教えたのに」
「悪かったって」
フィーはまだ少し笑ったままだった。
ユーリと一緒に今日の内容を考えたレイラは、大事なところで閉まらなかったユーリに不満そうな目を向けていた。
リュウは楽しそうにする三人を見回した。
「あぁ、名乗りがまだだったな。俺は『灰色の狼』のクランマスター。リュウだ。ハイエナのボスとか言われることもあるな」
嫌味にもなり得ることをこともなげに言ったリュウに、ユーリは少し驚いた顔をした。
ユーリは返答するように自己紹介をした。
「『紅の獅子』のユーリです。こちらがクランマスター代行のフィーです」
リュウは、身を乗り出すようにして聞いた。
「で?交渉があるんだったか?」
ユーリは、リュウの眼光に気圧されながらも、一度姿勢を整えていった。
「えぇ。うちが襲撃された件で」
「うちがやったんじゃないぜ?」
リュウは不敵に笑いながら言った。
その様子が気に食わなかったのか、フィーが食ってかかった。
「何言ってんのよ!あんたに決まってるわ!」
「証拠はあるのか?」
リュウはフィーの方をニヤニヤ見ながらいった。
余裕あるその様子に、舌戦の勝敗は明白だった。
「ない。けど、ハイエナはうちのギルドを潰そうとしたじゃない!あの三馬鹿を使って!」
「三馬鹿?あぁ、元『紅の獅子』のあいつらか。あいつらはうちのクランメンバーじゃないぜ?」
冷えた表情でリュウはいった。
「何言って・・・」
「うちの下位クランにいたみたいだな。まぁ、もう存在しないがな」
「・・・!」
『存在しない』。その言葉に含まれた圧力にフィーは黙った。
そして、その冷たい言葉であの三馬鹿がどうなったのかを察した。
ユーリは少し怯えた様子のフィーを隠すように少しだけ前に出た。
リュウはその様子を小動物でも見るように眺めていた。
彼にとって、ユーリたちは敵にもならない存在なんだろう。
「まぁ、抗争がしたいってんならやってやってもいいけどな」
「やりませんよ。プチっと潰されて終わりでしょうしね。今日は交渉をしにきたんです」
「ほう?交渉ね?」
リュウは値踏みするようにユーリを見た。
少しだけ興味を買えたらしい。
「少し売りたいものがあるんです」
「売りたいもの、ね?なんだ?」
「この笛です」
リュウは出てきた笛を見て少し眉を動かした。
予想外のものだったんだろう。
「ほう。これをね」
リュウは笛を手にとって書く人するように見た。
どうやら、偽物とかではないようだ。
「で、いくらで売ってくれるんだ?」
「そうですね。召喚笛の相場の金貨10枚でどうですか?」
今度こそ、リュウははっきりと驚いた顔を見せた。
どう考えても訳ありの、しかもこっちが必要としているものを普通の召喚ぶえと同じ価格で売る。
警戒しないはずがなかった。
「・・・?何考えてやがる?」
「別に。この笛を手に入れてからちょっとついてないので、厄介払いです」
ユーリが言ったことは嘘ではなかった。
笛を求めて襲撃までされるんだから、厄介者以外の何者でもない。
「あぁ、『この笛に関係するすべての事柄』で両クランは協力関係をとる。というか契約書が欲しいですね。この笛のせいで『灰色の狼』の運がおちて、こっちに文句を言われても困りますし」
「・・・『この笛に関係するすべての事項』ね」
当然、今後誰かから襲撃されることを懸念しての話ではない。まぁ、それもゼロではないが。
『この笛に関係するすべての事項』とは、この笛の入手した誘拐事件も含まれる。
ユーリはこれを返すので、手討ちにしようというつもりで言っている。
まぁ、価値がわからなかったというのもあるが。
リュウは一度目を閉じて熟考した後、利益が多いと結論づけた。
「・・・まぁ、いいだろう」
「ありがとうございます」
ユーリたちは深々と頭を下げた。
無事に目的を達成できたので、ユーリたちはホッと胸をなでおろした。
***
契約を交わし、召喚笛をリュウに引き渡した。
無事契約が終わればさっさとこんなところからは帰りたい。
ユーリは立ち上がりながら言った。
「じゃあ、俺たちはこれで帰りますね」
「まあまてよ。協力関係を結ぶんだ。一杯くらい付き合えよ」
リュウはそう言って酒を取り出した。
ユーリは迷っていた。正直、この誘いは美味しい。
何が気に入ったのかはわからないが、一定の評価をしてくれたと判断していいだろう。
新人の三人しかいないクランで、他のクランとの繋がりはできれば欲しい。
断ればこの縁が切れる。
ユーリはフィーとレイラをちらっと見た。
レイラはこちらを向いて頷いた。
フィーは、リュウの誘いを速攻で断ろうとしたので、レイラに羽交い締めにされていた。
こんな状況でも閉まらないな。
「二人は返してもいいですか?気になる女の子がいると、心配で気持ちよく酔えないので」
ユーリが冗談めかしてそんなことを言った。
目的がわからないうちは迂闊なフィーをその場に置いておきたくなかった。
レイラもそれを理解していたようだ。
ユーリかレイラのどっちかが残るとすれば、ユーリが残るのが筋だろう。
そんなユーリの気持ちも知らず、フィーはその台詞を聞くと、真っ赤になって静かになった。
「はっはっは。青春だな。いいぜ」
リュウはすべとを理解しているようだったが、笑って許可してくれた。
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