『アルゲの町』【後編】
「よし、じゃあ早速『厄石』を取りに行くか! オリバーの仮面のためにもな」
「そうね。あなたの体質もかなり厄介そう」
「あはは……」
思わず仮面に触れる。
これまでなかったものなので、視界に問題はないとはいえやはり違和感は拭えない。
ゴリッドはそんなオリバーの姿を見て髭をなぞる。
「そういやぁ、坊主はなんで仮面なんか着けてんだ? そんなもんない方が男前なんじゃあねぇか?」
「あー、見てもらった方が早いだろう。オリバー、見せてやれ」
「え、大丈夫ですか?」
「私は魔法使いだし、ゴリッドさんはドワーフだから人間よりも魔力耐性が高いはずよ。大丈夫大丈夫」
「んん? どういう事だ?」
「…………では……」
サリーザは初めて会った時暗がりで距離もあった。
それを差し引いても魔力耐性が高いので、オリバーの『魅了』や『誘惑』は通じないだろう、との事。
そういう事なら、と頷いて仮面を外す。
「うっ! こ、こいつぁ……!」
「う、『うっ!』!?」
腕で顔を隠すという反応。
さすがにその反応は予想していなかったのでショックである。
後退りまでするゴリッドに、慌てて仮面を着け直す。
「……す、すまんな。想像以上で……うろたえちまった」
「そ、そんなにですか……?」
まさかそこまでひどいとは。
しゅーん、と項垂れると、ゴリッドは両手を振って「違う違う、そうじゃねぇ」と弁解してくる。
「お前さん、もしかしてなんか称号持ちなんじゃねえのか? もう顔面から魔力が出てたぞ」
「が、顔面から魔力……!?」
「なによそれ、聞いた事ないわよ」
「ああ、普通じゃあねぇ。もはや聖霊の加護のレベルだ。称号持ちだとしてもちょっとおかしいレベルだが……」
「ちょっとおかしい……」
三回目のショック。
ガーン、と背後に効果音を背負いながらますます項垂れる。
悪化している。どう考えても、悪化の一途を辿っている。
神様、加護強すぎです、と心の中で呟くが、届くはずもないだろう。
「そういえば称号持ちだと言ってたな?」
「…………」
ロイドには称号持ちである事をすでに話している。
それを言われると、もういっそ彼らに話して色々助言をもらった方がいいかもしれない。
「…………しょ、うねん……プラス、3……」
「ん? なんて?」
「だ、だから……あの……多分、ですね……あのー……う、生まれつき、称号であの……っ、【世界一の美少年+++】っていうのがあるんです!」
「「「……せ、世界一の、美少年、プラスプラスプラス……?」」」
次に流れるのは沈黙。
ああ、やはりこうなった、と頭を抱える。
こうなる気はしていたのだ、普通に聞けば「は?」となるのは間違いない。
なにしろ持っている自分自身ですら「は?」なのだ。
「プラスが三つもついてるのか?」
「はい」
ロイドの確認に目を逸らした。
無言で見つめ合うロイドとサリーザ。
なんだその反応は。なんだその見つめ合いは。
「……プラスが三つ……! そ、そうか、そりゃあもう間違いなく聖霊の加護だな」
「? 聖霊の加護?」
「あ、ああ、プラスはそれぞれ意味があると聞いた事がある。ステータスを開いて、プラスを押してみろ」
「は、はい……」
これタップ出来たのか、と意外に思いつつ、ステータス、称号一覧を開く。
そして【世界一の美少年+++】の一番左をタップしてみた。
『カリスマ』と表示される。
「え?
「なんで出たんだ?」
「カ、『カリスマ』……と」
「なるほどな。ならそれらは『カリスマ』が持つ作用の一部にすぎん」
「んなっ!」
なんという事でしょう。
最近悩まされつつあったそれらが、作用の一部。
膝から崩れ落ちた。
「お、おい大丈夫か!?」
「そんな……どうなるんですかこれ……」
「成長すれば間違いなく効果は強くなるだろう。抑えたいのなら厄呪魔具かなんかで仮面を作った方がいいな。ああ、なるほど、それで坊主が一緒に来たのか! よし、分かった! 困ってるなら愚痴を聞いてくれた礼におれが厄呪魔具の仮面を作ってやろう!」
「本当ですか!」
ドワーフの手作り厄呪魔具。
……本来厄呪魔具は扱うのに資格が必要。
だが、オリバーは身体的な事情なので特別許可が下りるだろう、との事。
「その申請は『ミレオスの町』のギルドでしてもらう事になるだろうけどな」
「そうなんですね、分かりました」
「さて、話もまとまったし本題に入りましょ。……? なんかちょっと言葉が変ね?」
「まあ、細けぇ事は気にすんなよサリーザ。で? 肝心の『厄石』はどこにあるんだい?」
「おう、場所は鉱山の中だ。…………」
ゴリッドが急に黙り込んで俯いてしまう。
その様子にロイドたちと顔を見合わせる。
「……あ、もしかして、さっき走って行った子どもとなにか関係あるのかしら?」
さっき走って行った子ども……。
オリバーは顔が歪むのを必死に耐える。
そう、ただ同姓同名なだけではないか。
「おう……あの子は『ミレオスの町』から口減らしでこの町に来た子だ。もっとこの町にまっとうな儲け方をして欲しいっつってな……。だが今『厄石』のせいで鉱山には入れねぇ。入れたとしても、今掘ってる坑道にゃあ毒ガスが溜まっててな……抜けるまで手出し出来ねぇんだよ」
「なんと……」
顎をさするロイド。
つまり、今この『アルゲの町』は、かなり追い詰められている。
その事に何人が気づいているかは分からないが、少なくともその少年やゴリッドは気づいているのだ。
このままでは『ミレオスの町』にこの町が潰される、と。
「……村長は、体調が悪いんです、よね」
「ああ……」
「オリバー、まずは『厄石』を取り除くぞ。厄気を放っているならあまり時間がない」
「! は、はい、そうですね」
危険なAランクレッドの魔物になってしまう前に。
「鉱山は『ウローズ山脈』沿いの北だ。この町の北の出入り口から出ればすぐに見えてくる。村長にはお前らが来た事を伝えておくから、一刻も早く厄気を放つ『厄石』を回収してくれ。鍵がかかってるが冒険者なら飛び越えられるだろう? 頼んだぜ」
「鍵くれねぇのかよ」
「…………」
「なんでそこで黙るの?」
「いいから早く行け!」
「「「?」」」
ゴリッドに無理やり押し出されるように町を出る。
北側の出入り口から出れば、すぐに見えると言われたがなるほど……町のすぐそばに柵が並んでいた。
看板も立っており、『この先鉱山』『坑道あり注意』『落石注意』などの文字が並んでいる。
「え?」
そして、その事に最初に気がついたのはオリバーだった。
柵と扉を塞いでいた施錠は解けている。
手に取ると壊した痕跡はなく、普通に鍵で開けたような。
「…………嫌な予感しかしないんですが」
「お前もか? 俺もだ」
「そうね。まあ……完全にこのパターンはアレよね?」
満場一致。
頭が痛くなる。
間違いなくあの出会い頭駆け出して行った少年、タックが鍵を持ち出したのだ。
そしてそうなると間違いなく……。
「はあ、厄介な事になる前に急ぐか」
「そうね」
「異議ありません」
なんにしても鍵が開いているなら話は早い。
『厄石』は坑道の入り口付近。
そして案の定、坑道入り口には禍々しい黒い石とその近くに倒れる一人の少年。
「そんな気はしてた」
と呟いたのはロイドである。
うんうん、と頷くサリーザとオリバー。
彼らのように冒険者として魔力耐性があるのならいざ知らず、近づかずとも体調を崩す者が現れる量の厄気が溢れている状態の『厄石』の近くを通ろうとするなんて、倒れるのも無理はない。
「仕方ない。オリバーあの子を頼む。この中で一番治癒が得意なのはお前だ」
「分かりました」
「悪いなぁ、『厄石』の取り扱い方を教えるために来たのに」
「いえ、人命優先は当然の判断です」
オリバー自身、厄気が満ちているのにあまり気にならない。
おそらくこれが魔力耐性の効果。
スタスタと真横を通り過ぎて倒れた少年のところへ近づき、抱き上げて手をかざす。
「キュア」
ぐったりとする少年を抱え、ジャンプして『厄石』から離れたところで『
少し高い場所なので、そこからロイドたちが『厄石』を取り除くところを眺めた。
直接携われずとも、見学する事も十分勉強になる。
(それにしても、まさかロックバルーンの鱗を加工した箱で『厄石』を隔離するなんて……)
石系の魔物を箱に加工して、そのなかに入れる……というのは習っていたが、あの大量発生していたロックバルーンでもいけるとは思わなかった。
ロイドが例の事件の後始末をしながら、武具屋のオヤジに頼んでおいたらしい。
『浮遊』の魔法でサリーザが『厄石』を浮かせ、浮いたところにロックバルーンの鱗を加工して作った石箱を滑り込ませる。
『浮遊』を解けば『厄石』は箱の中。
即座に蓋を閉めれば回収完了だ。
「よし。あとは充満している厄気を『エリアキュア』で浄化すれば終わりだな」
「ええ。オリバー、頼めるかしら?」
「分かりました」
ロイドたちのところへと降りる最中、オリバーの鼻をかすめる硫黄の匂い。
そういえば毒ガスが出ているとゴリッドが言っていた。
(でも、俺のイメージだと硫黄といえば温泉だな〜)
呑気にそんな事を考えつつ、サリーザに少年を預けて『厄石』のあった場所に立つ。
手のひらを地面に向けて、「エリアキュア」と唱えた。
瞬時に立ち込めていた厄気が浄化されて消えていく。
「よし、さすがだな」
「厄気でまだ良かったですね。瘴気になっているとキュアが効かなくなるって習いました」
「ああ。瘴気の消し方は──サリーザ、なんだっけ?」
「んもう、本当に忘れっぽいわねぇ! 瘴気は聖魔法で消すのよ!」
「そーだったそーだった」
「ほんと、ロイドはダメなんだからー」
と言いつつ頼られて嬉しそうなサリーザ。
この下り、日に三回は必ず見るな……と微笑ましく眺めるのだった。
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