僕に胸を押し付けて極限まで甘やかしてくる隣の部屋の朱美さん(28)の秘密は僕だけが知っている

えん@雑記

僕に胸を押し付けて極限まで甘やかしてくる隣の部屋の朱美さん(28)の秘密は僕だけが知っている

 高校生活にも慣れ二年になるころ、僕の生活も落ち着いてきた。

 僕は今は一人暮らしだ。


 僕がまだ小学校に入る前、突然行方不明になった義父は、一週間後にに遠い地方で亡くなったのを発見された。

 それから自称親戚の家をたらい回しにされ、中学を卒業すると僕を差し伸べてくれたのは、当時名も知らないもっと遠い親戚の朱美あけみさんだった。


 朱美さんは今年で二十八歳になる人で、オンボロもとい、大幌おおほろそうの大家さん。

 全部で五室しかない大幌荘でお隣同士、他の部屋には誰も住んでいない。

 忘れ物が無いかを確認して自分の部屋から外に出た。 

 

 さびびた手すりがついた廊下から、朱美さんの後姿が見えた。

 長い黒髪を一つにまとめ、僕を見ると大きく手を振ってくる。

 社会人らしいけど仕事は良く知らない、とりあえず晴れてる日は仕事は無いみたいだ。


「たっくんーこっちこっち」


 大声で叫ぶので僕も足早に階段を降りた。


「お、おはようございます」

「今日もおはよう言えたえらいねー。おいでーハグして上げる」

「いえ、いいです」

「たっ、たっくんに嫌われた……ちゃんと漫画通りにしてるのに」


 朱美さんが地面に両腕をつくと、その大きな胸がぼよんぼよん揺れる。

 漫画と現実を混ぜたらダメでしょと思うのは僕だけなのだろうか。

 朱美さんは優しい、それは度を越すぐらいに。

 冗談なのか本気なのか僕にはわからない、ここを追い出されると行く場所が無いので僕も変な誘いには乗らないと決めている。


 乗った後で冗談だったのにと言われたら困るからだ。


 立ち上がった朱美さんがポケットから封筒を出す。 


「あ、そうだたっくん、これ今月分のお小遣いね、本当に足りなくなったら言ってね。朱美おねーちゃんからも渡そうか?」

「ありがとうございます、大丈夫ですから財布をしまってくださいっ」

「元はたっくんのお金よ。それとお弁当」

「ありがとうございます」


 高校生が一人暮らすにもお金がかかる。

 お金はどうしているのかと思えば、義父の保険金だ。

 僕を引き取り、たらい回しにした親戚達にかなり使われたけど、まだいくらかは残っており、成人するぐらいまでは大丈夫だろうという所だ。


 一度に使わないようにと朱美さんが管理している。そこに不正はなく毎月三回通帳を僕に見せてくれるし安心だ。

 なのに、朱美さんは僕にお金を押し付けようとする。

 

 朱美さんから毎月のお小遣いを貰うと僕は学校へと向かった。

 昼休憩になると僕もクラスメイトと食事を取る。


 高校から一緒のクラスになった児島こじま

 児島に言わせると、お前は甘えている。いや代わりに甘えさせてくれと色々言われたりもしたけど、もう慣れた。


 クラスでの僕の立ち居地は、不幸な境遇にあったけど美人大家さんと一つ屋根の下で暮らす、大人の階段を三段飛ばしした男と噂されていた。

 

 全く持って事実無根だ。


 一つ屋根の下はアパートだし、部屋だって別。

 大人の階段は登りたくないわけじゃないけど、子供の僕が朱美さんに迷惑掛けるべきじゃない。

 せめて大人になってから……いや、何を考えているんだろう。


「たくっ! おいっ」

「なに?」

「いや、こないだ朱美さんに似た人見たぞって話」

「へえ、どこで?」

「東山のキャンプ場」

「ああ、君が週末行った場所ね、雨降って大変だったらしいね」

「おう、折角のソロキャンが台無しよ、最初は幽霊かと思ったんだけどな、あの胸は朱美さんだわ」


 周りからおっぱい魔人と呼ばれている児島らしい。

 でも、そんな場所に朱美さんがいるとも思えない。


「なんで雨の日に郊外のキャンプ場に朱美さんがいるって……あっ。それ最後の卵焼きじゃないかっ!」

「うむうむ、本日も美味であった」


 空になった僕の弁当箱を眺めて肩を落とす。


「しっかし、たくも明るくなったよな」

「そう? 僕はいま凄い悲しいけど」

「一年の頃は暗かったぞ?」


 確かに一人暮らしし始めた頃は暗かったかもしれない。

 その度に朱美さんが僕をハグしてきた、恥ずかしさもあり無理に明るくするようになったら元気になったというか、この事は児島には言えない。


「努力したんだよ、それよりも卵焼き……ラーメンで手を打つ」

「ラーメンか……、そうだ帰りに美味しいケーキ奢ってやるから。

 一つ一つが大きくてな、朱美さんにお土産として持って行ったらどうだ? 世話になってるんだろ?」


 確かに何時も世話になりっぱなしだ。

 毎日お弁当も作ってくれるし、時には夕御飯も作ってくれる。


「わかった。でもお土産のケーキは僕が買う」


 授業も終わり僕は児島の勧めで遠いケーキ屋へと足を運ぶ。


 うん、どれもこれもサイズが大きい。


 女性店員さんの胸が。


「いや、うまそうだな」


 殴ろうと思ったけど我慢する。

 美味しいのは本当らしく壁には取材されましたなどPOPがあるからだ。


 試食をどうぞと薦められて食べた、どれもこれも甘い。

 残念な事に朱美さんの好みがわからないので、適当に買っていく。

 

 以前もお礼にと和菓子と洋菓子を持っていった事があったけど、たっくんからのプレゼントなら泥でも美味しいと引く事を言っていたので、本当にこういう時に困る。


 児島と別れると僕は少し急ぎ足で大幌荘へ帰る事にした。

 空を見上げると雲が厚い、今にも雨が降り出しそうな天気へと変わっていく。

 雨が降ると洗濯物が困る。

 

 そういえば最初の頃は朱美さんが僕の洗濯物を一緒に洗ってくれたっけ。

 そして、偶然僕の洗濯物に朱美さんの下着が紛れ込んでいた。

 

 あの人は僕に何をさせたいんだ……。


 僕が大幌荘の前に着くと、朱美さんは二階から降りてくる所だ。


「たっくんお帰りなさいー」

「ただいまです」


 小走りに階段を降りてくると僕の目の前で両手を広げ何かを待っている。


「ええっと……」

「お帰りのハグ!」

「お土産です」


 僕はお土産のケーキを朱美さんへ手渡す。

 ケーキを受け取る朱美さんは複雑な表情を見せた。


「うう……通産438日目のハグチャレンジも失敗。あとケーキは嬉しいけどたっくん自身の為に使ってね」

「友達に付き合ってケーキ屋に行っただけなので、手ぶらで帰るわけも」

「ああ、あの子ねええっと……新島君だっけ」

「児島です、所でその格好は?」


 朱美さんにしては珍しく黒い傘を持っているからだ。


「ああ、これね。うんお仕事で、たっくん一人でも戸締りするのよ? 夜は遊びに行かない。晩御飯はたっくんの家のテーブルに置いておいたし、ええっと後は後は……」

「僕の事は大丈夫ですから、行ってらっしゃい」


 僕は朱美さんを大幌荘から送り出す。

 錆びた手すりを使い階段を登りはじめるとポツポツと雨が降ってきた。

 

 部屋へ入るとテーブルには小さな鍋が置いてあり、蓋をあけるとカレーが入っている。

 キッチンで温めなおすと早めの夕御飯にした。


 TVを付けてカレーを食べる。

 特にTVは見ているわけでもなく、音を聞いているともいえない。

 外の雨音が強いから激しくなり大幌荘を叩いている。

 

 雨……。

 最後に養父を見た日も雨が降っていた……。

 食べる物もなく、小さかった僕は部屋で座り込んでいた。

 義父と義父の横にいた若い女性が僕の頭を叩く。

 

 僕が泣いても叫んでもあちこち叩かれ蹴られた。

 それは何度も何度も繰り返されて、僕は雨の中裸足で逃げ出した。大人たちは僕が近づくと逃げていく、一人だけ逃げない人が居た。


「どうしたの?」

「かえりたくない……」

「両親がまってるよ」

「ほんとうのちちおやじゃない……すぐにぼくをなぐる」

「どうしたいの?」

「…………………………」

「そっか、でもお金もってないよね? じゃ何か約束しようか」

 

 暖かい料理を食べさせてもらって、暖かい布団で眠らさせて貰って、何日か後に帰りたくない家へと帰してくれた。

 でも、なぜか家には誰もいなく、その日、僕は一人になった。


 大きな雷が鳴った。


 一度中学を卒業後、僕を助けてくれた人を探した事もあったけど、見つかる事は無かった。今では性別さえも思い出せない。

 

 二度目の雷が聞こえた。廊下で大きな音がした。

 思わず体がビクっとなった。


「落雷……?」


 それは困る。

 朱美さんが帰ってきて大幌荘が燃えてましたとかは洒落にならない。

 最悪の事を考えてスマホを握り締めると僕は雨足が強い廊下へ顔を出した。

 廊下にはずぶぬれになった朱美さんが横たわっている。

 僕と視線が合うと、変な所を見られたという顔で見返している。


「たっくん、まだ起きていたの? 夜更かしはだめだよー」


 何時もと同じ口調で言う朱美さんの顔は雨で濡れている。

 そんな顔よりも僕は朱美さんの下半身を見た。

 太ももの部分から赤黒い液体が流れている。


「血……ですよね」


 僕は握り締めていた携帯で救急車を呼ぼうとした。

 手に衝撃が走り、気づけばスマホは壊れ、スマホだった物は一階部分に落ちていく。

 朱美さんを見ると手には玩具のような銃が握られており、悲しそうな顔で僕を見ている。


「たっくーんー」

「な、なんでしょう……」

「救急車は大丈夫だから、じゃぁ風邪引く前に寝るのよ?」


 銃を胸の谷間へと押し込んだ。

 それからよろよろと立ち上がると、朱美さんは隣の部屋に入っていこうとした。

 やっぱり怪我をしている、転びそうになる朱美さんを僕は横から抑えた。


「たっくんに抱きつかれたー、通算439回目で成功。これで元気になれる」

「冗談いう元気はあるんですね」

「うう、たっくんの顔が怖いー」

「ええっと部屋に入ります。その傷をなんとかしないと」

「一人でも平気なのに……」


 初めて朱美さんの部屋へと入った。

 間取りは僕の部屋と当然同じだ。

 朱美さんは足を引きずると濡れた体のままベッドへと座る。いつの間にかナイフを取り出すと僕の目の前でズボンを切り裂いた。


 大きな傷があり朱美さんの手には消毒薬が握られている。

 傷口に豪快にかけると塗り薬をぬり、衣服でも縫うように傷口を閉じた。

 最後に湿布みたいの張ると包帯を巻いていた。


 全部終わったのか、濡れた衣服を脱いでいく。

 

「たっくんのえっちー」


 その言葉で僕ははっとする。

 朱美さんを見すぎていた、今の格好は下着しかつけてない。

 それもブラの部分を外そうとしている。


「あ、たっくんそこの引き出し開けて?」


 言われるままに指定された引き出しを開けた。

 複数の拳銃けんじゅうや拳銃の弾が入っている、本物を見た事はないがモデルガンにも見えない。


「こ、ここから何を探せば……」

「避妊具、確かそこに一緒に入れたような。もちろんたっくんが使いたくないって言えば、私は別にいいのよ?」

「あのですね……」


 振り返って文句を言いたいけど、直ぐには振り返れない。

 そっと引き出しを閉めると、僕は勇気を振り絞って振り向いた。

 既に衣服は着ている。また僕をからかったんだろう。


 朱美さんはいつもの笑みを浮かべながらDVDを操作し始めている。

 何をしているのかと思ったら、僕が見たらだめだろうというDVDを再生しようとしていた。

 思わず、DVDデッキのコンセントを根元から抜く。


「うう、気分を盛り上げようと思って……」

「あのですね…………あの日僕を助けてくれたのって朱美さんで、アレを殺してくれたのも朱美さんですか……?」


 アレとは義父のことだ。


「さすがたっくん! やっと、そこまで思い出した。

 徐々に徐々にと思ったんだけどこの格好見られたしもういいかなって、じゃないとたっくん永久に思い出そうとしないし」


 記憶がうっすらと蘇ってくる。

 

 義父から逃げ出した小さい僕は、助けを求めて大人を探した。

 大人は皆逃げていく、一人の大人が僕を助けてくれた。

 子供から見たら皆大人にみえる。

 その人は僕のいう事を聞いてくれてどうしたいの? と問いかけてくれた。

 

 帰りたくなかった。

 義父の所には帰りたくなかった、母の首を絞めて殺した義父なんていなくなれと話した。


 その大人は願いを叶えてくれるといってくれた。でも代価が欲しいとも。

 代価なんて知らない僕は、大きくなったらおねーさんをお嫁さんにすると約束した。

 その大人は目を大きく開いて僕を窒息しそうなまで抱きしめてくれた。



「その傷も、仕事ですよね……?」


 僕が思っている朱美さんの仕事。


「仕事は成功したんだんだよ、たっくん褒めて褒めて」

「ええっと、偉いですね」

「感情がこもってないよう……たっくんは人殺しは嫌いかぁ」


 朱美さんの言葉で現実に戻されていく。


「嫌いとかじゃなくて……」

「好き?」

「いえ」

「うおおおおおお、朱美お姉ちゃんショック死確定だよお」

「ち、違うんです殺しが好きってわけじゃなくてですね、朱美さんはその綺麗な人と思っていますし、好きです……」


 僕の言葉聞いた朱美さんは、僕の腕を引っ張った。

 力強く僕は朱美さんの上にかぶさるようにベッドまで引っ張られる。


「たっくんが襲ってくるー」

「どう見ても僕が襲われてるんですけど……あの、正体がばれると不味いとかないんですか」

「不味いよ、組織からよく正体知りそうな奴は殺せって命令くるよ」

「だったら殺してください。朱美さんの重荷になるのでしたら。

 あの時に僕を助けてくれた事も問題があったんですよね」


 僕は朱美さんから離れると、さっきの引き出しから銃と弾を取り出して朱美さんへと手渡した。


「いいの?」

「はい、朱美さんが…………その好きだから……重荷になりたくないんです」


 それに、人殺しを頼んだのも僕だ。

 回りまわる責任は取らないといけないと思う。


「やった! たっくんからプロポーズ貰えた! 式は高校卒業してからのほうがいいわよね?」


 朱美さんが喜んでいる。

 結婚? え、いやなんで?


「なんでいきなりそうなるんですかっ」

「だって、たっくんだって本当は死にたくないよね?」

「まぁそれは……そうです。でも朱美さんが組織でしたっけ裏切る事になるんじゃ」

「でも、私に殺されてもいいんだよね? 私はたっくんを殺す権利を得たから、それを使う時は私の自由でしょ。でねでね、たっくんは私に何時殺されても言いようにずーっと一緒にいないと。だから結婚よ」

「え、いや、話が飛びすぎて」


 突然朱美さんの顔からいつもの笑みが消えた。

 これが真顔という奴なのか。


「たっくん……お姉ちゃんもう二十八歳なんだ。後がないのよ……たっくんが結婚してくれるっていう約束だけを楽しみにして、生きて来たのに……やっと引き取れるように手配終わったら小さい時の約束忘れてるし……」


 怖い。

 それでもなんとか言葉を振り絞る。


「え、いや、もてると思いますよ? お見合いとかは」

「お仕事なにしてるんですか? って聞かれて殺し屋ですって言える?」

「いえませんね」

「大丈夫、もっともっと甘えさせてあげるからね。お姉ちゃん一生養ってあげる。

 重荷なんて全然ない。あ、それとウチの組織は悪人しか殺さないし、アレはたっくんが知らないだけで悪人過ぎたのよ。だからノーカンでたっくんが思いつめる事もない。

 前々から組織のマークに入っていたし、それに、たっくんは私が保護した時から除外されてるわよ。

 一般人で秘密を知るのはたっくんだけだね。でも他の子には喋ったらだめだよ? その子を殺さないといけないし」


 どこで選択肢を間違えたのか……脳の処理が追いつかない。

 それにさらっと怖い事も追加してくる。

 とりあえず、僕に胸を押し付けて極限まで甘やかしてくる隣の部屋の朱美さんの秘密は僕だけが知っている事となった。

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