閨怨の夢

 第(+)一回偽物川小説大賞参加作の一作目。

【ごくごく簡単なあらすじ】

 唐代中国の長安が舞台。愛する美少年麗暉れいきを失った豪商の魏恵国ぎけいこくと、少年を蘇らせるという女、麗暉の弟の晨風しんふうの話。

【雑記】

 唐代が舞台の怪奇譚なのですが話の筋は時間遡行系SFに近いかも(ただし本当に時間遡行しているわけではない)。解決がちょっとあっさり目になってしまったのは魏恵国の心情描写に熱を入れ過ぎて燃え尽きてしまったからですね……

 紹介文の時点で分かる通りいつも通りの中国史蘊蓄に留まらず詩経やら曹植そうしょくやら曹丕そうひやら盧照鄰ろしょうりんやらの漢詩がバンバン引用されてたりしてとっつきづらい印象を与えてしまうかも知れません。奇絵画の時以上にルビたくさんゾーンがありますし……

 愛する麗暉を何度も何度も失った魏恵国の悲しみであったり、敵討ちに燃える晨風の兄への想いなんかは書いていて凄く楽しかったです。性愛に留まらず同性間における何がしかの感情の揺れ動きってとても好きで、そういう部分を書いてる時が一番「小説を書いている」って気分になるのですね。小説というのは文字媒体であるが故に内面を表現することに長けた媒体と言えますし。離別の悲しみは後のヒューマナイズ・ラブロマンスに受け継がれているものでもありますね。

 因みに「閨怨けいえん」というのは夫が家を離れて取り残された妻の独り寝の憂いみたいな意味の言葉ですね。男性の詩人がそのような女性になりきって詠む「閨怨詩」というジャンルがあります。盛唐時代の王昌齢おうしょうれいがこのジャンルでは有名ですね。とはいえ、和歌における恋歌のレパートリーの多さに比べると漢詩には男女の恋情を歌った詩というのはそれほど多くはありません(性愛を大っぴらにすることをよしとしない儒教的価値観の影響と言われています)。ないわけではないのですが割合で言えばそこまで目立つものでもないのですね。詩経などの古い時代の詩にはそれなりに素朴な恋歌があったりするのですが。

【終わりに】

 これを仕上げた後にポケモンが発売されてそっちにかかりきりになって一時期筆が止まってしまっていました。ポケモン発売前に仕上げられてよかったです。

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