生後62日目
自分の短所を嘆く。
それはなんとも馬鹿らしいことだ。
嘆いたってその短所は治らないし、なんならそれが本当に短所かなんてアヤシイものである。
例えば記憶力がないことを短所と仮定する。確かにそれは多くのデメリットを含む特徴ではある。それにより約束や女の誕生日を忘れて怒られたり、散々負け越したことも忘れてまたパチンコに行って更に金を失うなどの不幸に見舞われることもあるだろう。
しかし、逆に考えて欲しい。
果たしてデメリットのない人間的特徴なんてあるのだろうか?
例えば"イケメン"であることは一般的に長所であるとされているがデメリットがないわけではない。意図しない所で勝手に女に惚れられ意図しない所で傷つかれる、同性に妬まれる、マトモな人間であると誤解されるなど、デメリットは簡単に思いつく。
ならば、イケメンは長所ではないのかと聞かれれば、決してそうとは言えないだろう。
なぜならイケメンには『女にモテる』という多大なメリットがあるからだ。
そしてまた『記憶力がない』ということに話を戻すが、これにも実際メリットはある。
自分がイケメンではないことを忘れて女に惚れることが出来る、同じ本を何度も楽しく読めるなど、少し考えれば普通に出てくるものである。
ようはいかに自分が輝けるステージに立つかどうかが大切。
記憶力がないのならばパチンコに行かず女に惚れて本を読めばいいし、足が臭いのなら女の前で靴を脱がず、男と喧嘩する時は相手の顔面に3日履き続けた靴下を押し付ければいいのだ。
「……なぁ、まじで行くの?」
「あたり前だ、男に二言はねぇ」
俺は今、ジョセフの胸に抱かれ夜の街を移動している。
「……俺、そーいうとこ初めてなんだけど」
「ビビってんじゃねぇ、大体もとはと言えばお前のねーちゃんが悪ぃんだ、付き合えよ?」
「なんで?」
怪訝そうな視線をよこすジョセフにピシャリと言ってやる。
「バカヤロウ、お前のねーちゃんが俺にやたらパイオツを押し付けっから、パイオツ触りたくなったんだ!」
「えー……、そ、……それねえちゃんのせいなのかなぁ」
俺は今、ジョセフと共にオッパブに向かっている。
ジョセフの姉であるレナによってパイオツの魔力に魅せられてしまった俺は、頭の中からパイオツ以外の感情が一切抜け落ちてしまった。
ついでに今俺は赤ん坊である。
……そう、俺は気づいてしまったのだ。
赤ん坊なら女の子のパイオツに顔をうずめ放題。
しかも初対面の女が俺の顔をパイオツに埋もれさせながらカワイーとまで言ってくれるであろうことに。
そんな重大な事に、どうして今まで気付かなかったのかが不思議なくらいだ。
俺が今まで人生の足枷でしかないと思っていた事象、赤ん坊であること。
それがこんなにもアドバンテージになるステージがあるなんて。
それはオッパブ。
どうやらこの世界にも普通にあるらしい。
生前俺は、そういったたぐいの店は少し苦手だった。
自分に好意を持っていない女にセクハラする趣味はない。
それに、無理やり喜んでいるフリをしてもらっているのも雰囲気でわかってしまう。
世の、ある程度察しのいいタイプの男性には助言しておきたい。
『風俗に行く金があるならスナックかガールズバーに行け!』
それも常連客と店の女の子が友達のように仲良くしているお店がオススメだ。
女の子自身が心から楽しんで一緒に酒を飲んでくれる。
女の子に自分と関わる事を、楽しんでもらう。
それは本当はセックスなんかより何倍も心地の良い魔法のコミュニケーションだ。
察しのいいアンタなら、きっとそんな素敵な"魔法"のかかったお店をみつけることが出来るだろう。
「なぁ、メッチャ緊張すんだけど」
しかし、赤ん坊の時代をとっくに終えちまったアンタらには悪いが、今の俺ならオッパブでだってその“魔法”を存分に味わえるのだ。
女の子のパイオツに顔面を力いっぱいダイブさせながら、女の子達はそれを『きゃーカワイー♡』とばかり楽しんでくれる。
これはもう魔法どころか神の力と言ってしまっても差し支えはないだろう。
今の俺には、オッパブこそがまさしく自分を最も輝かせられるステージであると言えよう。
ジョセフには悪いが今更引く気はない。
「気にするな、いけ」
店の前に到着したジョセフがおどおどとした視線を向けてくる。
「ま、まぁいいや、クナイちゃん慣れてるみたいだし、困ったら頼むよ?」
「いや、店に入ったあとの俺は、女の子に『カワイー♡』と言ってもらうためにちょっと喋れる小さな赤ちゃんモードに入る。ややこしいことはお前に任せた! ……頑張れモヒカン!」
「…………えぇ」
大人に対してワガママ言いたい放題なのもまた、赤ん坊であることのアドバンテージなのである。
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