番外編
番外・ハロウィンの夜①
十月三十一日。夜。
夕食後の一服中に、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「ん? 誰だろ」
呟いて、俺はのそりと立ち上がる。
今日は宅配も人が来る予定もなかったはずだけどな。もしかして、しぃが調味料を切らして借りにきたか?
そんな推測をした俺は、ふぁ~あ、とあくびをしながら玄関へ向かった。リラックスしすぎて緩んだ警戒心が覗き穴の存在を見事に無視する。
「はい? どちら……」
俺は若干整えた声を出しつつ、ドアを押し開けた。訪問者の姿が俺の視界に入ってくる。
「t……」
閉めた。
そしてかつてない勢いで自分の軽率さを恥じた。なんて俺は無用心だったのだろう、と。ドアの向こうにいたのは、狼男らしき扮装をしたフサだった……。
そうだった。今日はハロウィンだ。こんなイベントを奴が見逃すわけがなかったのに。学校で何もなかったから心底油断していた。くそぅ、なんという不覚。
ピンポーンと再度チャイムが鳴る。俺は壁につけていた手を剥がし、インターホンを取った。
「おい、せめて一音くらい言わせろよ」
「うるせえフサフサ。ふさふさすんのは頭だけにしやがれ。っていうかさっさとフィクションの世界に帰れ」
低い声で文句を言ってくるフサへ、こちらも喧嘩腰で対応する。せっかく平穏な一日で終わりそうだったんだ。ここにきて台無しにすんじゃねえよ。
「なんだとこの野郎。馬鹿にしやがったな? 三時間半かかったこの狼男メイクを」
「馬鹿にしてねえしメイクに力入れすぎだ。リアルすぎて身の危険を感じただろうが」
フサだと気付かなかったら確実に先制攻撃していたぞ。どう見てもお菓子より人肉を狙っちゃうぜ的な容姿だったからな。
「まあいいや。とりあえず入れ。その格好でドアの前に突っ立ってられると俺が困る」
「おーう、サンキュー!」
インターホンを置いて、再びドアに手をかける。
しかしフサのやつ、あの姿のままうちで遊ぶ気なのか? マンガやゲームをする狼男とかシュールすぎるだろ。
「フサ。どうせならお前一度着替えてから……」
狼男に向かって言葉を発しながら、俺はドアを開ける。狼男の後ろに、全身を包帯でぐるぐる巻きにした人物を二名確認。
「「「t……」」」
反射的に閉め、鍵を掛ける。そしてがっくりと膝を落とし、両手を床につけて現状を嘆いた。
ちくしょうめ。増えてやがる。人数的に流石兄弟だろアレ。被ったっていうより揃えてきた感じめっちゃするし。巻き方にこだわりが見え隠れしてるし。
ピンポーン。三度チャイムが鳴る。
「分かったよ。開けますよ。開けりゃいいんだろうが!」
平穏な一日はもう望むべくもない、と悟った俺は、やけくそ気味にドアを開けた。
「トリック」「オア」「トリート!」
狼男とミイラ二人が定番のセリフでお出迎えしてくれる。はぁ、とため息がこぼれた。
「お菓子あげたら帰ってくれんのかよ」
俺はノリノリな三匹にげんなりしながら呟いた。
「それは無理な相談だ」
ミイラ男の一人が腕を組む。こっちは兄者か? それとも弟者か? 顔にまで包帯を巻いているせいで区別が付かない。
もう片方のミイラはうむと頷いて、片割れと同じように腕を組んだ。
「なにせ俺たちはお菓子をもらうより盛大にイタズラがしたいからな」
「それはやめろ」
お前らのイタズラは冗談抜きで危ねえんだから。下手すりゃ死人が出るぞ。
「なら俺は女の子にイタズラを……」
「黙れ犬っころ! ハウス!」
「そんじゃお邪魔しま~っす」
「俺ん家に来んの!? 違ぇよ! 自分の家に帰れっつったんだよ!」
相も変わらず俺の周りはアホばっかりが集まるのであった。ハッピーハロウィンとは、とてもじゃないが言えそうにない。秋の夜長が恨めしい限りだ。
「ちなみにこの仮装はミイラ男と透明人間だぞ」
「いや、違いがさっぱり分かんねえ」
「包帯の新しさが違うだろう。それで見分けるのだよ」
「……よく見りゃ確かに違うな。で、どっちがどっちなんだ?」
「「それは秘密だ」」
「なんで!?」
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