第35話(最終話) 最終決戦

 数億の武器がまるで雨のように落下してくる。

 きっと戦場でこのような光景に出会ったら、兵士たちは絶望の声をあげているだろう。

 だけどここに一人の大賢者がいる。


 その大賢者はとてつもなく死にたい。

 しかしそう簡単に殺されてはいけないと本能で察している。


 落下してくる数億の武器を1本の杖だけで弾く。


 2本目の杖は地面にぶつかった衝撃でどこかに消えた。


 そこらへんに浮いている杖たちもコントロールを失った。


 すべては終わりを告げようとしていた。


 しかし本能が断るのだ。

 生きる本能がすべてを物語るように、

 たった一本の杖でただひたすら数億の武器に相対している。


 大賢者は武器を扱う才能はほとんどない、

 しかし物の流れなど、 

 そういった水の流れが分かってしまう。


 ひたすら数億の武器をよけ続けること数分、


 全身が血まみれになりながら、

 仮面はぼろぼろに崩れさりそうになりながら、


 それでも右目と鼻と部分だけは隠されている。

 左目だけは露出しているが。

 口も露出していた。


 それが鬼の仮面だというものであったという痕跡はなくなっている。


「う、そだろ」


 フィーズは唖然としている。

 四方には数億の武器が転がっている。

 すべての武器を弾いて見せたのが大賢者の自分たることなど、アモスは忘れている。


 もはや無我夢中であたりを見渡す。

 もはや命の灯などこと切れそうに。


 最後は君の剣で。


 最後は君の大事な炎の剣で。


 心ここにあらず。

 もはや容赦しない。


「大魔法ビッグバン」


 そう呟いたとき、

 そこにいた4人の勇者のご一行たちは唖然としている。


 杖に集まる黒い塊。

 空気中に含まれる謎の物質を集めていく。

 それは塔を破壊し、しまいには近くの街を破壊する。

 それがどういうことなのか、アモスは理解している。

 だけど本能が、負けたくないと告げる。


 ここのすべてを破壊してでも生きるのだと本能が言う。


 しかし理性で、馬鹿なことをするなと呟く悪魔がいる。


 この時点ではどちらが悪魔かなんてわからない。


 メイルンが大きな叫びをあげている。

 それがどういう言葉なのか理解できない、

 フィーズが遠吠えのような声を上げる。母さんを守ろうと叫んでいる。

 ドースンが、コレクト化した武器をひたすらなげまくる。

 ネネーネがダンスしながら魔法を歌のように捧げる。


 もはや意味がわからず。


 気づいたら。みんなの武器で体を貫かれていた。


 メイルンは炎の剣でアモスの胸を串刺し

 フィーズは2本のナイフでアモスの右胸を刺し、

 ネネーネは杖でアモスの右目を串刺し、

 ドースンはアモスのお腹を斧で両断していた。


 両足の感覚がなくなっていく、

 すべてがなくなっていく。


 すべてが消えていく。


 すべてが、そこには沢山の仲間がいる。

 ああ、まってくれ、そこに行くんだ。


 すべては終わる。

 終わるのだ。


「師匠、うううう、し、しよううううううううう」


 メイルンの鳴き声が聞こえる。

 なぜだろう、この年老いた姿ではわかるはずがないと。


「師匠、ううう、そんなに老いていても、その優しい眼を忘れるわけがないです」


「がは、ごほほごおほ、そ、そうか、わしは死にたかった。アモスとして死にたかった」


「なぜ」


「さぁな、人間はな数千年も生きるものではない、孤独、孤独とは恐ろしいものだ、かは、

ありがとう、みんなありがとう、ぐは、ちゃんと死ねる。どうやらわしは本気で勝負しないと死ねない体でな、本当に、ぐへええええ」


 沢山の手が見える。

 沢山の人々が見える。

 沢山の感情が見える。


 メイルンがネネーネがドースンがフィーズが喚きまくっている。

 何か大事なことでも気づけたのかな?


 色々な気持ち、魂が消えていく気持ち。

 何もかも亡くなってしまう気持ち。


 後世に宅せたのなら。この命、全うしたのかもな。



「相棒、あの世ってやつを教えてくれないかい」

「なっちんぐ、あの世ご案内するぜえええええいい」


 かくして大賢者アモス・ディス・ロンパはこの世を去った。


――――その後―――――


 メイルンは日記帳にいろいろなことを書いていた。

 アモスの大迷宮を攻略したことで、冒険者ギルドからたくさんの報奨金が与えられた。


 メイルンとネネーネとドースンとフィーズはいろいろと相談しながら、回収してきた宝箱を開けることにした。そこには一通の手紙と信じられないような魔法の武具が沢山詰め込まれていた。


 しかも4人に向いている武器が仕訳けられていたので、驚いた。


 アモスの手紙にはこう書かれてあった。

『メイルン、ネネーネ、ドースン、フィーズ、君たちと一緒に冒険したことは心の中でのよき思い出となった。わしはこの時点で君たちに確実に殺されると思ったからこそまだ途中のボスだけど手紙を入れることにした。魔王と覇者と亡霊勇者はわしからのサプライズみたいなものだ。メイルンよ、おぬしはよき勇者になれ、すべてを救うことができないといわれる世の中じゃが、すべてを救って見せよ、ネネーネよもう奴隷のことは考えるな、だがお主なら奴隷を解放する最強な魔法使いになれるじゃろう、あと最強なシンガーとダンサーにもな、続きは2通目じゃて』


 メイルンたちはくすりと笑ったものだ。

 2通目にはこう書かれてあった。

『ドースンおぬしの運びのテクニックはすごいものだし、1人の戦士として才能を感じる。初代戦士の滝に行ってみろ、いろいろと勉強になるだろう、フィーズよ、村に帰って母親を安心させろ、それがお主のできることじゃ、アモス・ディス・ロンパとしておぬしたちをあの世から見守っている』


 その時のメイルンとネネーネとドースンとフィーズは声をあげて泣いたものだ。

 まさか最後のボスに教育されているなんて思ってもみなかった。


 だからこの物語を後世に伝えるために、

 かつての師匠アモスがやったように、

 あのときはロンパだと思っていたけど、



 その日記はいつか『最強賢者は死にたがり』という物語にしようと、

 タイトルだけは決めていた。


 ネネーネは奴隷解放の旅に出て、ドースンは初代戦士の滝が旅に出た。フィーズは村で復興作業をしている。みんなはそれぞれの旅に出ました。


「あなたはどこにいくんですか?」


「ふぉーわしか? あの世じゃ」


 風がびゅーびゅーと吹いていたそんな季節だった。

(完)



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最強賢者は死にたがり―最強ダンジョンを攻略させろ― MIZAWA @MIZAWA

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