影と私の禅問答

文屋旅人

影と私の禅問答

 或る日、さんさんと日の光が照っている時。

「よう、元気か」

 影が話しかけてきました。

「元気ですが、ふむなるほど昨今は影が話しかける時代になったのですか」

 私は内心おっかなびっくりしながら影に返答しました。

「ああ、最近は影だって話しかけるいい時代になったのでR」

 私の影はエラく軽い。昭和軽薄文のように話し出します。

「なるほど、ところでなぜ私の影はいきなり私に話しかけたのですか?」

 すると、影はクツクツと笑って言うのです。

「いや何、少し決めたいことがあるのでな。俺だっていーかげん決めておきたいんだ」

 その笑いには野卑なところがない、どことなく爽やかな笑いでした。何というのでしょうか、自分の影の性根が割と奇麗であろうことに安堵しました。

「で、君は何を決めたいのですか?」

 そう問いかけると、影はえへんと胸を張る様にして言うのです。

「果たして俺が主なのかお前が主なのか、それを決めないとややこしくてしょうがないのでR」

「いや、影の動きは私の動きだから主は私でしょう」

 サクッと答えれてしまいます。

 すると、いきなり影は目を丸くしました。

「そうそれな」

 影は手を打ち、私にまくしたてる様に言いました。

「俺からすると俺が動くからお前が動くのでRが、しかしお前はお前が動くから俺が動くと思っているのでR。これは何ともケシカラン事態ではないか?」

 なるほど、どうやら影からすると影が動いているから私が動いているという認識らしいです。なるほど、確かにこれはケシカラン。

「ふむ、これは主従をしっかり決めなくてはいけませんね」

 私は拳を握ります。

「ふむ、そういうコトだ」

 影も拳を握りました。

 こうして、私と影は三日三晩殴り合いました。

 結果として、気が付いたら私はよくわからない状態になったのです。

 影と私がドロドロになって、三次元と二次元の狭間に突っかかったような状態になりました。

 わぁどうしよう、などとのーてんきに思っていると、とことこと私と同じような人、即ち影と体が混ざったような人が来ました。

「あらあら、貴方も影と喧嘩したの?」

 その人が言った言葉に、私はうなずきました。

「そう、それなら影と和解しなさいな。私は影を殴り殺してしまったからもう抜け出れないけど、貴方の影は生きてるわ」

「ほう、和解とはどのようにするのですか?」

 いきなり影と和解しろなんて言われても、まるで意味が分かりません。

 すると、女性はからからと笑いました。

「影を許すといいなさいな」

 それに従い。

「影を許す」

 と言いました。














 結局、私はふっと起きて、もとに戻ってました。どうやら公園の日の光に充てられて眠っていたようです。

「おーい、影やーい」

 なんともなしに呼び掛けてみましたが、答えは同然ありませんでした。

 全く、何とも奇妙奇怪な夢なこと。



          了

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影と私の禅問答 文屋旅人 @Tabito-Funnya

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