命の意味を、知りたいですか?

行世長旅

プロローグ

 生きることに意味なんて無い。そう思い続けて生きてきた。


 眠りから目を覚ますと、朧げな意識でいつも思うことがある。

 今日もまた退屈な一日が始まるのか、と。

 退屈な朝を迎え、退屈な道を歩き、退屈な学校に行く。

 いつもと同じ風景。

 退屈な授業を受け、退屈な昼休みを過ごし、退屈な放課後を迎える。

 いつもと同じ日常。

 退屈な道を再び歩き、退屈な家に戻り、退屈な夜を眠る。

 いつもと同じ生活。

 そしてまた、いつもと同じ退屈な朝がやってくる。

 代わり映えのしない日々。

 変わった事は何も無い。

 面白い事は何も無い。

 楽しい事など無い。

 嫌な訳ではない。

 珍しくもない。

 つまらない。

 いや、つまらないのは世界ではなく自分のほうか。その原因も分かっている。

 俺には将来やりたい事が無いのだ。夢、目標、働きたい仕事等が一切無い。

 べつに珍しくはないと思う。むしろ、これと決めた未来に向かって頑張っている人のほうが少ないのではないか?

 本気の熱意があって、自分の求めた天職を見つけ、毎日汗水を流して努力している人がこの世にどれだけいると言うのか。ほんの一握りの極僅かなものだろう。

 大方の大人は、これが得意だからその仕事をしよう、あれしか出来る事がないからこの仕事をしよう、その程度の心持ちではないのか。

 大人に限らず学生にだって当てはまる。志望する就職先が決まっており、熱心に勉学に励んでいる生徒なんているのだろうか。

 俺のクラスにも頭の良いやつはいた、身体能力が高いやつもいた、ギャグが面白いと評判のやつもいた。そして、それらの能力を活かして就職先を選ぶ者は多い。

 しかし、就職先が決まっていてそれに向けて努力しているやつは誰一人としていなかった。そもそも何も考えていないやつだっていた。

 そうそう、誤解されたくない事が二つある。

 一つは、それが悪いと言いたい訳ではない。世の中はそんなに自分に都合の良いように出来ていない。理想郷があるのは理想の中だけだ。

 それともう一つ、俺は何も考えずに将来の目標が無いなどと言っているのではない。

 将来の事を考えたからこそ、夢も希望も無くなったのだ。

 真面目に働き、恋人と結婚して、子供を育てて門出を祝い、孫を抱き上げ、病院のベッドの上で安らかに最期を迎える。その場面まで想像したさ。そこまで考えた上で将来やりたい事が無いと言っている。

 何故なら、そんな事をしても意味が無いからだ。

 人生に、生きることに意味なんて無い。そう思い至った。

 人間の致死率は百パーセントだ。不老不死の存在など前例が無い。生きている間に何をしようと、死んでしまえば記憶も何も残らず無の存在に還ってしまう。

 ならば、人生を精一杯生きる理由がどこにある?

 まぁ、俺自身には何も残らなくても、世の中には沢山の影響が残るだろう。

 働いて作り出した商品は誰かの役に立つかもしれない。嫁さんの家系とは親族になり縁が出来る。子供も普通に働いて普通に結婚するだろうか。孫はまさかの学者になったりするかもしれない。

 しかしそれらも、意味は無い。

 作った商品が誰かの生活を豊かにしたとしよう、でもいずれ死ぬ。嫁さんは今までとは違う生活に戸惑いながらも笑顔で暮らしてくれるだろう、でもいずれ死ぬ。子供は友達や会社仲間と楽しく過ごすのだろう、でもいずれ死ぬ。孫は世の中の事を少しずつ学びながら成長していくのだろう、でもいずれ死ぬ。

 自分が影響を及ぼした人だっていつか必ず亡くなるのだ。その影響を受けた人達が何かをして、更に周りの人の人生に影響を与えたとしても、やっぱりその人達も亡くなってしまう。

 永遠に繰り返される意味の無い日々。

 無意味の連鎖。

 楽しく生きようが苦しく生きようが、結果的には何も変わらない。同じ結末に辿り着くのなら、途中の努力なんてしなくてもいいじゃないか。

 究極論、今死んでしまっても問題は無い。こうやって考えているこの瞬間も、意味は無くなってしまうのだ。

 けれどまぁ、そもそも答えの無いものを考えている時点で間違っているのかもしれない。そんなくだらない事を考えていないで普通に生きろ、と。

 確かにごもっともな意見だが、そう思って生きても意味が無い。

 結局は心のどこかで考えてしまうのだ。人は考えることの出来る生物であり、考え抜いて来たからこそ、今の人間社会がある。考えることの出来る生物だから、考えることをやめられない。逆に言えば、人は何も考えずには生きられない。

 俺はどうしたらいいんだろうね。考えたら生きる理由を失い、物事を何も考えずには生きられない。八方塞がりだ。

 なぁ神様、何でこんなつまらない物語りを創作したんだ?

 それともアンタは、この理論を覆す答えを持っているのか?

 生きる意味を、この世の真理を、知っているなら教えてくれよ。

 そしたらこの世界もさ、もう少し楽しくなると思うぜ。

 ……と、ライトノベルのプロローグっぽく語っているこの言葉にも意味は無い。

 だから、俺の人生に劇的な変化が起きても意味なんて無い。

 だから、峰倉絢乃みねくらあやのと出会うことに意味なんて無いんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る