第27話

 椅子に背中を預けて祥介は天井を見つめながら言った。


「今のソーサルは何もしてないじゃないですか。それなのに」


 ソーサルのナンバーは受け継がれるものだ。

 先代が死ぬとまた違う誰かが選ばれ、新たなソーサルナンバーが継がれていく。

 何百年もの間、かつてソーサルは人々を支配していきた歴史がある。教科書に載っている人物がソーサルナンバーだったなんてことは珍しい話ではなかった。

 

 ソーサルナンバーによる暴力や圧政、理不尽に虐げられた憎しみが今のリベラシオンが持つ憎悪の根源なのだ。それは世代を超えて、脈々と受け継がれてきたのである。ソーサルの力が受け継がれるように人々の負の感情も引き継がれてきたのだ。


「複雑なのは、ソーサルの継承が血統とは無縁だというところよね」


 そう言いながら、真澄はティーカップに入れた紅茶とお菓子を祥介の前に置く。ほのかな甘い匂いが祥介の鼻をくすぐった。


 真澄の言うとおりだった。

 ソーサルは血統と関係なく完全なランダム。しかも、力だけが継承されるシステムなのだ。

 無論、先代の記憶を知ることは出来ない。高度に文明が発達した現代ともなれば力で押しつけようとするソーサルナンバーがいるわけなく、ほとんどのソーサルは雲隠れしているのが現状だった。運良く自分も他人も誰にも気付かれずにいたソーサルがいた可能性もあった。

 椅子に座り、真澄は紅茶を見つめながら言った。


「他人からすれば、顔も知らないずっと前の祖先の恨みを晴らそうっていうのは無理矢理過ぎるって思うけど、彼らからすれば生きる糧なのよ。強い憎悪は時として血を通うのかもしれない。実際、復讐を果たすために育てられたっていう霊術師を見たことがあるけど、あの沙汰は……現代のソーサルが関係無いって割り切れないと思う」


 真澄は苦い記憶を塞ぐようにして、紅茶を一口飲んだ。

 真澄は祥介と違ってタウゼントの任務に派遣されることがしばしばあるが祥介は未だに、本物の霊術師は見たことがなかった。これまで相対してきたのは、巻き込まれ型の利用された霊術師だけである。


「やっぱり蚊帳の外の考え方なんですかね、そんな争いを止めたいって気持ちは」


「蚊帳の外だからこそ、言えることもあるわよ」


 真澄は一際明るい声で続ける。


「でも、めずらしいね」


「何がですか」


「ソーサルとはいえ、祥くんがそんなに綾奈ちゃんを気にするとは思わなかったわ。他人に対してあまり執着しないじゃない。慣れてないって言ったほうがいいか」


「それは、まあ……」 

 

 祥介は、誤魔化すように紅茶をすすった。

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