第9話 飛龍が如く、ジャイガリン


 ついに復活し、再び「Z」と相対するジャイガリンG。死地熱エネルギーを大量に吸収したその全身は激しく赤熱しており、足元から噴き出す熱気が視界を歪ませている。


『決着……ですか。ならば見せて頂きましょう、消えゆくあなたが放つ最期の輝きを!』

「……ぉおおおおぉおッ!」


 そんなハッタリなど通用しない。そう言わんばかりに放たれた指先の雷撃が、再びジャイガリンGの全身を飲み込む。

 ――だが。今度は吹き飛ばないどころか、傷一つ付いていない。両腕で雷撃を凌ぎ切った土塊色の鉄人は、その豪腕を振るうだけで、雷撃を全て薙ぎ払ってしまった。


 ペルセの想定を遥かに凌ぐ「豪炎の同盟バーニング・アライアンス」の戦力と、彼らに対処するべく大量生産された「天雷の軍勢エース・ドールズ」。

 その双方が原因となり、「Z」のボディと動力を構成するGメタルが、再び消耗し始めていたのである。


『なん……だと、これはッ!?』

「はぁあぁあぁあッ! スピンリベンジャー・パァアァンチッ!」


 規格外な「Z」の火力を、さらに上回る防御力。それを証明する「力」の発露にペルセが瞠目する瞬間、ジャイガリンGの右腕が激しい回転と共に撃ち出された。

 「質量」に物を言わせる鉄拳の威力に、「回転」が生む貫通力を上乗せしたスピンリベンジャー・パンチ。「復讐リベンジ」というゾギアン大帝の怨念が込もったその一撃を、「Z」も両腕で受け止める。


 だが。ジャイガリンGのように薙ぎ払うことは、出来なかった。


『なんてヤツだ……! あの装甲を、溶かしてやがるッ……!』


 「排熱」を「噴火」と見紛うほどのエネルギーで満たされている、今のジャイガリンGが放つ鉄拳には。「Z」の装甲すらも溶かすほどの熱量が、宿されているのだ。

 その光景に亮磨が戦慄する瞬間、鉄拳を防ごうとしていた「Z」の両腕が、蝋のように溶け落ちてしまう。あまりにも激しい熱気に押され、200mの巨人が後退し始めていた。


『うぐおぉおッ……!』

「地上人も、地底人もないッ! これがッ! あなたが見下した地球の、ジャイガリンGの、ダイノロドのッ……ゾギアンの力だァアァッ!」


 だが、逃しはしない。絶対にこの場で、決着を付ける。

 その一心で頂上から跳び上がり、「Z」に向かって行くジャイガリンG。彼を迎え撃つべく、「Z」も両眼から熱線を放つが――回避も防御も不要とばかりに直撃すら厭わず、手足をもがれながらも真っ直ぐ突き進んで行く。


 もはや翼も、四肢もないというのに。それでもなお、飛龍が如く。


『……フブキ・リュウシロォオォォオッ!』


 だが、このまま黙って倒される「天雷」ではない。

 ペルセが怒号と共に、コクピット中央のスイッチを叩く瞬間。「Z」の両肩に搭載された、超大型ミサイルポッド――「流星群ミサイル」が、発射体勢に突入する。


 この劫火が放たれれば、孤島全体はおろか地球そのものが焼き尽くされてしまう。それよりも速く、「Z」を潰さねばならない。


「ロケットォオォォオッ!」


 竜史郎の雄叫びと共に、ジャイガリンGが頭部を振り上げ――その鼻先のドリルが、猛烈な回転を始める。この戦いに決着を付ける、必殺の一撃を放つために。


 だが――流星群ミサイルの方が僅かに、速い。すでに発射まで、残り1秒を切っていた。


『がッ……!?』


 にも、拘らず。ジャイガリンGは諦めず、鼻先ドリルの回転をさらに速めている。

 その諦めの悪さが、さらなる奇跡を呼んだのか――予期せぬ角度からの砲撃・・が「Z」をよろめかせ、ミサイル発射を阻んでいた。


「……これでも倒れないなんて、一体どこまで頑丈なんだか」


 大鴉を模したエネルギー銃「Gレイヴン」を携え、巨大な的を撃ち抜く清姫弐号機。


「だけど……そろそろ限界らしいね!」

「あれだけデカいと、外す方が難しいってもんだッ!」


 彼の頭上から、両腕に装着された緋色の鉄腕・アームドアームを振るい、「Z」の全身を灼熱の猛炎――「メルティング・フェノメノン」に飲み込むゴッドグレイツ。


「ホールドネットミサイルッ! さぁ動きは止めたべ、思いっきりやっちまってけろっ!」


 ミサイルの弾頭から展開された巨大な「網」。その牽制兵器で「Z」を絡め取り、動きを封じる――フェリー型メカ・ミヤギバトルシップと合体し、より巨大な力を得たスーパーミヤギレイバー。


「これで、あとは……!」

『彼の一撃で決まるはずだ!』


 その巨人と肩を並べ、頭部に装備された「ゴッドバルカン」での牽制を試みるゴッドジャスティス。


「時間はオレ達で稼ぐよ! だからッ……!」


 バリアブルガンを連結させたロングライフルによる、援護射撃で「Z」を阻止せんと引き金を引くガイファルド・セイバー。


「せいぜい、いいところ見せてご覧なさいッ! ――燃えよ、鉄拳ッ! ブレイジング・アロー!」


 弓を構えるように突き出された白銀の左。引き絞られた矢の如く構えられた、真紅の右。その体勢から射出された右腕でミサイルポッドを殴り付ける、ナイトキャリバーン。


「ここでカタを付けるんだッ! 頼んだよ、正義のスーパーロボットッ!」


 胸部のビーム砲、両眼の光線、肘から切り離して射出された両拳。傷付きながらも、持てる兵器の全てを尽くした一斉射撃で――「Z」の外殻を叩くロボットマン。


「俺達も手を貸すよッ! グランビィィイィムッ!」


 そのロボットマンに肩を貸しながら、両眼から金色の破壊光線を放ち。スピンリベンジャーパンチの熱量によって溶解していく「Z」の装甲へと、更なるダメージを重ねていくグランパラディン。


「無駄に展開を長引かせるなって言っただろッ! いい加減、喋るネタも弾薬も尽きかけてんだよッ!」


 リニアガンの引き金を引き続ける、クリストファーの叫びと共に。ロボット達の総攻撃によって亀裂が広がった「Z」のボディに、追い討ちの銃撃を浴びせるウォリアー。


「さぁ、君の手で『物語』を締め括る時が来たよ! お待ちかねのハッピーエンドだ! ――【雷の矢ペルーン】よッ!」


 左の手甲に装備された弓を引き絞り、そこから放つ雷光の矢によって、装甲もろとも「Z」の内部を射抜くVリーナ。


「……世界防衛軍を。地球を、舐めてんじゃねぇぞ異星人ッ!」


 ――そして、御堂亮磨率いる防衛軍戦車隊。

 巨大ミサイルポッドの展開を目撃していた彼らが、その発射を前に放って置くはずがなかったのである。


『フブキッ、リュウ……シロォオォォオッ!』


 彼らの砲撃によって「Z」のボディに亀裂が走り、その姿勢も大きく揺らめいたが――それでも稼げた時間は、ほんの数秒。

 だが、その数秒こそが、地球の命運を大きく分けるのだ。


「アンッ……トラァァアァーッ!」


 最大限まで回転速度を増し、全ての死地熱エネルギーをその一点にのみ集中させて。ジャイガリンGはついに、その鼻先ドリルを撃ち放つ。


 空を裂き、「Z」に迫り、その堅牢な装甲を溶かしながら貫き。200mもの巨体に、風穴を開ける必殺の一閃。

 その威力は有無を言わせず、ペルセに「敗北」の2文字を突き付けるには、十分過ぎるものであった。


『……そうですか。これが……これが、「戦死」というものですかッ……!』


 悔いなど残るはずもない、圧倒的にして絶対的な完敗。それを存分に味わいながら、「Z」の巨躯を飲み込む爆炎に抱かれ――ペルセは最期に、至福の笑みを浮かべる。

 生まれながらに闘争を求め、数百年に渡り戦いの道にのみ生きてきた男は。死の間際にようやく、己にとっての幸福を享受したのである。


 走馬灯のように過るのは、サルガに追放されてから地球ここに辿り着くまでの旅路。宇宙の最果てで「Z」を再起動させ、星の大海を駆け抜けていく中で、ペルセは幾つもの「世界」を視てきた。


 遥か彼方の遠い銀河。その異なる宇宙に築かれた、異なる歴史。異なる物語。そこで連綿と命を紡ぎ、生きていく人々。

 何億光年もの道程を瞬く間に突き抜けた「Z」という異物・・の余波が、彼らの「世界」にも影響を齎していたのだ。


『そうか、彼らは私が……!』


 呼び寄せたのか。その結論に至る瞬間――「天雷」は、己の生涯に終焉を迎える。


『おおっ……!』

『やった……勝った、勝ったぞ! 我々の勝利だぁぁぁッ!』


 「豪炎の同盟」として集ったスーパーロボット達が、その瞬間を見届ける中。

 遥か遠くから決着を見守っていた戦車隊から、爆発するような歓声が上がったのはその直後であった。「Z」という司令塔を失ったことで、エース・ドール達も次々と膝から崩れ落ちていく。


 ――そして。最後に放ったロケットアントラーで全ての力を使い果たしたジャイガリンGは、そのまま力無く火山の斜面に落下してしまった。


 地表に激突する寸前、下で待ち構えていたオルディウスが難なく受け止めたのだが――その反動でキャノピーを突き破った竜史郎の身体が、アントラー号の外へと投げ出されてしまう。

 だが、血だるまになるまで傷付いた彼の身体は、八郎丸の肩に乗る泰良がしっかりとキャッチしていた。彼をこのまま「地獄送り」にしないため、墜落を予感してここまで駆け付けていたのである。


「……ったく、死に急ぐなって言ったそばからコレかよ」

「ふふ、気骨があって良いではないか。おれは嫌いではないぞ」


 界吏が心配げに見守る中、血みどろに汚れた竜史郎は、笑みを浮かべる泰良の腕の中でぐったりとしていた。彼女は八郎丸に命じて竜史郎を地面に下ろすと、オルディウスと共に踵を返していく。


『坊主! おい、坊主! 応答しろ! 生きてんのか、おいッ!』


 自分に向かって懸命に呼び掛けている、亮磨の叫びに応じる余力もなく。竜史郎は朦朧とする意識の中で、揺らめく視界に映る巨人達の姿を見遣っていた。


「君達、は……」


 一体誰なのか。どこから来たのか、どうして助けてくれたのか。戦いが終わった今だからこそ、聞きたいことが山ほどあるのだ。


 しかし彼らは竜史郎の生還だけを見届けると、それ以上は一言も語ることなく、次々とこの地を離れて行く。ある者は空へ、ある者は森の中へ、またある者は海の彼方へ。

 それぞれの「物語せかい」へと、彼らは還って行くのだ。


 そんな彼らを呼び止められるだけの力など、もう残されていない。だからこそ、ジャイガリンGと共に倒れた竜史郎は。


「……あり、が、とう」


 気を失う直前に、最後の力を振り絞り。精一杯の感謝の言葉を、呟くのだった。


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