恋愛脳の勇者パ-ティから追い出された(逃げた)俺が舞い戻る羽目になった話をしようと思う

ラズベリーパイ

第1話

 俺、ハロルドは魔法使いである。

 もっとも魔法使いといっても色々な分野があって、一部は神殿の総ろいょたちと治療などの共同研究をしていたりもする。

 そんな俺は、自画自賛になってしまうが、すべての分野に優れた魔法使いだった。

 だがそれは逆に突出した才能がないことを意味する。

 “神童”と呼ばれていたころからもそうだったが、世の中には凄い人が沢山いて、まだまだ俺の手の届かない人が沢山いると知っている。

 そういった憧れもあって幾つもに手を出してみたが、結局の所その人達の所まで手が届かずにいた。

 だから、一つに絞ろう、そう俺は決めた。

 選んだ分野は、睡眠などの状態異常と呼ばれる“魔法”を解除する、といった分野だ。

 戦闘や病気の回復といった“花形”分野ではないそこを俺が選んだのは……俺の体質のせいだった。

 そう、生まれ盛った俺の体質、“祝福”と呼ばれるものが、“全ての状態異常無効化”。

 この体質も利用して何かや下れないかと思って研究していた俺。

 そんな俺がたまたま野外で魔物との戦闘をした時に共闘したのが、俺よりも二つ年下のレイスだった。

 まだあどけなさの残る14歳の少年だが、彼は見事魔物を倒しきった。

 一緒に戦闘した俺は彼の才能にある種の嫉妬のようなものや羨望を覚えつつも、その近くの村の人達を守るといったような高潔な精神にある意味で魅了された。

 夢見がちだと言われそうだが、魔法に関しては冷静冷徹合理主義(だと思う)な俺でも英雄の物語には幼い頃憧れたものである。

 そんな彼が勇者に選ばれ魔王討伐の旅に出るため、パーティを防臭していて俺が指名された。

 それをすぐ近くで見たい、そう思ってしまった。

 だから俺は休職届を出して勇者パーティに参加したのである。

 事情が事情なだけにすぐにそれは受け入れられた。

 ちなみに勇者パーティは幾つもあり、他のパーティからもお誘いがあったが俺はレイスのパーティに決めた。

 俺は、今でもその選択は間違っていないと思っているし、後悔はしていない。

 だがこれまでの行動に関しては、俺自身も悔いる部分が幾つかある。

 そう思いながら、目の前の、今までで一番傲慢そうな顔をした勇者レイスの顔を見る。

 彼は俺に向かって唇を弧に曲げて喜悦の笑みを浮かべながら、

「ハロルド、お前はこのパーティから出ていけ」

 そう告げた。

 予想はしていたが、実際に言われるとやはり傷つくと思いながら俺は、

「分かった」

 そう答える。

 その瞬間レイスが珍しく悲しそうな顔になったが、俺は振り返らずにその場を荷物を持って立ち去る。

 仲間の僧侶であるランディや、援護が主な弓使いリコが俺に声をかけてくるが聞こえなかったふりをして部屋を出る。

 出てから、事前にこっそりとっておいた隣の部屋に入り込んで椅子に座ってから、

「さあ、これからが大変だ」

 そう俺は呟いたのだった。


 なぜ俺がこんな風にパーティを追い出され、そしてこれからある行動をとろうとしているのか。

 これにはある事情がある。

 魔王討伐に向かった俺達だが、順調に魔王の城に向かっていた。

 段々に強くなる敵。

 それでも俺達は戦い続けて、“仲間”としてのきずなを強めていったと思う。

 お互いの隠れた趣味や過去なども分かち合いながら、結束を強めていった。

 だが、そんな俺達の前にある……本人は四天王のオリオンと名乗っていた魔王の配下である魔族との戦闘があった。

 四天王というだけあってその強さに俺達は苦戦してあとちょっとのところまで追い詰めたのだ、

「やはり魔王様が懸念した通り、お前たちは危険だ。この呪いを受け入れるがいい!」

「「「「!」」」」

 という事があり俺達は呪われた。

 特に勇者は前線に出ていたため、一番呪いの効果が大きかった。

 ちなみに俺は体質のおかげで大丈夫だったのだが、その呪いに焦ったせいで俺達はその魔族を逃してしまう。

 しかもこの呪い、俺でも僧侶のランディでも解けなかった。

 だから徐々に調べて解いていこうといった話になるが……。

 この呪いの効果は、


・元からある性癖と新たに目覚める性癖の増幅

・“恋愛脳”になる


 の二種類だったのだ。

 そのために気づけば、弓使いのリコはもともと過去の出来事から男性が苦手で百合に走っていたが、俺達とパーティを組むことで男性に耐性が付いたためにちょっと大きな町でナンパされるとすぐについていきそうになるチョロいヒロインになっていた。

 そして僧侶のランディは、俺自身が淡い恋心を抱いていたのは置いておくとして、実は隠れて男同士のそういった小説を読み漁っていたそうだが、とうとう現実の男たちをカップリングし始め、リコや勇者のレイスに新たな“性癖”と、どんなものでも“恋愛”に見えてしまう“恋愛フィルター”を広めてしまった。

 そして一番ひどかったのは勇者レイスで、魔物に攻撃されたり他にも何らかの形で人に暴言を吐かれるのに快楽、つまりマゾ性癖に目覚めたかと思うと、けもの耳の女の子が最高だ、それ以外は彼女にしたくない(ちなみにこれまでレイスは彼女がいたことがない。かわいらしい少年の見た目で、どちらかというと中性的な美形だからだろう)と言い出したり、女体化したいと言い出したり女装をしだしたり(見た目完全に美少女で、僧侶のランディが萌えすぎて、もだえ苦しんでいた)、恋愛関係の話ばかりになっていた。

 そんな中で呪いに耐性があって大丈夫だった俺は必死になってサポートをしてきた。

 この呪いもどう解けばいいのかと悩んで解析も繰り返してきた。

 だが……やがて俺はあることに気づいた。

「恋愛の話やら何やらで、訓練や修行やらが全然進んでいない」

 そう、勇者たちがこうなってから全くと言っていいほど戦闘訓練をしなくなってしまったのである。

「“恋愛脳”になると人間が怪しい行動をとるとか、ハニートラップはいい例だが……まさかこうやって勇者パーティ内をダメにして、力を奪う“魔王たちの策略”だったのか!?」

 衝撃の事実に気づいた俺。

 確かにこうすれば勇者パーティは無力化できる。

 それもレイスのような有能な勇者を!

 なんてことだと俺は恐れおののいた。

 速球に何らかの対処をと考えた俺は、俺がサポートを止めれば、全員が甘えられる人物がいなくなるので頑張るのではないかと考えた。

 おりしも新たな性癖に勇者レイスは目覚めたらしく、どうも口で暴言を吐くというS嗜好に目覚めたらしい。

 というわけで前後の会話からそうなるように誘導して俺はパーティを抜け、現在彼らの隣の部屋に入り込み……レイス達の話を聞くことにした。

 気づかれないよう魔法を使い耳を澄ませていると、レイスの声が聞こえた。

「どうしようどうしようどうしよう、ハロルドが怒って出て行っちゃった!」

 涙声になっているレイス。

 事情が事情なだけに何となく罪悪感が俺の方にも湧いてくるがそこでランディが、

「だ、大丈夫ですよ。ハロルドは勇者様であるレイスが大好きですし」

「……本当?」

「そうですよ。でなければあんな風に身を挺して庇ったり……そんなの、絶対“友情”を超えています!」

 などとランディが断言した。

 どことなくランディが興奮しているのが聞こえる。

 何故そちらの方に話を持って行った、と俺は思うが、だがまだレイスはそちらの方の性癖には目覚めていないはず、と思ったのだがそこでリコが、

「そうですよね。最近ハロルドさんのレイスさんを見る目が、弟分を見るものよりも情熱的な気がしましたし」

 リコがため息をつくようにそう言いだした。

 お前は何を言っているんだ、と俺は心の中で思った。

 だがここにはツッコミ役はおらず、更に話は加速していく。

 そこでレイスが、

「次に会ったら謝ろうと思う。やっぱり変な性癖が出ちゃったみたいで、暴言を吐いた時の悲しそうなハロルドの顔も僕、ぞくぞくしちゃって、普段皆が見ていないハロルドの顔を僕だけが知っているのかと思うと……」

「それはもう、“恋”ですね!」

 僧侶のランディが、まるで夢見るような声で言いだした。

 黙れこの生臭僧侶、すべて恋愛に結びつけるな、俺は、俺は……ランディの事、ちょっとかわいいかなって思っていたんだぞ!?

 そう心の中で叫びながら俺は頭を抱えていると更に、今度はリコが、

「そういえば、ハロルドは他の勇者パーティからも誘われたらしいけれど、レイスを選んだらしいですよ」

「そうなの?」

 レイスがリコに聞いている。

 一愛何処でそんな情報を仕入れたんだと俺が恥ずかしく思っているとそこでリコが、

「つまりレイスに出会った時から秘めた思いを持っていたと、そういう事ですね! そう、純粋な、性別を超えた“真実の愛”」」

「そうなのかな?」

「そうです」

 そうリコが答えている。

 それを聞きながら俺は、リコ、お前もかと心の中で叫ぶ。

 するとそこでレイスが、

「でも二人ともいいの? 二人共ハロルドが好きなんでしょう?」

「私もハロルド好きですよ」

「私もです」

 レイスの問いかけにランディとリコがそう答える。

 えっと俺は一瞬ドキリとするが、そこでランディが、

「だから三人でハロルドは私達のものにしちゃいましょう、どうでしょう」

「それは名案かも!」

「うんうん」

 といったような話になってその後は食べ物の話になっていた。

 今の話を聞いた限り、おそらくは呪いの効果もあって、どうやら好意=恋愛感情に強化されてしまうらしいと俺は推測する。

 そしてツッコミ役がいなくなった瞬間に、ボケは世界の果てまで暴走する、というのを俺は知った。

 今までそういった変な風な方向に話がいかないよう止めていたのだが……放置するとここまで話が飛ぶらしい。

 好意は多分俺にみんなあるのは分かった。分かったのだが、

「あいつら、絶対に“大丈夫じゃない”」

 なんて恐ろしい呪いなんだと思う。

 あれはもう“狂気”の世界だ。

 見ている正気の俺が“狂気”に引きずり込まれてしまう。

 早く、早く何とかしなければ。

 俺が見たかったのは英雄譚であって、こんな色物じみたコメディではない。

「絶対に許さないぞ、絶対にだ」

 決意を新たに怒りと憎しみを込めて俺は、そう一人誓ったのだった。


 それからの俺は陰ながら、レイス達勇者パーティを手助けすることに。

 俺の姿を確認できないようにして、いや……俺がやっぱ理戻ってこないのを見てパーティの三人がすごく悲しそうなのは、罪悪感が積み重なっていったが、すぐにレイスがいつだって戻ってこれるよう、ハロルドが戻ってきたときに褒めてもらえるよう頑張るぞ、と言い出して頑張りだしたのは良かった。

 だが呪いによりおかしくさせられていて練習を怠っていたつけはすぐに戦闘で明らかになった。

 俺の危惧していた通り、明らかにレイス達は弱体化した。

 そんなレイス達を時に陰ながら援護し、時に変装して導きつつ情報収集をし……なんとなく、一緒にいてサポートした方が楽なんじゃないかと思い始めた頃(別れて一週間後)。

 それは現れたのだった。


 以前の俺達に呪いをかけた敵オリオンが現れた。

 魔法使いとしての援護がないレイス達には、誘導して以前の力に戻したが俺の援護が足りないとやはりきついらしい。

 だから頃合いを見て俺は駆けつけて、レイス達と一緒にその魔族を倒した。

 そしてこの呪いをかけた魔族を倒したから解除さっると思いきや、

「愚かな、一番危険な勇者ぱーていのお前たち専用の呪いだ。魔王様直々のものだ!」

 との事で俺達の呪いは解けなかった。

 早く解除しなければと俺は思っていたがそこで久しぶりに直接会ったレイスが俺の方に来て、

「本当に助かりました。そして以前の暴言は謝ります。ごめんなさい」

「いや、まあ……うん、俺も大人気なかった」

「本当ですか! じゃあまたパーティに戻ってくれますか!」

 とレイスが言う。

 なんでもさっそうと助けに入ったことで、更に俺の大切さがわかったとかなんとか言っている。

 だが俺は知っている。

 そんな事がなくてもレイス達は俺の帰りを待っていたのを。

 俺は罪悪感が更に胸にじくじくと刺さる。

 そこで集まってきたリコとランディ。

 ちなみにこの三人は全員俺よりも背が低くて俺を現在見上げるような形になっている。

 と、レイスがそこで、

「それで今度からハロルドを、“お兄ちゃん”て呼んでもいいですか」

 などと言い出した。

 待て、今度は何の性癖だと俺が困惑していると今度はランディとリコに、

「勇者様ずるいです。私も呼びたいです」

「私も」

 などと言い出した。

 確かに俺は一番年上だった。

 16歳だが。

 違う、そうじゃない。

 そうじゃなくて、だが向けられる好意を全否定出来る人間はどれほどいるだろうか?

 ちなみに俺は無理だった。だから俺は、

「うわぁあああああああ」

 悲鳴を上げてその場から、全力で逃走するしかできなかった。


 そんな俺達が魔王を倒して呪いがとけるもさらなる困難に見舞われるのは、それから一月後の事だったのだった。


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