第二章 破滅の燐光──ジャッジメント──
第32話 正義執行
私は神を信じている。
孤児だった私がここまでくることができたのは、全て神のおかげだった。
シンシア=クレイン。それが私が神から授かった名前だ。両親のことは覚えていない。気がつけば私は孤児となり、路地裏で残飯を漁るようにして暮らしていた。ボロボロの服に、ずっと洗髪していないので匂いも酷い。
それが私の世界だった。
幼い頃はただ呆然と生きているだけだった。死にたくないと私は思うだけで、生きることに理由などはなかった。
どうして私は生きているの?
そんなことを考えても無駄だと分かった。だってそこに意味などないから。
「おらっ!! 乞食がよってくるんじゃねぇっ!!」
あまりにもお腹が空いた私は、通りすがりの人に食べ物を恵んでいくれるように頼んだ。しかし、断られた上に腹部に思い切り蹴りを入れられてしまう。ろくに受け身を取ることができない私は、そのまま地面を無惨にも転がっていく。
「うっ……ぐうううっ!!」
呻き声を上げる。
痛みが体を支配していく。そして私を蹴り上げた大人が近づいてくる。そこにいる三人の男性はニヤッと笑いを浮かべる。
「おい。こいつやっちまうか?」
「はぁ? こんなガキがいいのか?」
「へへへ……逆にいいだろう?」
「ま、止めることはないがな」
そのような会話が聞こえてきて、おもむろに目の前の男がズボンを脱ぎ始めた。その意味は当時は理解していなかった。ただ呆然と、今からきっと酷いことが行われるのだろうと……そう思っていた。
しかしその瞬間、目の前の男の首が弾け飛んだ。
自分の頬に血が付着する。その様子を私はまるで他人事のように見つめていた。
「見つけたよ。この王国で密輸をし、さらには殺人も複数件しているね。あぁ、大丈夫だ。すでに君たちの話を聞く気はさらさらない。ここで死ぬ者に興味はないからね」
颯爽と現れたのは、腰まである銀色の髪を靡かせて歩みを進めている少女だった。右手に持っている長剣からは真っ赤な血が滴っていた。
「この女があああああああああああっ!!」
「死ねよおおおおおおおおおっ!!」
激昂した残りの男たちの首もまた瞬時に宙を舞った。これは夢? いやきっとそうに違いない。だって、こんな非現実的な光景など見たことはないから。
「さて、と。あなたの名前は?」
「あ……えっと……」
良く見るとその少女は自分と同じか、年下かもしれないと思った。しかし、その容姿はとても美しい。
その剣は黄金の輝きを放っており、その煌めきを一見しただけでもそれが特別なものだと分かった。
灼けるような真っ赤な双眸に、高く伸びている鼻。その肌はまるで雪のように白く、おおよそ現実離れした容姿に見惚れてしまう。
「シンシア……シンシア=クレイン」
「シンシアか。実はこいつらの処理はついでだ。私は君を迎えにきたんだ」
「私を迎えに?」
「あぁ。そうだよ」
ニコリと微笑みを浮かべる。それを見て自分の顔も赤く染まってしまう。別に女性が好きというわけではないのだが、彼女のその魅力的な笑顔は性別を超越していると思った。
そして彼女は次の瞬間。思いがけないことを口にした。
「君は──神を信じるかい?」
──妖刀で断ち切る魔法学院 第二章
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!!」
「やばい、やばい、やばいっ! どうしてあの女がここにっ!!?」
「知らねぇよっ! 誰かが情報を漏らしたしかあり得ないだろうっ!!?」
「だったら誰が!? あ……」
と、声を漏らした瞬間に男の首がぼとりと落ちた。その後ろに立っているのは、シンシア=クレインだった。肩まで伸びる
「あぁ。いけませんよ。動いてしまうと、首が落とすときに失敗してしまいますから。痛い思いはしたくはないでしょう?」
一人の人間を殺したというのに、その声は落ち着いていた。まるで今のが、ささやかな日常の一部かのように彼女は話を続ける。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
無残にも殺されてしまった仲間を見てもう一人の男は戦意喪失。完全に戦う気など失せてしまった。後ずさるようにして逃げ道を探すが、もうすでにそこは行き止まり。行く場所などなかった。
「た、頼むっ! なんでもするから助けてくれっ!!」
懇願。
土下座をして命乞いをする。その様子を彼女はニコリと微笑みながら見つめる。
「あなたは同じようにしてきた子ども殺しましたね?」
「そ、それは……」
「それも残虐な方法で。もしかして、因果応報ということをご存知ないのでしょうか?」
「……」
男は黙るしかなかった。王国内で起きていた殺人事件。それをシンシアは追っていた。その事件の悪質さは聞くだけでも不愉快になる程だ。子どもを狙い、その体をバラバラにしてまるでそれがアートと言わんばかりに現場に残す。
その犯人を追い詰めたシンシアは、持っている真っ青な聖剣を相手に向ける。
「あなたは神を信じますか?」
問いかける。聖剣を向けながらそう言葉にするが、相手は何を言っているのか分からない……という顔をしていた。
「はは、ハハハハハハハ!! なんだよ、殺すのか!!? だったら早く殺せよっ! お前たちだって俺たちと同じだろう!? 正義というなの暴力で殺人をしてるだけさっ!!」
相手のその言葉を聞いてシンシアは再び笑みを浮かべる。
「はい。しかし私の正義は決して、独善的なものではありません。これはすべて神の意思なのです」
「はぁ? 頭でもイカれているのか?」
「いいでしょう。あなたには神の姿を見せてあげましょう」
天に掲げる真っ青な聖剣はその剣身に真っ青な光を集めていく。その予備動作を見て、隙があると見抜いた男はシンシアに斬りかかる。
「もらったああああああああああっ!!!」
間違いない必殺の一撃。男はあまりの隙の大きさに笑ってしまう。
「正義を執行いたします──
眩い真っ青な燐光が弾け散るように広がっていくと、それは相手の体内に一気に吸収されていく。その光景を相手はただ驚きの瞳で見つめているだけだった。
「さぁ、あなたは神に許されるのでしょうか?」
と、シンシアが発した瞬間だった。
──鮮血。
相手の体は内側から炸裂した。無慈悲に、無残に、その場には男だったものが散らばっていく。
灼けるような真っ赤な血が広がるこの場に立ち尽くして、シンシアは膝をつくと祈りを捧げる。
「神よ。あぁ、今日も私は正義を執行いたしました。それでは、どうか安らかに眠ってください」
振り向くことなく、彼女は腰に聖剣を差すとまるで何事もなかったかのようにその場から去っていくのだった。
【聖剣──
シンシア=クレインは今日もまた、己が正義を実行した──。
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