かんちがい令嬢は転生先を間違える
さき/角川ビーンズ文庫
プロローグ
その名前を聞いた
この世界は前世でプレイした
そして思い出すと同時に理解した。
この世界は、貴族が戦うバトルアクションゲームではないということを……。
話はシルフィアの
シルフィアが帰宅しようと学園の通路を歩いていたところ、背後から声を
銀の
「ごきげんよう、ライオネル様。どうなさいました?」
だが高等部の通路では
それを纏いつつも
年相応の青年らしく、気さくで
「
「だけど、俺達は
「友人だなんてとんでもない!」
ライオネルの言葉に、シルフィアが思わず声をあげた。
確かにライオネルとシルフィアは同じ学園に通う身、それも同じ学年のクラスメイトだ。互いの
だけど……とシルフィアはチラと周囲に視線をやった。
数人の男子生徒が遠巻きにこちらの様子を
(いつもこうだわ。遠巻きに見てくるだけで、私から挨拶をしても生返事しかしないのよね)
近寄るでもなく、かといって
シルフィアからしてみれば、訳が分からず、そして気分の良いものではない。
そんな周囲からの視線を感じつつ、シルフィアはライオネルに向き直った。
男子生徒は殆ど遠巻きに見つめてくるだけだが、彼は別だ。
「ライオネル様は
「いや、そんなことはない。君のことを大事な友人だと思ってる」
「友人だなんてそんな。ご安心ください、ライオネル様を友人だなどと
「力強く断言しないでくれ……!」
うぐぅ……と
それを見てシルフィアは首を
そもそもなぜ声を掛けてきたのか。それを問えば、胸を押さえて
「君に
「頼み事……。もちろん、ライオネル様の頼み事でしたら。何でもおっしゃってください」
「俺の頼み事なら……。そうか、ありがとうシルフィア。やはり持つべきものは友だな」
「まぁ、友だなんて
「ここにきて追加の
再びライオネルが胸元を押さえて呻く。今すぐに
そう思えどもひとまず彼の話を聞こうと考え、
銀の髪によく
黒髪に同色の瞳という黒一色のシルフィアに比べて、彼はまるで
性格や家柄も、片や友好的で社交界の中心にいる公爵家、片や常に一人で学園生活を送る男爵家。なにからなにまで真逆といえる。
そんなライオネルをじっと見つめていると、自然とシルフィアの
「それで話なんだが……。シルフィア、どうして君は俺と話をする時に拳を
「まぁ、失礼いたしました。これは……
「
「もしくは私の中に流れる血のせいでしょうか……。とにかく、ライオネル様の用件を
今はまだ拳を握る時ではない。
そう自分に言い聞かせてシルフィアが話の続きを待てば、ライオネルが一度
「実は
「ライオネル様の幼馴染ですか?」
予想もしない話に、シルフィアは首を傾げながら尋ね返した。
「転入が決まった時は楽しみだと喜んでいたんだが、先日会ったら思い
「私に……。もちろん構いませんが、なぜ私なんでしょうか」
社交界に生きる令嬢として、そしてこれから起こる出来事のため、貴族の顔と名前は殆ど記憶している。それが格上の公爵家ならばなおさらだ。
だがライオネルが話す公爵令嬢については思い当たる節がなく、そのうえどうして単なる男爵家令嬢でしかない自分に相談となるのか、
それはライオネルも同じなのか、シルフィアが問うように見つめると困ったと言いたげに頭を
「実を言うと俺も
「まぁ、そうだったんですね」
「あやふやな話で申し訳ない。どうか相談にのってくれないだろうか」
ライオネルが軽く頭を下げて頼み込んでくる。
本来、公爵家子息から男爵家令嬢への頼みとなれば、
それでも低姿勢で頼んでくるライオネルの
その
「ありがとう。それなら一度帰ってミリーを連れて君の家にお
「お待ちしております。……ミリー?」
聞き覚えのない名前に、シルフィアがオウム返しのように口にした。
初めて聞いた名前だ。
(だけどなぜかしら、
自分の記憶の奥底で何かがよみがえろうとしている
そんな言い知れぬざわつきを胸の内に覚えるシルフィアに対し、ライオネルが
「彼女の名前を教えてなかったな。俺の幼馴染、ミリー・アドセンだ」
「ミリー……アドセン……」
その名前を口にした瞬間、シルフィアの胸に
それと同時に流れ込む様々な記憶。
今の自分ではない自分が
そして思い出した。
この世界は前世でプレイした
そして思い出すと同時に理解した。
この世界は、貴族が戦うバトルアクションゲームではないということを……。
「どうしましょう、私、勘違いしていたわ……」
弱々しい声でシルフィアが呟けば、ライオネルが不思議そうに顔を
それに対しても
この握った拳こそ、まさに勘違いの
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