第13話 013 獣人の奴隷少女達
敵戦車の爆発に驚いてしまった。
それは、俺だけでは無い。
花音も……。
親父も……。
国防警察軍の少女司令官も……。
いつの間にか側に居た、捕らわれていた少女達も……。
揃って首を引っ込める。
「スペクタクルだ……」
花音が呟いた。
「花音ちゃん……なにそれ?」
少女達の中で少しだけ背の高い一人が花音に話し掛けている。
同じ囚われの身で仲良くにでも成ったのだろう。
子供は友達を作るのが早いと、少し感心。
「司令官……この子達を家まで送り届けてやってくれないか?」
それで貸し借りは無しだと、そう言いたかったのだが。
どうも様子がおかしい。
少女達は目を伏せている。
司令官は考え込んで唸る。
「戦車長……ボケてます?」
親父がぼやく。
「この子達に親は居ませんよ……たぶん売られたか、殺されたか」
「何故?」
それがわかると、言いたい。
「良く見てください……その子達は獣人の子ですよ」
良く見れば、頭に獣耳……尻尾も見える者もいる。
「今は、獣人は奴隷の立場で無いと町にも入れないそんな時代です、それがここに居ると言う事は誰かの奴隷だったか……」
親父は一息を吐き、続けて。
「隠れ住んでいた家族事拐われたか……でしょうね」
「そうなのか?」
花音に話し掛けた背の高い、獣耳……猫耳か? に、問う。
それに静に頷いた、猫耳娘。
「うーん……」
少し悪い事を聞いてしまったようだ。
そして、困る。
困り事は司令官に押し付けよう。
「では、この子達の保護を頼みたい」
え! と、驚く少女司令官。
「何だ? 不味い事でも有るのか?」
どう足掻こうが押し付けてやる。
異世界人の俺にはどうする事も出来ないのだし。
「不味いと言うか……」
言い淀む司令官。
「もう……既に貴方の奴隷だ」
「なに!」
目が見開いた俺。
「何故? そうなる?」
慌てる心。
「貴方が言った、全てが俺のモノだ! と……」
初めて会った時か!
「確かに言ったような気はしたが……だが、何故にそうなる」
「確かに言っていたよな」
親父も横で頷いていた。
「だからその言葉どうりに、奴隷の譲渡契約先を貴方にしたのだが……」
「奴隷契約の譲渡?」
「奴隷の持ち主は盗賊の頭目に成って居たので、その頭目が逮捕されれば法律上、奴隷は中に浮いてしまう……だから」
そんな事を聞いているのではない!
それが何故に俺何だ?
いや、確かに言ったが……。
完全に慌ててしまっている。
「契約をしちまったのか……まあ、確かにさっさと契約しとかないと後が面倒だもんな……獣人だし」
親父も何を言って居る。
「権利の失効後は速やかに委譲を完了しないと……魔法契約的にも不味いので」
親父と司令官が互いに頷いている。
「魔法の契約は絶対だからなあ、今更無しには出来ないか」
「破棄は? 誰かに譲るとか?」
魔法のって何だよ!
「獣人のそれも小さな女の子じゃ……誰も貰い手は無いぜ」
親父。
「奴隷の契約は、譲る相手の承諾無しには出来ませんよ」
司令官。
そんな……。
じゃあ……。
奴隷の少女達を見る。
数えれば八人も居る。
これを全部?
「しかし、貴方は凄い人なのに……少しばかり世間が……」
言い淀む司令官。
「それはワシも感じていたのだが……戦争屋だからだろうな……」
成る程……と、二人して頷いていた。
どうやら俺はこの二人から見て、馬鹿と天才は紙一重のその代表例にされた様だ。
「宜しくお願いします」
奴隷少女の猫耳が代表したのだろう。
そう俺に声を掛け、それを合図にか全員が頭を下げた。
俺は戦車の引く馬車の中に居た。
奴隷少女達と花音と一緒にだ。
司令官がその人数の移動は大変だろうと、盗賊達の幌馬車を譲ってくれたのだ。
それは確かに有難い……が、そんな事はどうでもいい。
問題はこれからどうするのかだ!
こめかみに汗が伝う。
この子達を俺が面倒を見るのか?
小さい子は花音よりも下か?
上は猫耳娘、それでも十歳ぐらいでは無かろうか。
やはり不味いぞこれは。
ポケットからハンカチを取り出して汗をぬぐう。
養っていけるのか?
『……なにがよ?……』
突然に頭に響く声。
聞き覚えが有る、確かマリー?
手に握られたハンカチを見詰めた。
『……アンタ、それ……返しなさいよ』
花音を見た、黄色い鞄を斜めに掛けている、気に入って居るようだが仕方無い。
『鞄だろ? 黄色いの……返すよ』
そう念じる。
『違うわよ、鞄はあげるわ……返して欲しいのはアンタが持っているそれよ』
もう一度、手の中を見る。
握ってクシャッと成ったハンカチ。
これじゃあ無いよな?
こんな布切れに何かの価値が有るとも思えないし……。
あと……俺が持っているものでマリーが知っているものと言えば……何がある?
……。
『シャーマンの能力?』
確か花音が錬金術師のスキルを貰ったとか、そんな事を言っていた。
俺も知らずに貰って居たのか?
『ああ、自分で気付いたのねその死人と話せるスキルに……』
『この能力は……返せない』
今のこの状況をナントか出来るのはこの能力ぐらいだ……これでドウニか稼がねば。
……八人の子供達……いや花音を入れれば九人か? その上戦車と親父も……。
『大変そうね……でも自業自得よ、私達から逃げたんだから』
あれ? 心の中が通じている? 心の中で念じて会話にしていないのに。
『アンタ……器用ねそんな事をしていたの? 無意味だけど』
え?
『アンタの能力は死人の意識を、物を媒介に自分の心の中に取り込むのよ……だから私にはアンタの心の中が丸見えよ』
何だよそれは結構苦労してやっていたのに……。
『無駄な努力だったわね』
それに不公平だ……俺はマリーの心の中が見えない。
『それも仕方無いわよ……私はゲストだから、アンタが自分の中に私をゲストとして取り込んでいるの、だから私にはアンタの心の中が丸見え、アンタはあたしの意識の表層を見ているだけ……完全に混ざったわけじゃあ無いわ』
成る程……そうなのか。
知識だけだったりもするが……それは何故?
ライターとかファウストパトローネとかはそうだ。
『死んでからの時間じゃあ無いの? 人が死んでその意識が霧散する前か、後って処でしょう? 多分』
その意識が残るってのも……わからなくは無いが、それがスキルで見えるってのも不思議だ。
『それは、そう不思議でもないわよ……この異世界では全てが魔素で成り立っているのよ、その魔素が意識を見えない形で留めているのだと思うわ……魔法の理屈はそうなのだから』
魔法?
魔素?
『そう魔法に形を与えるのには魔方陣と術者の念じる能力……つまりは術者が魔素をコントロールして発動させいるのよ……アンタもその魔素で形に成った死者の心を捕まえているって事よ』
死者の心……。
あれ? おかしいぞ。
今、マリーと話している……マリーも死んだのか?
『ずっと以前に死んでいるわよ』
え!
ついさっき……随分と時間が経ったとは感じているが、まだ1日も経っていないだろうに、別れてから。
って事は……幽霊?
『外れ……ゾンビよ』
マリーが笑った様に感じた。
『さっき全てが魔素でって言ったでしょう、スキルも魔素なの……で、そのスキルってのは希に移るの、風邪のウイルスのように、特に転生者のような魔素に免疫が無い者は簡単に……結構な確率でね』
それが何でゾンビ?
『アンタの最初に触れた……ブツかった爺さんがネクロマンサーなのよ、でそれがアンタに移ったの、でも、ネクロマンサー自体はこの世界に常に一人しか存在出来ないそんな特殊なスキルだから、今のアンタのシャーマンはネクロマンサーのスキルの劣化版ね』
特別なスキル。
『そうよ、特別……勇者って言われるスキル』
一呼吸置いて。
『転生ではなくて、召喚で無いと持てないスキルよ』
またわからないワードだ……召喚?
『召喚はピンポイントで人だけをコチラにはコピーするの、で……転生者は空間をコピーしたそこにたまたま巻き込まれただけなのよ、だから自ずと掛ける手間と術の大きさがまるで違うの、そこに差が生まれて転生者と召喚者は別物に成るのよ』
それは、常に一人の能力の勇者、つまりは今のネクロマンサーが死んだとしても俺はシャーマンのままでネクロマンサーには成れないと、そう言うことか?
『そう言う事よ』
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