第23話

「もう校内の誰もが知ってるみたいですね」


 祥介が言うと、真澄は困り顔で元の席に戻ってくる。


「弟とは言った覚えないんだけどねぇ」


 清賴の中等部に転校してきた当初、祥介は真澄と登下校をしていた。同じマンションで食事も一緒のため、それが自然の流れだったのだが清賴学園では天地がひっくり返るような大事件だったらしい。

 当初、近所の幼なじみだと真澄は説明していたのだが、どこで歪曲したのかいつの間にか祥介は弟という立ち位置にされてしまっていたのだ。

 弟分と思ってる人が大半だと思うが人によって本当に血の繋がった弟だと信じている人もいるとのこと。

 おそらく、存在が噂されている真澄のファンクラブの連中だろう。真澄の恋人の可能性を排除したい一心が強く伝わってきた。


「それにしても、真澄さんの人望はもう恐ろしいですね」


 女性ならばストーカーやらを心配になりそうだが、この人に関しては杞憂に終わる。むしろ、弟への嫉妬心が祥介の背中にブスリと来る可能性のほうが高い気がした。自分で考えて身震いした。


「やっぱり雪凪の家でもこう特別待遇なんですよね。次期頭首なわけだし」


「そんなことないわよ。普通よ、普通」


「家に帰れば頭を垂れた従者が作る道を歩いたり」


「ないない。祥くん、ドラマの見過ぎよ」


 たとえが可笑しかったのか、真澄は吹き出しながら否定した。

 これまで雪凪家の関係者と祥介は会ったことがなかったので、次期当主としての真澄の顔は見たことがなかった。蓮華のもとに来たのは雪凪家と蓮華が懇意の仲という縁から武者修行のためと聞いている。


 四賢族はリベラシオンとは違う道から霊術に辿り着いた者たちのことだ。

 人為的に生み出された奇跡の力、彼らの霊術は原型が同じでも発展が異なっていた。リベラシオンがソーサルの抹殺、つまりは憎しみを起源としているのに対し、四賢族は自身と向き合う為の研鑽なのである。

 技術は同じでもアプローチが違うことによって四賢族の使う力は『顕現術けんげんじゅつ』と呼称されていた。

 

 原理は同じなのだから名前も同じにすればいいのだが、賢族は霊術師を野蛮として忌み嫌っているところがあった。憎悪が起源の力は悪とでも思っているのかもしれない。

 そんな関係性があるにも関わらず、真澄が何故霊術師を、ましてやソーサルである蓮華の元で霊術を学んでいるかは謎の一つである。

 それも真澄にはどこか雪凪家の話をするのを避ける節があることから、これまで聞くことが憚れたのだ。


 こうして話題に上がっても真澄は雪凪家の話を広げようとしない。気にならないというわけではないが、深く尋ねて見ようとも思わなかった。

 人にはそれぞれ事情がある。祥介にもあるように、真澄にもきっとあるのだろう。

 祥介は当初の話題に戻すことにした。


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