教授に犯人を聞いてみた
池照はその後の持ち帰った鳥居の写真と大悟の携帯を冴羽獠子さんに調べて貰ったところ写真に不審な所はなく、映ってる花火はこの日にしか打ち上げない特殊なものだった為、7月7日午後8時50分の風祭大悟と高橋優子のアリバイが確定した。
更に、映り込んでいる携帯と持ち帰った大悟の携帯が傷や汚れの状況から同一である事が証明され、データで保存された動画もどこかから移されたものではない事が証明された。
「つまり、教授に続いて大悟もアリバイ成立って訳か」
「そうなりますね」
冴羽獠子さんはクールにそう言うと池照に預かっていた携帯と写真を返した。
「あの.......教授の方は?崩れそうにない?」
池照はダメもとで念を押してみた。
「えぇ.......色々と検証してみたけど、なんの疑いも挟みようがないわ。ネットフォーラムの時に話してる今市教授の声紋まで取ったけど、本人で間違いないわね」
「.......そうか。ありがとう」
そう言って去ろうとする池照を冴羽獠子さんが呼び止めた。
「あ、それと.......大悟くんの言ってたNシステムを調べたんだけど、北条みなみさんが映ってるのが見つかったわよ」
「ほんと?何時でした?」
「午後の六時に平和町から西湖町に向かう国道で映ってるわ」
「じゃあ、大悟がちょうど電車に乗ってた時間か.......」
「そうなりますね」
「どうもありがとう」
「ゆあウェルカム」
冴羽獠子さんは帰国子女なのだ。
池照はそれらの情報を得るともう一度今市教授に会うために大学に足を運んだ。
「どうも、また来ました」
「やぁ、刑事さん。捜査は難航してるらしいですね。気の毒に」
例によって全く気持ちの籠ってない声で犯罪心理学の参考書を捲りながら今市教授が応えた。
「.......まぁ、そうなんです。これだけ容疑者にアリバイがあるとねぇ」
「お手上げですか?」
「ええ、まぁ.......流石にないとは思ってるんですけど.......自殺じゃないかって言う人までいます」
「自殺?.......でも、後ろから刺されて、あの.......服を燃やした火傷の後には生体反応がなかったとか」
「え.......えぇまぁ、よく知ってますね。その通りなんですけど、後ろから刺されたのは氷を使ったトリックで、火傷の方は時間差で燃えた後に痕跡の残らないなんらかの薬品でも使ったのではないかと」
「なるほど、氷と薬品ですか.......面白い。最近ではそういう危険な薬品もネットなどで手に入るかもしれませんからね」
「まぁ.......そうなんですけど、ネットなら証拠が残るはずなんですけどね」
「確かに」
「教授は誰がどのようにして犯行を行ったかわかりませんか?」
「わたしに聞くんですか?」
「.......はい。虫の良い話かもしれませんが.......第一発見者にして犯罪心理学専門の教授のお知恵を借りたいと.......」
「いやあ.......買い被らないで下さい。しがない学者の端くれですよ。なんの力もありません」
そう言った教授の言葉は何となく本当にやるせない気持ちの.......揺らぎの様なものを感じた。
気の所為かもしれないが。
「しかし、今考えると太宰治を心から信奉していた彼女なら.......自殺もなくはないと考えます」
「.......なるほど。教授は彼女と.......本当に男女の関係では無かったんですか?」
「ええ.......もしかすると。彼女の方は私を好きでいてくれたのかもしれませんが.......応えられませんでした」
「そういえば教授の女遊びが激しいという噂は自作自演だったんですよね?」
「え?.......あぁ、中岡くんが喋ったんですね」
「はい.......失礼ですがそんなにおもてになるので?」
「いやあ、全然.......半分冗談みたいなノリで彼もやっていたと思いますよ.......あ」
「どうしました?」
「そろそろネットフォーラムの時間なんで」
「あぁ、それはお邪魔しました.......そう言えば」
「はい?」
「ネットフォーラムを8時から10時までやるのに、9時に2人ものゼミ生と会う約束をするのはおかしくないですか?」
「え?いえ、本当は8時から1時間くらいを予定してて、9時に大悟くん。10時に中岡くんと言う予定でした」
「.......なるほど」
「しかし、大悟くんは来なかったのと議論が白熱したので中岡くんが来たのはわかったんだけど、予定は10時だったので待って貰いました」
「そうだったんですね.......あ、それともうひとつ」
「なんでしょう?」
「部屋で火災が起きたのに火災報知器が鳴らなかったのはなぜですかね?」
「.......あぁ、それは火災報知器のコンセントが抜かれていたんです」
「ぱっと見た感じでそれらしきものはありませんでしたけど」
「ちょっと分からない様になってるんです......」
「なるほど」
「なぜそんなことを?」
「いえ、少し気になっただけです」
「そうですか.......すみません、そろそろ始まりますので」
そう言うと教授は高そうなヘッドギアのマイクに向かって起動させる為のワードを呟いた。
「うわ.......最先端ですね」
「結構ついて行くのが大変です」
教授は1度つけたヘッドギアを態々外してそう言うと池照に微笑んで.......いる様に見える様な表情筋の動かし方をした。
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