第16話 016 葡萄畑の村と依頼


 「見えたぞ、村だ」

 一度、戦車を停めたマンセルがコチラに向かって叫ぶ。


 小高い丘の上から見下ろせば、人の手が入っているであろう草木が整然と並び、その先に有るのが農村なのだろうと、遠目でわかった。

 

 「見た感じ葡萄の木かな?」


 「そのまんま葡萄ですよ……収穫は夏から秋までですので終わったばかりって感じですかね」

 マンセルが答えてくれた。

 完全に世間知らずのお坊ちゃんだと思われている。

 確かにここでは世間知らずでは有るが、お坊ちゃんではないぞ。

 

 「新鮮なのは無理か」

 見た感じ、もう実は見えない。

 「なら、ワインか干し葡萄は買えるかな?」


 「戦車長はお強いんで?」

 無いグラスをクイッと口に。

 

 「いや、俺は飲めない」

 笑って。

 「誰かさんの分だよ」


 「ああ、ならワインじゃなくてウオッカが良いですね」


 「ウオッカ?」


 「葡萄で造るウオッカは美味しいんですよ、ワインなんて勿体無い……ありゃジュースだ」


 「ウオッカって葡萄でも出来るんだ、小麦だと思ってた」

 少し驚いた。


 「小麦のも旨いですけどね」

 

 成る程……マンセルが言う旨いは、酒の度数の強さか。

 「有るといいな」

 適当に返事を返した。

 

 「有るでしょう」

 無いと困ると、そんな顔なのだろう。

 もう喉が、それに成ったか?

 「干し葡萄は……酒の当てには甘過ぎますがね」


 「それは子供達のオヤツだよ」

 それを聞いた子供達は笑顔が増した。


 「オッとそれは失礼」

 そう答えて、戦車に引っ込んだマンセル。

 すぐに進み始める。


 

 程無く、村の中心に辿り着いた。

 とは言っても、店が一軒在るだけなのだが。

 それ以外は、民家がポツポツ。

 それらの建物は石とレンガで造られていて、外壁には所々に苔と蔦が張り付いている。

 大小は有るが同じ造りだ。


 戦車を店の前に止めて

 中を覗いて見た、雑貨屋の様だ。

 商品で有ろう細々した物が壁やら棚やら床にまで溢れている。

 農具で有ったり、家事具で有ったり、工具で有ったり何でも有りの様だ。

 ただ、それらはみな埃を被って白く成っていた。

 

 「食べ物は……無さそうだな」

 思わず呟く。


 それを聞いてガッカリとする子供達。

 

 「有るよ……」

 ソコに店の奥から声がした。

 おばさんが出てくる。


 「食べる所は無いの?」

 一番小さい丸い耳の子が聞いた。

 

 「食堂は裏だよ」

 そう言って店の奥を差す。


 雑貨屋と繋がって居るようだ。

 どこかの田舎の道の駅のような感じか。


 ぞろぞろと奥に進む。

 ソコには大きな十人掛のテーブルが二つ有った。

 俺達は十一人。

 一番小さい子は猫耳の膝に成りそうだ。

 それぞれ、木でできたボロい感じの椅子に座る。

 テーブルも椅子も誇りは被ってはいないので、一応は客が入るのだろう。

 

 「何人分だ?」

 奥からダミ声が飛んできた。

 厨房の奥に居るおじさんがシェフの様だ、チラリと見えた。

 

 俺はマンセルを見る。

 イキナリ何人分と聞かれても、メニューも無いのに良くわからん。


 俺に見られたマンセルは。

 「取り敢えず全員で良いですよね?」

 そう、俺に確認して。

 「十一だ」

 奥に居るシェフに告げた。


 「はいよ」

 奥から返事。

 

 「メニューは?」

 何を注文したんだ?


 肩を竦めたマンセル。

 「今日はなんだ?」

 また、奥に声を飛ばす。


 「水羊のステーキだよ」

 雑貨屋に居たおばさんが、水とコップを持ってやって来た。

 「水は何人分?」


 水を聞くのか?


 「十人と……俺は酒をくれ」

 ああ……そう言う事か。


 「はいよ」

 おばさんもシェフと同じ様に返す。

 夫婦か?


 「メニューはその日に決まる、一品だけってのは田舎じゃあ良く有るのさ」

 マンセルが教えてくれた。

 「その日に仕入れたモノがそのままってこった」


 成る程……。

 何時来るかもわからない客にはそれが合理的か。


 程無く。

 大皿に大きな肉が何枚か重て出されて、横にナイフ1本とフォークが十一本を適当に置いていくおばさん。

 その時、ジロリと目が光る。

 あまり好感の持てないような視線で娘達を値踏みして去っていく。

 見られた方の娘達、花音以外は縮りこまり俯いていた。

 

 「獣人と亜人は……仕方無いさ」

 そう言って溜め息を吐くマンセル。


 亜人はドワーフの事なのだろう。

 

 「差別か……」


 「そんなに生易しく無い……迫害ってヤツさ」

 

 マンセルを見た。

 「酷い事でもされたか?」


 「俺達、ドワーフはまだ良いさ……技術が有るからそこまで露骨じゃない」

 チラリと娘達を見て。

 「獣人は……良くてもペットとして可愛がられるくらいのものだ」


 「悪ければ?」


 「そんなの……収容所送りさ」

 首にナイフを当てる素振りを見せて。

 「殺処分だな」


 それを聞いてビクリと体を震わせた娘達。

 完全に固まってしまった。


 「お前達は大丈夫だよ」

 フォークを各々に配り。

 「ほら……食え」

 

 それに合わせてマンセルが肉を切り分ける。


 「食ったら、服を買いにいこうな」

 俺も声を掛ける。

 皆、盗賊達の所で着せられていたボロ布のような物を纏っていた。

 この格好も、色眼鏡で見られる原因でも有るだろう。

 

 「ついでに……風呂もな」

 マンセルも、娘達の汚い格好を気にしていた様だ。


 そこに三人の男達が現れた。

 先頭に肥った親父。

 一歩下がった両脇に痩せた若い男達。

 

 客か?

 俺達以外にも客は入るのか。

 等と、考えていると、その男達は真っ直ぐに俺達のテーブルに来て。

 「外の戦車はお前達のか?」

 そう尋ねる。

  

 「そうだが……邪魔だったか?」

 マンセルが立ち上がり掛けた、邪魔なら動かそうとしたのだろう。


 「いや、そうではない」

 肥った親父がマンセルをせいして。

 「仕事を頼みたいのだ」


 「仕事?」

 いぶかしむ俺。


 「ワシはこの村の村長なのだが……代表してのお願いだ」

 肥った親父は村長だった。

 「魔物の討伐をお願いしたい」



 村長が言うには、最近夜に成ると魔物が畑を荒らすそうだ。

 一応は村人総出で撃退は出来て居るのだが、それも追い払うのが精一杯で根本的には解決出来ていない、と。

 

 「で、ソイツを倒せば良いのか?」


 頷いた村長。

 「報酬は弾む、この村は見た目と違って裕福な部類だ、結構な額を払える」


 裕福とか……それを自分で言うのか?

 その割りには、ショボい店が一軒しか無いが……。

 まあ良いか。

 と、カードを差し出した。

 

 それに村長は。

 「成功報酬でお願いしたい」


 「契約はしないのか?」

 マンセルが口を挟んできた。


 「契約はもちろんしますとも」

 そう言いながらに、懐のカードを差し出して俺のカードに当てた村長。


 その自分のカードを確認してみる。

 仮契約¥1,500,000-と成っていた。

 内心ビックリだ、金のやり取りに絡めば契約も出来るのか。


 「魔物の脅威が無くなれば支払われます」

 頷き。

 「それで宜しいかな?」


 宜しいも何も……もう契約はすんだのだろう?

 頷いてカードをしまう。

 しかし便利なカードだ。


 「魔物は夜か……少し時間を潰さないといけないか」

 何とはなしにの呟きに。


 「お買い物?」

 肉を頬張った花音が目を光らせた。


 「買い物って言っても、何も無いんじゃあないか?」

 マンセルが入ってきた方の埃まみれの商品棚を指差す。

 「ガソリンが欲しかったんだがな……」


 「有りますよ」

 少し離れた位置に居たおばさんが答えた。


 「有るのか!」

 驚いたマンセル。

 

 そして、俺も驚いた。

 この村にガソリンを使うような乗り物は無いと思っていた。

 実際にここまでで見掛けていない。

 何処かに車か……いやトラックか? が、しまい込まれて居るのだろうか。

 まさか、戦車の為にでは無いだろうし。

 そんなモノを持っているなら、俺達に魔物退治は頼まない筈だ。


 「じゃあ、俺達は馬車でのんびりと夜を待つか」

 そう娘達に告げたのだが……もう既に夕暮れ時だ。

 そんなに待たなくても良さそうだ。

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