第26話 ケジメ
ロンパとメイルンとネネーネとドースンとフィーズの5人は腕組をしながら、
目の前のチキンポッパーを見つめていた。
「で、この気絶したやつをどうする?」
ロンパの当然の疑問にそこにいた全員が頷いた。
しかしネネーネだけは違う、
ロンパの記憶にネネーネの過去を見た時があった。
そこでチキンポッパーの若き頃の姿があった。
こいつは奴隷を不当に集めまくったのだ。
その奴隷たちはネネーネの歌と踊りで幻覚を見せられていたのだが、
現在ではそれも解かれて、こちらにやってきている。
命がけでチキンポッパーを守るでもなく、
ただ生命の欠片もない瞳をしながら、こちらをじっと見ているのだ。
「うむ、奴隷は解放しよう」
「でも奴隷の持ち主が解除と念じないよ」
「賢者をなめるなよ」
ロンパはにかりと笑ってみせると、
不思議な呪文を唱える。
その呪文はとてつもない高度な魔法であり、
悪魔とか天使とかモンスターとか幻獣の契約を解除することができる。
それに比べると人間がかけた奴隷魔法など簡単に解除することができる。
そこにいた奴隷たちは希望の光でこちらを見ていた。
彼らは動こうとしないのだ。
1人の青年風な男性がこちらに恐る恐るといった感じで尋ねてくる。
「すみません、故郷に帰らせてもらえないでしょうか、ここから逃げたところで食べ物に困ったり、またはさきほどの双子に見つかってまた奴隷はいやなのです」
「分かっている。1人ずつこっちにこい、ちょっと頭の中をみて、お主たちの故郷にテレポートさせてやる」
「ほ、本当なのですか」
「す、すごい、そのような魔法が」
「信じられないわ」
「信じるか信じないかはてめーらが決めろ。わしたちは暇人じゃないんだよ」
それからというもの元奴隷たちは静かな下僕になってしまったかのように、
1人ずつ頭を握られて中の記憶を見られていた。
30分が経過したころになると、
そこにはもう奴隷たちの姿はなくなっている。
建物の中にいても使用できる大賢者級のテレポート魔法により、
10人の奴隷たちは元いた故郷に帰ることができたのだろう。
彼らがロンパを見つめる瞳は、
希望に溢れていて、涙など流すものかと堪えていた。
それを見て感極まって感動していた1人を知っている。
彼女も元々は奴隷だった。
メイルンに助けられたとのこと、
彼女ことネネーネは目を真っ赤にそめている。
そして彼女も涙を流すまいと努力している。
涙を流すと幸せが逃げていくという魔法界の話もそうだが、
奴隷とネネーネが涙を流さないのは至ってシンプルな理由、
塩分または水分がなくなるから、
奴隷とは過酷な世界なのだ。
なぜロンパが知っているかというと、
昔の友達で奴隷になったことのあるやつを知っているから、
ただそれだけの話だった。
「なぁ、ネネーネ、お前も過去と決別したらどうだ」
ロンパはそういって一個のハンコを彼女に持たせてあげた。
ネネーネはこちらを見て次にハンコを見て驚愕していた。
それは奴隷のハンコ、
押されたものは奴隷となる。
「これは?」
「やるかやらないかはお前が決めろ、話を聞いてからでもいいんじゃないか」
「そうするわ」
ネネーネはぐーすか気絶しているチキンポッパーの顔面を容赦なく蹴り上げた。
チキンポッパーは怒声と汚らしい顔をこちらに向けて、
唾と涎を垂らしながら、こちらを見ている。
「ぐへえええ、いてーぞ、女、お前か、無礼だぞ、貴族に」
「あなたに父親と母親を殺された。両親はダンサーとシンガーだった」
「ああ、あれ? おおおお、まじか、お前はあの時の、また奴隷にしてやるぜえええ」
「それはこっちのセリフ、あなたは奴隷になりたい?」
奴隷のハンコとは奴隷商人という職業になっていなくても、
他人を奴隷にすることが出来る魔法の道具。
「ははっはあ、バカいうなよ、僕はチキンポッパーだぞ、貴族の中の貴族、最強な一族なんだぞ、金持ちですごいんだぞ」
「だから聞いている両親はなぜ命令違反したの? なんで従わなかったの?」
「ああ? 父さまがあの時、お前の父親と母親を別々の奴隷市場に送るといったら、あの二人は反抗したんだよ、せめて娘だけは助けてくれと」
「それで?」
「父さまは2人が死ねば娘は助けてやるといった」
「それで?」
「死んだから? 助ける? ばかばかしいからお前も奴隷にした」
ロンパは背中に冷たい汗が流れていくのを感じていた。
明らかにこの場の空気が凍り付いている。
まるで悪魔でも召喚してしまいそうなくらいのものだった。
ネネーネの心を満たすのは絶望と、そして静かな怒りだった。
彼女は歌ってはいけない歌を歌おうとしているのか?
でもそのような歌は覚えていないはず、
だが、それは、
それは復活ポイントも関係なく殺すことのできる歌。
「死の歌はやめろ」
ネネーネは驚愕の視線でこちらを見ている。
「こいつごときでお前の手をよごすな、こういう下種なやつは沢山いる。ここだけの話じゃない、お前みたいなやつがこういう下種を指揮して、悪さしないようにすればいい、そのための奴隷のハンコだろ?」
「そ、そうね、あぶなかった。ありがとう、ロンパ」
「それにしてもお前、どこで死の歌を覚えた」
「祖母に教わりました。3歳のころ。祖母が生きていた時」
「そうか、苦労したな」
「いえ、では、ハンコを押しましょうか」
「やめてくれ、奴隷になんかなりたくねーそこのお前たすけてくれ、そこの爺でもいいから」
ハンコが堂々とチキンポッパーの額に押される。
「では奴隷になりしものよ命令する。自分が奴隷にしてきた人々を解放し続ける仕事につきなさい、自らのお金を出し惜しみせず、自らの財産を犠牲にして、自らの配下を率いて、奴隷たちを解放し続けなさい」
「は、はい、かしこまりました」
チキンポッパーは理性と命令が加わった。
涙を大量に流し、
目は真っ赤に染まり、
それでもそれでも、彼は命令されたことを厳重に達成するだろう。
タベルスとリナリーナの双子もあいつの配下だから、
命令されるだろうし、
あの奴隷のハンコの印は普通のと違うので、
誰にもそれが奴隷のハンコだとは思えない、
「不思議、あいつはこのハンコに反抗できなかった。父様と母様は犯行して死んだのに」
「実はあの奴隷のハンコは普通じゃない、指令のハンコと呼ばれておる。最上級の賢者より上のやつくらいでしか解除できないし、死ぬまで解かれない」
まぁ賢者より上な大賢者のアモスなら解除できるのだが。
ぱんぱんとロンパは両手を叩いた。
「さっきから静かだなメイルン、どうした?」
「なんだろう、ネネーネもすごい経験したんだって」
「そりゃお前もだろうが」
「そうだね」
「わしゃはあのチキンチキンがどこかに行ってくれてとてもうれしゅうな、さて、次は5階層を目指そうではないか」
「そうだな、ふう、さっきみたいな食べまくる双子たちは嫌だぜ」
「女性のほうは食べまくってないぞ」
「ロンパ師匠、あれはきっとたくさん食べますよ」
「は、はは」
「師匠、次の5階層の情報はありますか?」
「行ってみてからのお楽しみだぜ」
ロンパはウサギの仮面を懐かしむように顔につけているネネーネを見ていた。
あのウサギの仮面に何か意味があるのかもしれないけど、
それでもネネーネは一生懸命に生きている。
まったく、ロンパは思う、
自分はもっと早く死にたいのに、
もう耐えられないのだ。
知らない人々の暮らす世界など。
あと5,6,7,8,9,10階層残っている。
ロンパは願う、最後までやってきてくれお前たち、
お前たちがロンパを殺すのだから。
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