27
黒うさぎ
第1話 27
いったい、いつからここにいるのだろう。
既に時の感覚などなくしてしまった。
オイルと生臭い臭いで満ちたこの世界が闇に閉ざされて久しい。
体に触れる硬い金属の感覚だけが、今自分がここにいるということを認識させてくれた。
孤独を紛らわせるために肩身を寄せあった同胞たちが動くことはもうない。
昔は生きることに必死だった。
どこまでも続いている広い世界を休むことなく動き回っていた。
朝も夜も関係なく、ただただ生きることだけを考えていた。
けっして余裕のある生活ではなかったが、しかしそれでも自由だった。
己を縛るものなど、自身の命くらいなものだった。
仲間と共に繰り返す、かわることのない平和な日々。
そんな日常がこの身の朽ち果てるその日まで、ずっと続くのだと思っていた。
誰もその未来を疑っていなかった。
あの日までは。
それは突然の出来事だった。
突如現れた何者かに仲間もろとも捕らえられてしまったのだ。
その手際は熟練したもので、これが初めてではないことは明らかだった。
なにが起きたのか理解すらできない我々に逃げ出す暇などどこにもなかった。
捕らえられた我々を襲ったのは、これまで体験したことのない身を刺すような寒さと窒息感だった。
みるみるうちに体表を覆う白い衣。
最後に見たのは色を失っていく仲間の瞳だった。
気がついたときにはオイルにまみれ、生臭い臭いのする暗闇の世界にいた。
動くこともできず、ただただ時が過ぎるのを待つ。
そして永遠に続くと思われたこの刺激のない世界にもついに終わりの時が訪れた。
パキッ
空が割れる音がした。
キリキリと不快な金属音を響かせながら漆黒の空が剥がれ、少しずつ暗黒の世界に光が射し始める。
月が満ちるように、輝く円を描いた空が広がっていく。
そして、赤黒い穴に飲み込まれた。
27 黒うさぎ @KuroUsagi4455
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます