第14話 014 異世界


 マリーがネクロマンサーにゾンビにされた者である、とは理解できた。

 だが、それ以上に引っ掛かるモノが有る。

 それはコピーと言う言葉。

 空間事コピーされたものが転生者?

 コピーなら……オリジナルも有るのか?


 『それは……正解』

 

 ならば、今の俺はコピー。


 『元の世界にはちゃんとアンタのオリジナルが生活して生きているわよ……何事もなく、何が起こったかなんて気付かずにね』

 

 それじゃあ……帰れたとしても……。


 『そうよもう別人、同じ人間が二人は有り得ないし元の世界がそれを許してくれないでしょう? うまくオリジナルと合成出来ても今度は記憶の重複に悩む事に成る……世間ではそれは二重人格、分裂症、つまりは病気と見なされて生きていく上で支障を来すことに成るわね……別れた時点で別人格なのだから』


 花音を連れて帰っても……。


 『母親には会えるでしょうけど……その母親は花音を自分の子として認めるかどうかは……疑問ね』


 二人の花音を見た母親。

 もしくは、人格の壊れた様に振る舞う娘を見た母親。

 ……。

 帰れないじゃないか……。


 『諦めた方が懸命ね……私も爺いも一度元の世界に帰っているの……でも、居場所が無かったのよ、だからまたコチラに来たの』

 溜め息の音。

 『それでも戻りたいなら、力を貸すわよ……保証はしないけど、色々と……』


 俺、自身は別に生きていければ何処でだって構わない。

 元の世界でだって、いつ転勤だって言われてもそれは飲む積もりでも会ったのだし。

 親兄弟は……それこそどうでも良い、既に独り立ちしている、独立している。

 会えなくなるは、俺には些細な事だ。

 だが……花音は?


 『些細な事って……アンタ……』

 少し間を開けて。

 『その事は時間を掛けて、良く考える事ね』

 

 俺の心の奥でも覗いたか?

 まあ……構わないが。

 ……。

 しかし、帰れないと為ると、やはり不味いぞこの状況は。


 『仕事は有りそうじゃない、戦争屋でもやれば?』


 正式な軍人じゃないのに給料が出ないだろう?


 『じゃあ……冒険者か傭兵ってのは?』


 金に成るのか?


 『それは、アンタ次第じゃない? どちらにしてもソコソコの大きさの町に行けばギルドが有るわよソコで探してみればどう? 流しの冒険者でも良いけど、その都度、誰かに依頼を貰ってってヤツ』


 それは……その日暮らしって事か……。

 

 派遣のアルバイトと変わらん……いや、そもそも派遣がギルドなのか。

 頷いてみる。

 理屈は同じかもしれない。

 派遣なら学生の頃に経験も有る。

 手っ取り早くならそれが一番か、今なら戦車の持ち込みも出来るだろうし。


 戦車と言えば。

 チラリと幌の隙間から見えるそれは、第二次世界大戦中のドイツの戦車だろう?

 背中の銃もそうだし。

 パイプだけに成ってしまったがファウストパトローネの残骸もと腰に挟んでいたモノに触れる。

 何となく手放せないでいるのだ、これの記憶のお陰で助かったのだし。


 『それは、時と空間の勇者のせいね』


 あの殺人鬼か?

 

 『アレもうそうだけど……もう一人居るのよ、時と空間の勇者が』


 いや、勇者は二人は存在出来ないと今さっきに……。


 『正確に言うと河津……殺人鬼の方は元時と空間の勇者、勇者の特性の一つに他の勇者の能力を奪うってのが有ってね、それをしまくったせいで自分の能力が変質してしまって別のモノに成ってしまったのよ……出来る事は変わらないのだけどね』


 じゃあ、他にも?


 『元は転生者なのだけど……一度元の世界に戻って帰ってきたのよ、それが召喚と同じ効果を産んだ見たい……だけど、少しばかり問題が有ってね』

 言い淀む。

 

 その方法だと俺もネクロマンサーに成れるのか?

 

 『その者が元の世界に戻ったのは十歳の時、コチラに帰ってきたのは十七歳に成っていた……その間に元の世界で何が有ったのかはわからないけど、心が壊れてしまっていたの、今は完全に魔王ね』


 リスクが有るのか。

 それはわかった。

 確かにネクロマンサーは俺の上位スキルでは有るのだろうが、そこまでして欲しいとは思っていない。

 そもそもがネクロマンサーをわかっていないのだし。

 今わかるシャーマンでじゅうぶんだ……これ以上ヤヤコシイのは御免だ。


 『で、勇者にはそれぞれに欠点と言うか弱点が有るのよ……強すぎる能力の見返りみたいなものね』


 それがどう関係が?


 『時と空間の勇者には、膨大な魔力が有るのだけど……一部では有るけど元の世界をコチラにコピー出来るだけのね、で……その魔力を補給する方法が、自分が転生させた空間、その場所で生きている物を殺さなければ行けないの……例えば転生者だとか』

 

 息を飲む。


 『魔物でも構わないのだけど、転生した空間に魔物が発生するには時間も掛かるし、何より転生者よりも手強くなる……因みにその転生した空間はこちらではダンジョンの一種と成っているのよ』


 あの時の地下鉄の駅……。

 ダンジョンだったのか。


 『で、新しい方の魔王は第二次世界大戦中のヨーロッパを転生しまくっているのよ……本来は見た場所、自身の縁の有る場所しか転生出来ない筈なのに、日本人で現代人の今の時と空間の魔王はそれが出来てしまうのよ……理由は、わからないはそれは聞かないで』

 

 だから、そんな時代のモノがコチラに有るのか。


 『それと、もう一つ謎なのが……その転生された物が動くの……本来、魔素とは関わりの無いそれらが、魔素の支配するこちらでは動く筈もないのに』

 

 ふと思い出してポケットを探る。

 鉄道時計、懐中時計のそれの秒針は時を刻んでいる。

 動いている。


 『それは、アンタの力ね……ネクロマンサーは魂を操る能力、それは物の魂も一緒……多分、アンタのシャーマンの能力は少し普通のシャーマンとは違うのでしょうね、もっとネクロマンサー寄り?……本当は河津の造るダンジョンでは物は動かないのよ』


 河津? ああ、あの殺人鬼か。

 確か、そう呼んでいたな。

 まあ、ややこしく為る物は動かせないに限る……俺が河津の立場ならそうする。

 車でもその他の道具でも、それを使って返り討ちにはされたく無いだろうしな。


 『成る程……そう言う理由でか……』

 マリーが、何か考え込み始めた様だ。

 『普通に転生させれば、動くのね……盲点だったわ、逆の発想をしてしまっていた、人や魔物が普通に動くのに最も単純な物が動かないだなんて……』

 

 俺には異世界で普通に喋れて居る事の方が不思議だがな。

 ドワーフとか獣人が日本語? そんな筈も無いだろう。


 『それは簡単よ、転生の術式に元の世界と異世界の差異を無くす為の物がはいっているの、でないと転生された瞬間に魔素の毒で死ぬわ』


 魔素は毒なのか?


 『全てのモノに干渉するのよ、もちろん人の細胞にだってね、元から魔素の存在の無いモノには毒にしかなら無いでしょう』


 その中の翻訳の何かが混ざっているのか……。


 『アンタ……なかなかに賢いのね、適応力も有りそうだし……案外、ここでも長生き出来るかもね』


 そう、生きるだ。

 異世界の成り立ち何てどうでも良い。

 今、必要な疑問も、大体は無くなった。

 俺はここでも、元の住民と違わずに居られる。

 そして、それはここの住民と同じ問題も抱える事に成る。

 どう生きるか。

 どうやって生きぬかだ。

 そして、この事を……どう花音に伝えるかだ。

 元の世界に帰れる事を期待している……そんな花音に。

 ……。

 

 『もう、私に用は無さそうね』


 俺の頭の中を覗いて、俺の考えが自分に出来る事から外れて来たと、そう思ったのだろう。

 確かに、今は他に聞きたい事の整理が出来ていない。

 わからない事に出合えばその都度に聞くとしよう。


 『で、その手の中のモノ……返して』


 手の中のクシャクシャなハンカチを見る。

 ふと、拡げて見てみた。

 ……。

 パンツだった。



 さてと……目線を上げる。

 ジと目の少女達。

 俺と精一杯の距離を開けている。

 あれ?

 ……。 

 あ!

 慌ててパンツを丸めてポケットに放り込んだ。


 「花音……ハンカチじゃあ無かったぞ」

 責任を擦り付けなければ、俺の人格が決まってしまう。

 

 「ヘンタイ……」

 花音の容赦ない一言。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る