鉄壁のアリバイ

「え?本当に?」


池照は念を押した。


だが、結果は同じだった。


「やはり、今市教授にはアリバイがありますね。世界中に.......」


そう言ったのはサイバー犯罪科の冴羽涼子さん25歳独身だ。


「でも.......なにかのトリックとか?」


「パソコンに内蔵されているカメラに顔が映ってますし、そのパソコンのGPSは正確です。つまり、これ程確かなアリバイもないって事ですね。調べましたが操作されたり改竄された跡もありませんでした」


「本当なんだね.......つまり」


「はい、今市教授は7月7日の夜の八時から十時までの間、世界的な犯罪心理学のネットフォーラムに参加していた事になります」


──そんな、バカな.......。


だとすると、え?


誰が犯人なんだ?


いや、教授の話が本当だとしたら.......。


密室はどうやったんだ?


全ての窓は二重にロックされる様になっていた。


絶対に内側からかけるなんて不可能.......な筈。



謎だ。



「どないしたん?」


岩井が固まっている池照を見上げて目を細めた。



「どないもこないも.......ありませんわ」




──下手くそな関西弁やなぁ、と岩井は思った。




「そんなら、もう風祭大悟を揺らしてみるしかないやろ」


池照から教授のアリバイを聞いた岩井はそう言って腕を組んだ。


「.......ですね」


池照もこれは同意せざる負えない。


一番疑わしい容疑者にアリバイがあるなら次点が繰り上がるわけだ。


だがしかし....何かが引っかかる.......何かを見落としてる様な気がした。


──現場一万回!.......って誰か言ってた気がする。


「ちょっと、教授のマンションに行ってきます」


「え?風祭大悟は?」


「どうせ、連絡とれませんし。今の段階では締め上げる材料がありません」


「.......まぁな。あ、やっぱりアリバイがない方が有利やん」


「.......ですね」


疑われるリスクより、追い詰められない方を取ったか?


「とりあえず、行ってきます」


「しゃーない、わしもつきおうたる」


無言で頷くと池照は会議室の扉を開けて閉めた。


「おい!閉めんなよ」


後ろから先輩の声が聞こえる。





2人の刑事は殺害現場の教授のマンションの裏手に居た。


「なんで裏手にきたん?」


「密室の謎を解くためです」


「でも、施錠されてたんやろ?」


「教授が嘘をついてるかもしれません」


「.......なんのために?」


「.......まぁ、それは後で考えましょう」


そう言って池照は2階の高さにあるベランダを見た。


ハシゴでもあれば登れそうだし、管理人室の横にハシゴが立て掛けてあって誰でも使えそうだ。


「でも、ハシゴなんかかけたら目立つんやない?」


「こっちは見ての通り土手になってて、線路しかありませんからね」


「電車から見られるやん」


「試しに平和町から西湖町ゆきの電車に乗ってみましたけど、結構あっとゆう間に通り過ぎますので余程注意して見てないと記憶に残らないでしょう」


「注意してなくても、誰かハシゴでマンションに入る不審者を目撃してたら記憶に残るやろ?」


「もしも犯行が梯子を使ったのなら電車が通る時間は避けるでしょう?電車が来てるかどうかは遠目に分かりますし、わからなくても時刻表を把握していれば問題ないでしょう。ハシゴが掛かってるだけなら、なにも思わないかもしれません。なにかの点検かと思うだけで」


「まぁ、実際はそんなもんか。で?教授がなぜか自分が犯人になる様な嘘をついたとすると密室の謎は解けるわけや」


「えぇ、一応.......」


池照はしばらく黙っていたが、とある着想にたどり着いてハッと顔をあげた。


「あの燃やされた服って本当に被害者の物で間違いないんでしょうか?」


「うーん、確か残された繊維片から本人が着ていたもので間違いないんやなかったかな?知人からの証言もありよるし」


「それだと無理があるか」


「どないした?なんかわかったんか?」


「実はマンションの防犯カメラに映ってたのが真犯人だったと言うのはどうでしょう?」


「あぁ、そやね管理人の証言は確かに見覚え無いっちゅう曖昧なもんやからね.......ありそうやな」


「でしょう?で、害者の服を脱がせて自分の服を燃やしたんです」


「ほうほう、でもその後はどないする?防犯カメラには入っていくところしか映ってへんで?」


「害者の服を来て窓から、出て行くんです」


「じゃあ、窓は空いたままになるやないか?」


「ですが、密室だと証言したのは教授ですよ?教授自身が自分の証言に信憑性がないって言ってたのが謎でしたましたが、嘘がバレた時の伏線だとすれば納得できます」



「ならほど、なるほど。せやけどどうやって指紋認証を突破できたんや?それと被害者が防犯カメラに映ってないのもどう説明するんや?」


「そこがポイントです。つまり指紋認証していたのが本当の恋人で、北条みなみはなんらかの理由で窓から侵入したところをはち合わせになった。そこで口論になって殺害。教授との仲を秘密にしたい犯人は咄嗟に服を入れ替える事を思いついて後でそのことを教授に伝えた、と」


「なるほど!」


「この線でいけそうですか?」


後輩刑事の鋭い推理にやや関心しつつあった先輩刑事はとある事に気がついて首を捻った。


「.......せやけど、肝心の燃やされた衣服は被害者の物で間違いないらしいで」


「.......だめですか?」


岩井は池照刑事に手をバッテンにして見せた。


「かなりいい線だと思ったんですがねぇ」


「せやな、あのお嬢ちゃんに入れ知恵されたのかと疑ったくらい鋭かったわ」


「ですよねぇ……え?」


ぷるるるるるる


また突然ポケットの携帯が鳴った。



──池照は嫌な予感がした。


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