第37話 魔法師対抗戦


 クラスに到着し、それぞれの生徒が着席する。今日は魔法師対抗戦マギクラフトゲームに関しての説明がされる予定だ。すでにアイリス王女からその概要は聞いているが、改めて確認する。


「はい。では皆さん揃いましたね。今日は魔法師対抗戦マギクラフトゲームについて説明しますね」


 教諭がそういうと、教室内には静寂が広まる。魔法師対抗戦マギクラフトゲームが王国内でも一大イベントであり、選手だけでなく観戦する側もまたかなり盛り上がるという。


魔法師対抗戦マギクラフトゲームは二つの魔法学院による対抗戦です。ルールはシンプルに一対一の戦いで相手を戦闘不能にするか、審判が続行不能と判断するまで続きます。そこで代表選手に関してですが、これは学年の縛りはありません。校内の予選を通過すれば、誰でも選手になる可能性があります」


 学年の縛りがない。

  

 つまりはたとえ一年生であったとしても、代表選手に選抜される可能性があるということだ。


「また、選手の人数は五人。五人制が採用されています。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に戦って、先に三勝した方が勝利ですね。といってもほとんどの人は知っていると思うので、概要はこんな感じかな? 質問のある人は?」


 と、教諭がそう尋ねるが特に尋ねる生徒はいなかった。この王国出身の人間ならば、その概要は知っていて当然なのだろう。俺も特に尋ねることはなかった。


「それでは校内予選に出場したい人は、放課後までにエントリーをしておいてくださいね。魔法師対抗戦マギクラフトゲームに関しては以上になります」


 そうしてそのまま午前中の授業に入ることになった。



「フォンテーヌ様はやっぱり出場するのですか!?」

「えぇ。もちろんです」

「まぁ! フォンテーヌ様なら絶対に代表選手になれますわっ!」

「ふふ。ありがとうございます」


 昼休みになったと同時に、カトリーナ嬢の周りには生徒が溢れる。誰もが輝いた瞳で彼女の出場を願っているようだ。実力は聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツということで申し分ない。それに加えて彼女には、その美貌がある。


 魔法師対抗戦マギクラフトゲームで注目を集めるのは間違い無いだろう。


「サクヤ。お昼ご飯食べましょう」

「はい。行きましょうか」


 俺とアイリス王女はそんな様子をチラッと視界に入れながら、いつものように屋上に向かうのだった。


「どうやら彼女は出てくるみたいね」

「そのようですね」

「……さて、ここまでは予想通りだけど」

「問題は他がどのように動いてくるのか、ということですね」

「えぇ。聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツに、他の魔剣使い。きっとこの王国の大会の盛り上がりに乗じて何かをするのは自明。私たちはその裏をかいて、一本でも多くの刀剣を収集したいわね」

「カトリーナ=フォンテーヌ嬢の覚醒はまだでしょうか?」


 俺とアイリス王女では彼女の方が感知能力が高い。そのため、そう尋ねてみるが彼女は首を横に振るだけだった。


「まだでしょうね。その兆候は全くみられない。でも、覚醒に関して精神的な要因も大きいからこの大会を通じて覚醒してくれたらいいのだけど。あなたなら、簡単に奪えるでしょう?」

「はい。正直言って、彼女程度でしたら油断しない限り大丈夫かと」

「そう。あなたのことは信じているけれど、やはり問題は舞台の整え方ね。この前のように綺麗に状況が動くことは過信しない方がいいしね」

「……そうですね」


 はっきり言って前回の戦いは色々と博打的な面が大きかった。あと少しでも離脱するのが遅れていれば、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツに目撃されていた可能性もあったのだ。


 正直なところ、まだ聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツと真っ向から対立するのは得策では無いだろう。聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツの権力と実力。それはこの王国でも最高峰。無駄に身動きが取れなくなるのは、俺たちとしても望むところでは無い。


「まずはそうね……サクヤ。あなたカトリーナさんに稽古でもつけてあげたら?」

「自分が、ですか?」

「えぇ。今の彼女ならきっと了承してくれると思うわ。ただ大っぴらにすると困るだろうから、二人きりで秘密でしたいというといいかもね」

「はぁ……そういうものですかね? 自分と二人きりは嫌がるのでは?」

「それは無いんじゃない?」

「何か根拠が?」


 俺は理解できないがその理由があるのだろうか。そう思っていると、彼女は「うーん」と唸りながら顎に手を当てる。


「……こればかりは私の口からはなんとも。でもきっとうまくいくから。とりあえずはやってみたら?」

「そうですか。とりあえずは了解しました。自分から話しかけてみて、提案してみようと思います」


 アイリス王女の提案を受け入れるが、彼女はなぜかじっと半眼で俺のことを射抜いてくる。


「? どうかしましたか?」

「サクヤってちょっと天然なところがあるから、変なことをしないようにね」

「変なことですか?」

「そうよ。ルーナにも時々してるでしょ?」

「あぁ……まぁ、自分は動物が好きなので。ははは」


 乾いた笑いを浮かべるが、アイリス王女は「そういうことじゃ無いけど……まぁいいわ」と言って昼食を取ることに集中する。


 そこから先は特に会話もなく、昼休みが終わった。とりあえずは放課後にでもカトリーナ嬢のもとに向かってみるか。


 そんなことを俺は考えるのだった。

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