第4話 自分のダンジョンを攻略するためには、冒険者を育てろ

「いいかいあのスライムは少し特殊なんだ。普通のスライムなら打撃、斬撃、魔法で倒せるだろうし、始まりの街周辺にいるようなスライムでもないだろう、ズバリ言おう」


 賢者アモスはにやりとほくそ笑む。

 ちなみにここでの名前は【ロンパ】ということになっている。


 アモスの大迷宮なのに大賢者アモスが冒険者になっていたら問題だろうし、

 偶然で片付けてくれるほど世の中甘くないともロンパは思っている。


 ここからがすべての認識をロンパに変換しておくことにする。

 もちろんパーティーメンバーに表示される名前もロンパになっているはずだ。


「では勇者メイルンよ、これをどう攻略できると思う?」

「はい、賢者様、私の鉄のレイピアではびくともしませんでした。なので、魔法がいいと思ったのです。しかしネネーネでは倒せなかったです」


 ロンパはごくりと生唾を飲む。


「お主たちが戦っていたのはスライムという液体であって、モンスターではない」


「はい?」


 この新事実にネネーネは体が震えるようにして、

 彼女は周りを観察している。

 天井をじっと見ているようだ。そこはとても高い場所に天井がある。

 光の塊がずっと浮いている程度。


 あ、という驚きの声が聞こえたあたりから、

 ロンパは魔法使いネネーネが現実を掴んでくれたようだ。


「つまり、ここにいるスライムとは単なるスライムの液体であり、その中にいろいろなものを詰め込んで、圧倒的な攻撃力に見せている。けど、この魔法使いをなめちゃいけませんよ」


 ウサギの仮面の下で彼女が笑うさまが確認できた。


「気づいたようだが、あとは自分たちでなんとかしてみろ、わしが手を出すと本末転倒だからな」


「ネネーネちゃん、何に気づいたの?」


 いまだに気づかない勇者メイルンは、大きな栗のような瞳をロンパに向けてきていた。ロンパは頭をぽりぽりと掻きながら。


「メイルン、ちょっと離れてて」

「いいけど」


 ネネーネの後ろにはまるで守護者のようにドースンが大きな荷物を背負っていた。

 ドースンはあほ面を張り付けたような顔をしていた。


 やはり考えるということを苦手とするドワーフ族には、

 この手の謎解きは難しいだろう。


 ロンパはこの大迷宮を改造する上で、リンティンというメイド長にアモス様ああああとか叫ばれたていたとき、リンティンと一緒にスライムを改造した。この謎に気づいてくれる人がいるだろうかと、アモスは考えていた。しかしロンパになり、勇者たちを導こうとしながら、少しのヒントを与えただけで、それを解決してしまう人物がどうやらいてくれた。



 これには冒険者としてロンパになったのはとてもうれしいことかもしれない、

 きっとネネーネはあらゆる知略でもってロンパを殺してくれるだろう。


 にやりとほくそ笑んだ瞬間。


 ロンパはさらににやにやしている。


「大賢者はとても性格が悪いですから」


 それはロンパの呟き、

 そしてその呟きは自分自身のこと。


 ネネーネの最高峰の炎魔法が天井に炸裂したとき、

 3階建てかというくらいの建物が落ちてくるような光景だ。


 そこらへんにいたスライムたちがぐねぐねとうごめき、 

 スライムたちが天井に張り付いていた司令塔のスライムにと融合を果たす。


「あれ、どゆこと、てっきり天井にいたスライムが頑丈で死ぬことのない無敵状態のスライムを操っていたんだと思っていたら」


「もしかしたら、あれがボスかもしれないよ、ちゃんとどんなレベル層でも倒せるようになってるんじゃないかな」


「なるほどです。そういうことですかーそれなら、ぶっ倒すのみです」


 勇者メイルンが叫び声をあげる。


 先程まで戸惑っていたネネーネは背中にあった横向きに4本セットされていたステッキを引き抜いた。

 まるでジャグリングでもするように回転させている。


 ドースンは荷物の中から巨大な槌を引っこ抜いた。

 そのほかにもいろいろと武器があるようだ。

 不思議なのはアイテムボックスでもないのに、

 荷物から出していたところを見ていたら、それは小さくしていないといけないくらいで。


「ふぉっふぉ、わしは別名『ウェポンコレクター』と呼ばれていましてな、色々な武器をコレクトしておりまして、コレクトした武器は大きさを小さくすることができるのです」


「ドースン殿は意外とすごい人だったのですね」


「以外と誰にも気づかれないですがね、ふぉっふぉ」


 ドースンというドワーフ族の老人はけらけらと笑い続けていた。

 

 ロンパは辺りを見渡す。

 大体、1階層にいるであろうスライムたちがいなくなってしまった模様で、

 この階層にいるボスを倒すか屈服をさせないと、次の階層に行けないようになっている。


 そしてこのロンパはこのスライムの正式名称を思い出していた。


【太陽のスライム】この太陽のスライムが生息していると思われる場所は溶岩の中だといわれている。ロンパはこのスライムをテイムした方法を思い出そうとしていた。


 このスライムの情報はあらかた残されていた。

 このモンスターを1階の迷宮のボスにしようと思ったのにはいろいろと理由がある。


 それはレベルが1でも攻略しだいでは倒せるからということだ。

 そしてこの【アモスの大迷宮】にはレベル制度はあまり取り入れたくない、


 そんなことはロンパ自信が分かっている。

 ロンパの体はレベル差で殺せるようなものではないのだから。


 頭の中の夢想を落ち着かせると、現在目の前で繰り広げられているバトルに目を向ける。


 勇者メイルンは2本のレイピアで縦横無尽に壁をけったりしながら、

 太陽のスライムは、口から液体スライムを吐き出している。

 おそらくそれで身動きをとれなくさせて、

 巨大な太陽のスライムで押しつぶすつもりなのだろう、


 メイルンの顔面にスライムの液体が飛び散った。

 それをネネーネが2本のステッキから水と炎の魔法を炸裂させる。

 水と炎の反作用同士の力により、爆発の玉となったその魔法は、

 一直線に太陽のスライムの顔面をとらえ、

 数個ある目玉が蒸発していく。


 そう簡単な話、太陽のスライムの弱点は3個の目玉をつぶすこと。


 太陽のスライムはメイルンに攻撃を集中させるあまり、

 ドワーフ族のドースンのことを意識から外している。

 それに精霊族のネネーネによる爆発玉により目玉を1つ損傷。


 スライムのお尻のような場所から悲鳴があがる。

 どうやら隠れて進んでいたドースンが目玉をつぶしたようだ。


 この3人はものすごいスピードで成長していることを感じさせるものがあった。

 なぜならロンパは目玉が弱点だと教えていないこと。

 目玉がどこにあるかも教えていないのだ。


 それなのに彼らは本能で目玉が弱点だと考えているようでもあった。


 最後の1つの目玉を勇者メイルンが叩き切ると。


 黄金のスライムはまるで断末魔を上げるように、

 ぷるぷると震えながら。

 爆発してく。

 それはアメーバが分離していく状態に見えた。

 とてもとても悲しいものだった。


 ロンパにとってこのダンジョンとは自分自身を殺してくれる人を探すことだった。

 そのためにいろいろなモンスターたちをテイムしたり、

 これから説得してダンジョンのボスモンスターになってくれないかと、頼み込もうとしている。


 それ自体が結局は自分のエゴのようなもので、

 ロンパの自分勝手な考え方からきている。

 だから、ロンパはモンスターたちに、すべての事情を説明している。


 太陽のスライムはこの世界から消滅した。

 もしかしたら第二、第三の太陽のスライムが表れるかもしれない。


 それでもそれは未来の話であって、


 今、ここにいる感激を示している。


「やった、やったぞおおおお、すげええええええええええ、こんな化け物を、もう疲れたから、始まりの街に一度戻りましょう、どうでしょう、賢者様もきますか?」

 

 ロンパは頭をぽりぽりとかきながら、

 なんとか今の魔力だと始まりの街までは行けそうだ。


「ああ、いくよ、久しぶりの街だ」


 殺気を感じたので、

 ロンパは後ろを振り返った。

 そこには誰もいなかった。


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