第10話 窓際クランの救出劇
小屋の中、硬く冷たい石造りの部屋にフィーは縛られて転がされていた。
冷たい床がフィーの恐怖を助長するが、それに負けない様にフィーは必死でジタバタと暴れていた。
「アニキー。こいつどうします?」
「もちろん、あれの暗証番号を聞き出すさ」
三人のチンピラは下卑た顔をしながらこの後のことを話し合っていた。
そして、ひょろ長のチンピラは部屋の隅に視線を向けた。
そこにあったものをフィーはよく知っていた。何度も見たことがあるものだったからだ。
それは、『紅の獅子』の金庫だった。
「んーんー(やっぱりアンタたちが犯人だったのね)」
「何言ってるかわかりませんね。猿轡外しましょうか?」
フィーが話せない様子を見て、チビのチンピラはフィーの口を塞いでいる布を取ろうとした。
しかし、ひょろ長のチンピラはそれを押しとどめた。
「まぁまて、声をあげられたら面倒だ」
「まぁ、そうっすけど、どうするんっすか?」
「そりゃあ・・・」
チビのチンピラは疑問を持って聞いた。
アニキと言われたチンピラはいやらしい顔でフィーを舐め回すように見た。
「体に聞いてみるんだよ」
「ひっ」
ひょろ長のチンピラは舌なめずりしてフィーににじり寄った。
「え?傷物だと値が下がるから手を出すなって言われたんじゃ?」
「そうだが、尋問の途中で傷物になったんだったら仕方ないと思わないか?」
「さすがアニキ。頭いいっす」
フィーは縛られた体をよじって逃げようとした。
しかし、狭い室内な上、縛られた状態で自由に身動きを取ることもできない。
フィーはすぐに捕まってしまった。
そして、服を破り捨てた。
「顔はいいと思ってたんだよお前ら、抑えてろ」
「「へい」」
「んー」
ジタバタと暴れるフィーの手足を二人にチンピラが抑えた。
手慣れた様子からこう言ったことをよくやっている様だった。
(どうしてこんな目に)
フィーの瞳から涙が一筋溢れた。
「暴れるなよ、天井のシミを数えてる間に・・・」
ーーードーンーーー
その時、地上から小屋を揺るがすような音が聞こえてきた。
地下室は頑丈な作りで音はほとんど入ってこない。
にもかかわらず音が聞こえたということは、相当大きな音だったはずだ。
「な、なんだ?」
「なんか起きたみたいっすね」
チンピラ達は天井を見上げながらそう言った。
しかし、そんなことをしても何か分かるわけではない。
ひょろ長のチンピラは様子を見にいかせることを決め、近くにいたチビのチンピラに見にいく様に指示した。
「ちっ。おい、お前ちょっと見てこい」
「えー、俺だけお預けっすか?」
チビのチンピラは渋ったが、だれかが見に行かないといけないことはわかっていた。
できればデブのチンピラにいかせて欲しかった。
「いいから見てこい」
「いて。わかりましたよ」
殴られたので、渋々といった感じにチビのチンピラが部屋から出ていった。
「へへ、ちょっと邪魔が入っちまったけど、つづきを・・・」
ひょろ長のチンピラはさっきの続きをしようとして、部屋の隅で震えているフィーの方へと向かった。
「あ、あにきーちょっときてくだせぇ。おもてが、表が大変なことに!!」
「ったくなんだよ・・・」
地下室の入り口を閉めずに出て行ったのか、チビのチンピラの声はよく聞こえた。
ひょろ長のチンピラは渋々、一度服を着直すと、大柄なチンピラに向かって告げた。
「おい、俺が戻るまで、手を出すんじゃないぞ」
「(コクコク)」
大柄なチンピラはよだれを垂らしながら頷いた。
誰がどう見ても信用できない。
「・・・いや、信用できねぇ。お前も来い。どうせ何もできねぇだろ」
「・・・うっす」
服を破られ、恐怖で部屋の隅で震えているフィーを見て、ひょろ長のチンピラはそう言った。
大柄のチンピラは肩を落としながらアニキについて部屋を出ていった。
部屋にはフィーだけが取り残されることになった。
***
小屋の外に出たチンピラたちが目にしたのは、倒れた台車と動物のフンの山だった。
「くっせ。なんじゃこりゃ?」
「わかりません。外に出たらこんな感じで・・・」
チンピラ二人がそんな話をしていると、大通りの方から屈強な大男が歩いてきた。
「くぉらオマエら!!何うちの商品で遊んでんだ!!」
「なにい、ひぃ」
ひょろ長のチンピラは反抗の声を上げようとしたが、相手を見てやめた。
二メートルはありそうな巨漢が肩を怒らせているのだ。無理もない。
「大事な堆肥の材料をこんなに散らかしやがって!!台車に乗せ直せ!!!量が減ってたらタダじゃおかねぇからな!!!!」
「いや、やったのは俺たちじゃ・・・」
「つべこべ言わずに作業しやがれ!!」
「「「ひぃ。は、はい〜」」」
チンピラ三人は堆肥屋の親父に監視されながらフンの処理作業を始めた。
***
その時、小屋の裏側ではユーリが表の様子を伺っていた。
チンピラ三人が堆肥の片付けを始めたので、作戦の成功を確信した。
あれならかなりの時間を稼げるだろう。
「上手くいったみたいだな。三人とも出てくるとは思わなかったけど」
「・・・そう」
「うわ!レイラ!?どうしてここに!?衛兵を呼びに言ったんじゃ・・・」
ユーリは後ろから聞こえた声に驚き、振り向くと、そこにはレイラがいた。
驚いて声が出そうになったが、なんとか小声で抑えることができた。
「・・・衛兵は多分すぐには動いてくれない」
「そ、そうかもしれないけど・・・」
「・・・やっぱり。先代のマスターが言ってた通り」
「?やっぱりって?」
驚いているユーリに対して、自慢げに笑顔を見せた。
「・・・いい女の前では、男は無駄にカッコつけたがるもの」
「うっ。別に無駄ってわけじゃぁ・・・」
ユーリのセリフを遮る様に勝ち誇った顔で続けた。
「・・・無駄な格好付けだとわかってても、信じて待つのがいい女の条件」
「じゃあ・・・」
「でも!」
レイラは自慢げな笑い顔を消し、真剣な表情でユーリをじっと見つめて続けた。
「相手のことが本当に大事なら、大切な存在だと思うなら、全部かなぐり捨ててでもそばにいなきゃいけないって」
「・・・レイラ」
「・・・私にとっては、フィーもユーリも大切なクランメンバー。だから、一緒に行く。そばを離れるつもりはない」
意思のこもった瞳でレイラはユーリを見つめた。
ユーリは少しその瞳に見とれてしまった。
ユーリは諦めた様に息を吐いた。
「はぁ。わかったよ。ただし・・・」
「・・・邪魔はしない」
「よし。行こうか」
ユーリはきづかれないように慎重に窓を破って小屋へ侵入した。
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